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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十四章 侵食されゆく世界でも、下等生物は笑う
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第291話 そんな事をしている場合なのかっ!?


   *


 フゥドの慟哭がダルフの耳にまで届いたその頃。窓からは、空に突き抜けていく炎の柱が見えていた。


「メロニアスとベリアルが接敵している!」


 ダルフは溶け落ちた道筋の続く廊下を駆け抜けると、やがて鋼鉄の大扉の前に辿り着いて、それを蹴破った。

 そこはやはり広大な鍛冶場であった。

 広々とした赤いレンガ造りの一角。そこには幾つもの巨大な炉があり、屋外へと煙突が出ている。ごうごうと火の立った熱気を孕む室内には、よく冷えた水が湧き上がる泉が点在し、鉄を扱う工具が壁に吊るされていた。金床とペダル式のふいごは炉の数だけあって、壁には熱を生み出す燃料が山と積まれている。


「『炎の柱』――!」


 ダルフが目にしたのは、その中でも一際巨大な炉の前で、地に銀の小槌を打ち付けたメロニアスの姿であった。


「んぁ……」


 そこに揺蕩(たゆた)っていた少年は、(まと)う紫の大気と共に、地から突き出した豪炎の一柱に呑み込まれていった。


「ダルフ!? シェルターは……いや、動ける様になったのか」


 来訪者に気付いたメロニアスは、酷く傷付いた姿でダルフへと視線を注いでいった。

 ルルードの足止めが功を成し、帝王メロニアス・エルヘイドは無傷とは言わずとも、未だベリアルの毒牙にはかかっていなかった。

 宙に散布された紫色の溶解液が、激しく噴出していく炎に吸い上げられていくのを横目に、ダルフはメロニアスと肩を並べた。


「奴はなんだダルフ……とても信じられん程の負のエネルギーを凝縮している」

「奴はベリアル……ヘルヴィムは蛇と呼んでいた」


 皆まで聞く前に理解した様子のメロニアスは、弟の顔をまじまじと見詰めて嘆息する。


「なれば、あれはやはり“魔”の類の者か……それでヘルヴィムは侵入者であるお前にも構ってられなくなったと」


 メロニアスの神遺物――火槌(かづち)によってややばかりベリアルの足止めが出来ていたが、炎は何時までも湧き上がっている訳では無い。弱まってきた焔の周囲には、再びに紫色の液体が凝縮して形を成して来始めていた。


「メロニアス……様」

「様……? 反逆者であるお前にそんな呼ばれ方をされる義理は無い。それとも未だセフトに(くみ)してでもいるつもりなのか?」

「……っ、メロニアス! 御託は良いから早くここから逃げてくれ、俺が奴の相手をしているその間に!」

「……膝を震わせたか弱いお前が、奴の相手を?」


 剣を構えたダルフの膝が、ベリアルの妖気を前に無意識に震えていた。……やはりどうしてもダルフには、鴉紋に似た負の波動を放つ少年が恐ろしくて仕方が無かった。


「喰らいついてでも時間を稼ぐ! (みかど)であるお前の首が取られれば、いよいよこの世界は終焉に向かってしまう……だから!」

「俺に尽くす大層な忠義心には痛み入るが……断る」

「はぁ?!」


 溶け落ちた防具を剥がして炎に投げ込んだメロニアスは、淡々とそう言うと小槌を持って炉へと向かって行ってしまう。


「何をしている! そんな事をしている場合なのか!?」

「場合なのだ!」


 やがて炎の柱が消えると、飛び散った邪悪が結集して少年の姿を形どっていった。

 ――やがて完成され、開かれる冷たい眼。


「それ……キミには過ぎた玩具だよねぇ」


 何事も無かったかの様に平然としたベリアルは、宙に浮かんだまま腐食の翼を放散し始める。


「ここ……までっ!?」


 強烈なオーラに気圧されたダルフは後退っていた。冷たい汗と共に、あの日見た“獄魔”の光景を思い出さざるを得ない。

 しかしメロニアスはと言うと――


「おっ……おいメロニアス!」

「なんだ、俺は今忙しいのだ。相手をするというのならば、勝手にそこでやっていろ」


 傷付いた額からの血を拭い、彼は炉に差し込んでいた巨大な鉱物を両手で引き抜くと、それを金床に置いて火槌で打ち付け始めた。カンカンという呑気な物音と共に、神遺物から打ち出される炎が謎の鉱石の塊を包み上げている。


「ふざけるな、早く逃げてくれ、直にヘルヴィムも来る筈だ!」

「ふざけてなど、おらんっ!」

「状況が分かっているのか!?」

「分かってないのは、お前だっ。何度も言うがこれは()、早急にせねば、ならんっ最優先事項なのだ」

「剣を打つ事がか!?」

「剣を打つ事が、だっ!」


 会話の最中にも小槌を振り下ろす事を辞めないメロニアスは、なんと悪意が目前にそびえているというのに、剣を打つつもりであるらしい。

 そんな事、後から好きなだけやれと言いたい所であったが、彼の言う所によると、それはどうしても今必要な事であるらしい。ダルフには兄の語る言葉がまるで理解出来なかったが、当人は取り憑かれた様で、全く聞く耳を持たない。


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