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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十三章 死灰、未だ猛火に焼かれ精錬と
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第278話 「そうだ、貴様に神罰を贈ろう」


 絶叫と共に踏み込んだヘルヴィム。彼の振るう聖十字の強烈な一薙ぎを、ダルフは飛び退いて回避する。


「カァアッ!! 折れた腕のまま俺とやろうってかぁ……アァ゛ッ!! やろうってのかぁぁ!!?」

「……っ!」


 自らの内に流れる()を消費して行う、『不死』という能力の副産物――『超再生』を、ダルフは極力温存しようと考えていた。


「ゴォオアアアアアアラァアア――ッッ!!!」

「くそっ……!」


 しかし迫り来る猛烈なるプレッシャーが、ダルフにそれを不可能だと伝えている。例え彼が全快の状態であったとしても、この烈火の様な男には敵うか分からない。


「ぅうう……!」


 ダルフの心臓が大きく脈打つ。巡り始めた血液が、彼の傷付いた体を(ことわり)を超えて回復させていく。

 折れた鼻を元の通りに形成し、ひしゃげた腕が、傷付いた体が再生していく。

 ――ダルフの中に流れる、()()()()()()を消費して。


「やってみろよ、倒してみやがれ、殴れ!! 殴ってみやがれぇええッッこぉおのロードシャイン家の面汚しがぁぁああ!!」


 力んだ拍子に噴き上げる血液を風に流し、尚も苛烈に踏み出して来るこの男は一体何なのだろう……

 神罰代行人としての宿願――侵入者(異物)を排除する事に対する、この病的なまでの執念は?


 先程口走られたこの男による説法を、ダルフはほとんど理解していなかった。それ程に神罰代行人の提唱する世界観は、余りに独創的に過ぎる。

 ……まぁ要は、この気迫を見るに察するは――


「シネェエエエエエエエィイッッ!!」


 ――この男が今、ダルフを殺そうとしているという事だ。


 ヘルヴィムは先程、ダルフを試すという趣旨の発言をしていた。


「ヘルヴィム……! 今俺達は、こんな事をしている場合ではないだろうっ!」

「場合だボケがァアッッ!!」


 大振りの一撃が、ダルフの傍らの地を吹き飛ばしていく。


 しかし、この男の血走った紫眼(しがん)から感じる気概は、とてもそんな事を感じさせない。このまま黙していれば、ダルフは再生した回数だけその頭蓋を十字架に押し潰されるのだろう。


「まぁぁだなよなよしてんのカァアアアッ!!」

「うぐ――!」


 果敢に接近して来るヘルヴィムが、強烈な肩を繰り出してダルフの胸を打った。そして吹き飛ばした先に、聖十字を振り下ろす。


「ドォらァァァ!!!」


 後先考えぬ豪快な一撃が、風を割って大地を砕いていった。


「んア?!」


 ――しかし、高く上がった土煙の中にダルフの姿は無い。


「いいや、こんな事をしている場合では――」

「……ッ!」


 直ぐ背後から放たれた声に、ヘルヴィムは勢い良く振り返った――


「――無いッッ!!」

「ヌゥぅがァァ――ッ!」


 振り向き様に喰らったダルフの拳。雷撃を纏った渾身の一撃は、彼の頬を抉って殴り飛ば――


「……」

「な……!!」


 ――――せなかった。

 フゥドに見舞った一撃よりも、腰を入れた確かな一撃であった筈だが、岩壁でも殴り付けたかの様に微動だにしない。

 丸い鼻眼鏡(アイグラシズ)を反射させたまま、無表情の頬から衝撃の煙を立ち上らせたヘルヴィムは、その指先でポリポリと頬を掻く。


「化け物かアンタっ……」


 驚愕としたダルフへと、ジロリとヘルヴィムの視線が向く。


「今ひとぉおつ……思い切りが足りぬぅ」

「!?」

「振り切れぬ悪夢がぁぁ、未だ亡霊の様にお前の背に乗っているぅ……迷いが、恐れが取り憑いてぇ、腹に宿った力が霧散してしまっているぅ」


 ヘルヴィムはダルフから離れ、そのまま明後日の方角へと歩んでいってしまう。


「何処へ……!」

「……」


 そして転がった信者達の十字剣を一つ拾い上げると、ダルフの足元へと投げて寄越す。


「何のつもりだ……」

「拾えぇ、それともぉ……お前には軽く、小さ過ぎるかぁぁ」


 小馬鹿にされている様な心持ちとなったダルフは、眉を(ひそ)めて眼下の十字剣をジッと見つめていく。


「敵に塩でも送っているつもりか……」


 再びに恐ろしい形相へと変貌していった神罰代行人は、特徴的な髪を逆巻かせ、白い歯を見せる。


「貴様に()()のはぁ……塩では無く、神罰だ」

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