第477話 お前を待ち受ける螺旋地獄
途絶した仲間達の“気”は、考える迄も無く死を意味しているのだろう。
相対したそれぞれは、互いの野望の為に宿敵を滅ぼし合ったのだろう……
彼等の夢は、そんな仲間達と手を取り合って生きられる世界であったというのに……
悲観に暮れた二人の男は、その悲しみを怒りに乗せて――
「ァァァァアアア!!!」
「ギィィグゥァァァァアッッ!!」
空に再び、激しき雷火が滾り合う!!
「ウオオオオオオオアアッ!!」
「…………ッ!!」
湧き上がる情動に重き体を起こしたダルフが、背の白雷を噴き上げながら鴉紋を翻弄している――
「お前さえっ!!」
「……く…………」
「オマエさえ来なければッ!!」
徒にその身を切り刻まれ、神聖の雷炎に炙られ始めた王の姿に、牝鹿の魔物は驚嘆とした声を上げた。
「ナニヲシテイル! ソンナ男ノ斬撃ナド、全テ見エテイルノダロウ!」
「……っ…………」
「何故避ケヌノダ、王ヨ!」
激しき情念に突き動かされたダルフとは対照的に、俯いた鴉紋はその目元より煌めく涙を垂らし続けていた。
「王!!」
「わかってる!!」
「フぐぅァ――ッ!!」
怒り狂ったダルフの猛追を受けながら、炎より這い出した黒き腕がダルフの首を掴み上げる。
「……ぁあ……ッアアア!! 鴉紋ッ!!」
「……」
それでも、振り乱されるフランベルジュが鴉紋の身を刻み続ける。反撃もしない宿敵へと乱心した斬撃を浴びせ続けたダルフだが、途中覆し難い刻の障壁を感じてその手を止めた……
「ぁぁあちくしょうッチクショウチクショウチクショウッ!!」
「……」
「どうしてッ!!」
「……」
「なんで、なんで俺はッ!!」
その場で首を捻り潰す事も出来るだろうに、鴉紋によって手心を加えられたダルフは、漆黒の手によって首を吊り上げられたまま、振り上げた腕を落として落涙し始めた。
「――こんなに弱いッッ!!」
“獄魔”を焼き上げる蒼き炎はやがて収束し、そこに露わとなるのは、皮膚の薄皮を切り裂かれた程度の鴉紋の姿……
悲嘆に暮れているかの様にも見える鴉紋の鋭き視線が、己の無力にむせび泣いたダルフをジッと見つめている――
「……もう俺のこの身では、コイツの肉に届くだけの……力が……」
「……」
「もう二度とッ! こいつに届くだけの力は……ぅっ」
「……」
「こんなに憎んでいるのに……」
「……」
「こんなに心は燃え盛っているのにッ」
「……そうだな」
「あれ程憎んだお前をッ……こんなに目前に見ているのにッ!」
「ああ……」
「俺は……みんな、に……ピーター……リオン……メロニアスみんなの“想い”を、俺は託されて……」
「……」
「願う世界を叶えろと、みんなにこの背を押されているのにぃッ!!」
「そうか」
「あああああああ!!」
眼下で見上げる鴉紋の首筋へと、ダルフは思い切り噛み付いた……
「……」
「フゥウウウ……ぅうううっ」
砕けた歯牙をボロボロと落とし、ダルフは鴉紋の首へと、何度も噛み付いた。
鴉紋はその場を僅かにも動かず、宿敵の最期の咆哮を全て受け止めた後……静々と彼の耳元に囁き掛けた。
「もう……いいか?」
「く……ぅう……ッ」
「俺も同じだダルフ……」
「……っ……」
「俺もみんなに、託されている」
「っ……あぁ、ァァアアッアモン――――ッ!!」
憎き怨敵の静かなる表情を認めたダルフが、その瞳の輝きを発散しながらも、苦痛にのたうち回るかの様な悲壮の声を上げた、次の瞬間……
「どボォ――ぁ――ぁッ?!!」
吊り上げられたダルフの全身が、固き足元に叩き付けられて四散していった。
「最も残虐な方法でお前を殺すと言った。お前は俺達の夢の障害となり得るから……」
「ぁ――ぎ――ッ!!」
即座に光収縮し、欠損した肉を再生したダルフ。更にと刻を漏出し、老いていったダルフへと鴉紋は馬乗りになる。
「やがてお前は……」
「ぅぁ――ッが――――!!」
執行される暴力、
――絶命し、再生する命。
浪費される刻……
「骨と皮だけの姿となって、僅かに動くだけで激痛に襲われる事になる……」
「フ――ッッ?!!」
執行される暴力、
――絶命し、再生する命。
浪費される刻……
「思考するだけの肉塊となり……」
「ぎ――ぁ――――ッ?!!」
執行される暴力、
――絶命し、再生する命。
浪費される刻……
「やがて脳細胞も死滅して、考える事さえ出来なくなる」
「ひ――っぼ――――!!」
執行される暴力、
――絶命し、再生する命。
浪費される刻……
「消え去った五感には苦痛だけが残され」
「あぁ――――ッ!!!!」
執行される暴力、
――絶命し、再生する命。
浪費される刻……
「何も分からず、何も考えられず、動き出す事も話す事も出来ずに、痛みに支配され続ける刻にお前は取り残される」
「ぐぁアィいい――ッ!!!」
執行される暴力、
――絶命し、再生する命。
浪費される刻……
「それでもお前は死ねないんだ、ダルフ」




