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正直わたしは全然気にしてないんだけどな。この時代を生きるのなら、この時代に沿った結婚方法で十分だと思うし。
「世界が滅んだとはいえ、千年前の話じゃないですか。今はもう、島長の血筋が残っているのかも、墓があるのかすら分からないんですから」
崩壊直後の、まだなんとなく建物とかが残っている状態ならまだしも、千年後なのだ。建物なんかはかろうじて遺跡として残っている程度。もしかしたら、わたしたちが今いる研究所が、実は千年前には王城があった場所、と言われてもおかしくないくらいには、わたしが元々生きていた時代の名残はない。
たとえ知識として知っていても、実際にできるかどうかは別なのだ。失われた文化の一つとしてしまっていいんじゃないだろうか。
「ぼくからマレーゼを奪ったくせに、根性が足りない。意地でも探し出せ」
姑か?
「結婚って、本人同士の意思も重要ですけど、周りに周知するのが一番の目的なんですから。この時代の形式でやらないと意味がないでしょう」
わたしは言いながら、今日の分の資料を手に取る。
皆を誰にもとられたくない、という考えが最もしっくりきて、そこから恋を自覚したわたしとしたら、結婚は、妻帯者なんだから手を出すな、という牽制の意味合いがわたしにとっては強い。
なので、たとえ、わたしの時代にそうするものだったとしても、この時代に意味が分かっている人間が少ないのなら、無駄とまでは言わないけれど、あまり必要性を感じないのだ。
「だから、イエリオも気にしないで。もし、そう言った情報を見つけて気になるからっていうなら、話は別、だ、けど……」
イエリオが前文明のことを、結婚とかそういうの関係なしに、そもそもできることはやりたい、と考えるタイプだから、やりたくないとは言わないでおこう、と思って伝えていたのだが、たまたま手に取った資料を見て、わたしはだんだんと言葉がおざなりになっていく。
それに気が付いたのか、イエリオが「どうかしましたか?」と声をかけてくれるのだが、わたしは生返事しかできない。
手に取った文献が、あまりにも興味深くて。
隣に座った師匠が、わたしの手にある資料をのぞき込む。わたしと同じように、すぐにこの文献の意味に気が付いた師匠が、わたしから紙を奪おうとしたが、ギリギリのところでそれをかわす。
「おい、マレーゼ。それをよこせ」
「駄目ですよ。師匠が言ったんでしょう、意地でも探し出せって。――イエリオ、これを」
「お前が探せという意味じゃない!」と言う師匠を抑えながら、わたしは紙をイエリオに渡す。
「これは……?」
「わたしの住んでた隣の島の、島長の墓の場所が割り出せそうなことが書いてある書類」
急に渡された紙に困惑しているイエリオに、わたしはそう伝えた。




