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「ほ、本当に大丈夫? お医者さん、呼んでくる?」
たとえ照れているように見えても、それはわたしの主観なわけで。体調が悪いのなら、フィジャの「大丈夫」を信じないで、医者を呼ぶべきである。退院出来るとはいえ完治したわけじゃないし、なにより高熱を出しても、「大丈夫」と誤魔化そうとした前科があるので。
「ち、違う! 本当に大丈夫だよぉ……。ただ、その、ちょっと……聞いちゃって」
フィジャがわたしの服の裾を、怪我をしていない方の手で引っ張る。ようやく上げた顔は、予想通り真っ赤になっていた。色白なので、分かりやすい。
「聞いた? 何を?」
「その……外で、マレーゼが、揉めてるの……」
「外?」
そうして、わたしは窓から外を見下ろすと、ようやく気が付いた。
フィジャの病室は二階にあるのだが、先ほど、男を殴り飛ばした現場が、この病室からはよく見える。
「ど、どこから……?」
そんなに大声を張っていたつもりはないが、小声で話していた記憶もない。むしろ、苛立ちから、自覚がないだけで声が大きくなっていた可能性のが高い。
「最初のほうは、しっかり聞こえなかったけど、話し声がマレーゼに似てるなって、外を見たら、マレーゼがいて……。絡まれてるようだったから、どうしようって思ってたら、マレーゼが相手を殴るもんだから。……その辺りは、ほとんど聞こえてた」
つまり、フィジャたちは家族だとか、幸せにするだとか、そういう宣言のような言葉を、彼は聞いていたわけなのか……。
そりゃあ、顔も赤くなる。というか、現状、わたしの方も顔が熱い。
面と向かって相談する前に聞かれていたなんて。
「まあ……うん、嘘は、言ってない、けど……」
言ってないけど! もうちょっと落ち着いた状態で話したかったというか。そもそも、二階にいたフィジャへ声が届いているのなら、周りに聞かれていた可能性も……。ひええ、はずかし!
「……期待、していい?」
ベッドに腰かけたまま、わたしを見上げるフィジャの目は、すごく、熱っぽくて。
あの日、フィジャが大怪我をして倒れているのをフィジャの部屋から見る前まで、どう話そうかあれこれ考えていたことは、全て吹っ飛んでしまった。
とてつもなく情けないが、あまりの緊張で言葉が形にならなくて、はくはくと、唇を緩く動かすのが精一杯である。
「あの、あのね……。わたし――」
そう、ようやく言葉を絞り出そうとしたとき――。
――ガララッ。
「フィジャ、退院おめでとうごさいます! 荷物を……お邪魔しました」
入口の扉が開かれ、イエリオさんが立っていた。けれど、すぐに扉を閉められる。勘違い……というほどあながち遠くもない空気ではあったが、何かしら間違った風にとられている気がする。
「うわああ、大丈夫、大丈夫だから! 帰るよぉ!」
フィジャが慌てたように、真っ赤な顔で扉をあけ、イエリオさんを呼びに行った。




