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精霊であるピスケリオが魔法を正しく伝えた。その意味を、全て言わなくても、魔法使いである師匠は察したのだろう。
「わたしがいなくなったのは、わたし自身の失敗だと、言っていました」
師匠は、何も言わない。いや、何も言えないのかもしれない。
彼自身が信じて疑ってこなかった前提が、大きく崩れたのだから。
「わたしが、転移魔法を失敗しただけなんだって、ピスケリオは言いました」
「――……お前は、転移魔法が苦手だったね」
ようやく師匠がしぼりだしたのは、そんな言葉だった。
時間まで超越してしまったのだから、ある意味で凄いとは思うけれど、もう二度と転移魔法を使うつもりはない。次に失敗してしまったときのリスクがでかすぎる。
変な場所に飛ぶくらいならなんとかなるけれど、また時を超えてしまっては叶わない。
「――……本当に、ぼくの希望〈キリス〉で、思考が変わったわけじゃ、ないの?」
師匠も、ここまできたら分かっているだろうに、まだ信じられないのか、それとも、最終確認なのか、震える声で、わたしに問うてくる。
「違います。わたしは――わたし自身の意思で、彼らを選びました」
「この男を、男たちを、愛していると?」
「あいっ――……そうですね。愛しています」
ここまで直接的な言葉にしたことはないので、一瞬ひるんだが、嘘じゃない。師匠に信じてもらうためにも、今、言葉にしないといけないと、思った。
……本当なら、一番に言うのは、彼らであるべきだとは、思うんだけど。
「……なんなら、今、イエリオにキスでもしましょうか? 案外、目が覚めたりして」
「マレーゼ、君はいつからそんな鬼になったんだ? 君に惚れた男の前で、別の男に口づけすると言うなんて」
師匠が、呆れたように笑った。多少、落ち着いたらしい。いつもの彼に限りなく近――あれ、今、なんて言った?
「惚れ……えっ、誰が? 誰に?」
「ぼくが。君に」
惚れた――えっ、特別、って、そういう特別……? てっきり目に入れても可愛くない弟子枠だとばかり思っていた。
「……師匠、女に興味あったんですか?」
いい意味でも、悪い意味でも、他人に関心が薄そうな人だったのに。てっきり恋愛には一切興味がないのだと思っていた。
「君がいるのに、他の女に興味を持つ必要なんてないだろう」
君を探す為に世界を滅ぼしたんだぞ、と言われて、わたしは何も言えなくなってしまった。
こんな――こんな人だったのか。
長年、それこそ、前世の記憶を持ってこの世界に生まれてから師匠のことを知っているけれど、今、初めて知った。




