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「いや、本当にどうしたの?」
尋ねてみても返事はない。毛布を被っているから声が届いていない、というわけじゃないだろう。
イナリさんとのやりとりを思い出してみても、機嫌が悪いとか、体調がすぐれないとか、そういうことではなさそうなんだけど……。
名前を呼んでみても、反応がなくて、少し考え込んでしまう。
うーん、どうしたものか……あっ。
「そう言えばイエリオ、フェルルスって魔物がいるじゃない。あの魔物が魔法を使うんじゃないかって仮説を立てたんだけど」
「詳しくお願いします」
にゅっとイエリオが顔を出した。ちょろいな。
思わず笑ってしまうと、あっ、とイエリオが声を上げた。つい、顔を出してしまったことに気が付いたらしい。
すす、とまた毛布で顔が隠れるが、目だけは出したままで。目線は合わないんだけど。
「――貴女に、合わせる顔がないんです」
「……どうして?」
からかうつもりなどなく、本当に分からなくて聞いたのだが、駄目だったらしい。また頭まで毛布を被ってしまった。
でも、話をするつもりはあるらしい。もごもごと、毛布の中で何か喋っている。声がこもって聞き取りにくいな、と思っていると、急に大きな声でイエリオが「だからっ、貴女にあわせる顔がなくて……っ」と叫んだ。
布団の中からの叫びなので、周りに迷惑がかかるほど騒がしいことにはなっていないが、あんな大怪我をした翌日にそんな大声出して大丈夫なんだろうか。傷に響くんじゃないのか……?
「そんなに大声出して平気? 傷、痛まない?」
試しに聞いてみたが返事はない。これは単純にさっきの延長なのか、それとも傷が痛みすぎて声が出せないのか。どっちだ。
前者だったらいいが、後者だと……。傷が開いていると困るな。
「イエリオ、ねえ、大丈夫?」
少し乱暴にはなるが、毛布をはぎ取る。すると、顔を真っ赤にして、涙目のイエリオと目が合った。
「わ、私にも羞恥心というものは、一応あるんですよ……っ」
えっ、これ毛布戻した方がいいの? 別に毛布の下は裸だった、とかそんなことはなかったけど。昨日のイエリオの着ていた服とは別ではるが、普通のシャツだ。患者用のものだろうか。
何に恥ずかしがっているんだろう、と思うと、イエリオが、絞り出すような声で、言った。
「あんな……死に別れの最期だろうからと、貴女への想いを伝えたのに……っ。死にたかったわけではありませんし、生きていること、助けてくださったことには感謝しています。……でも、それとこれとは話が別!」
恥ずかしい、と今度は手で隠してしまう。そう言えば、散々後でからかってやる、と言ったような記憶がある。
と言え、あれはわたしなりの励ましというか、無事に助けるという意思表明というか、そんな感じのものだったで、本当にからかうつもりはなかったのだが……。
ここまで可愛い反応を見せられるとつい、からかいたくなってしまう。
「えーどうしようかなー」
「駄目ですって! 本当に、誰にも言わないでください! ――っ、いてて」
イエリオが身をよじる。叫んで傷に響いたらしい。これ以上からかうのはやめておこう。傷が開いたら元も子もない。
「これに懲りたら、二度とああいうのはやらないでね。わたしは、イエリオを――あなた達のことは簡単に見捨てないつもりだから。次同じことしたら、それこそフィジャたちにも協力してもらって、飲み会でいじりまくってもらうから」
「……はい」
ならよし、とわたしはイエリオの毛布を元に戻した。まあ、もう隠す必要もなくなったようで、イエリオは普通に顔を出したけれど。まだ少し、顔が赤く、目をそらしたままだったが。
なお、イナリさんと合流した際、安心しきって子供みたいな、それこそべしょべしょに恥ずかしい泣き方をわたしはして、わたしだってあれをからかわれたら相当恥ずかしいが……ずるい人間なので、黙っておこう。




