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倒れ込むイエリオを抱きかかえる。でも、重さに耐えきれなくて、わたしは膝をついた。
イエリオの背中は濡れていて、何で濡れているかなんて、直接背中を見なくても、足元を見ればすぐに分かった。
「なん、で……?」
グリエバルはわたしがさっき倒したばかりなのに。
イエリオの背後に何が、と見れば、また別の魔物がそこにはいた。熊に似た魔物だ。
目の前のグリエバルに気を取られすぎて、他の魔物が近付いてきていたことに気が付かなかったのだ。
「――っ、さ、送電〈サンナール〉っ」
鋭い爪を持ち、体格こそいい魔物だったが、動きが鈍いらしく、あっけなく倒せてしまう。
――気が付いていれば、イエリオが怪我をすることもなかったのに。
わたしの腕の中にいるイエリオは、苦しそうにしているものの、意識はあるようで、薄く目を開けてこちらを見ている。
「……お怪我は?」
開口一番がそれだった。わたしなんかより、ずっと酷い怪我を負っているのに。
「わたしなんかより、イエリオのほうがずっと重症じゃないですか! なんで、こんな……っ」
悔しさと焦りに、涙腺が刺激される。
わたしなんか、庇わなくても。ここまで怪我をしてまで庇ってくれたイエリオに、そうは言えなかったけれど。
でも、もっといいやり方があったんじゃないかって、そう思ってしまう。全然、わたしなんかじゃ思いつかないけど、でも、これが最善だったなんて認めたくない。
「そうだ、しろまる――」
精霊語で書かれた、しろまるを呼び出す為の紙。何かあったときのために、と常にポケットに入れていたのだ。
わたしは慌ててそれを取り出すも――それを横からかっさらう影があった。
「――っ、う……あ、か、返して!」
スパネットである。わたしの指ごと持っていく勢いで奪われてしまう。
原材料が綿や麻であれば、加工された服ですら食べるのだ。羊皮紙ではない、植物紙もまた――彼らの食料となりえる。
怪我を負ったイエリオを抱きかかえ、しゃがみ込んでいる状態では反射的に動けない。奪え返す前に、送電〈サンナール〉でスパネットを仕留める前に、しろまるの宿る紙はスパネットの腹に収まってしまった。
紙を食べ終えたスパネットは、もうわたしたちに用はないとばかりにまた別の植物を探しに行く。
「――っ!」
しろまるのあの紙は、あれじゃないといけないわけではない。また一から作り直せる。でも、今、この状況で、何もないところで作り直すのは無理だ。
絶望的な状況なのに、スパネットが増えだした。しろまるの紙を食べたスパネットがわたしたちを襲わなかったあたり、増えてきたスパネットに襲われることはないだろうが、でも、さっきのこともある。一刻も早くここから動かないと。
「――私を置いて、逃げてください」
ふ、と。イエリオが、わたしの涙をぬぐいながら言った。




