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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十三章 死灰、未だ猛火に焼かれ精錬と
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第269話 悲境を押し返す可憐


   *


 第1国家憲兵隊の包囲より抜け出したラァムとダルフ。『魔物使い』と呼ばれた少女の激情によって現れた大狼が、二人を連れて都を疾走していく。


「ハグゥア……ッ!」

「あっ! その人を食べちゃダメよ魔物さん!」


 大型の魔物に背に乗せられたラァムは、口元に咥えたダルフが噛られているのに気付いて、魔物の耳をバシバシと叩いた。


「ぐるゥウウ……」


 ヨダレを垂らした獣は不服そうにラァムの命令に従った様だ。やはり魔物を操れるというのは彼女の能力によるものなのだろう。覚醒した自らの力に無自覚であった少女も、その時にはやや理解して来た様子であった。


「ダルフ、死んじゃうの? 血がいっぱい出てるよ……」


 腹に穴を開け、顎をかち割られた男が、魔物の口元で力無く項垂れて流血している。


「イヤだよ、私を庇って死んじゃうなんて……絶対にイヤ!」

「……っ」


 彼にかけられた呪いの事を知らず、ラァムは今にも泣き出しそうになりながらダルフを覗き込んだ。


「ラァム……泣かないでいい、俺は『不死』だ」

「不死って……え、死なないって事?」


 ダルフは今、喋り出すだけでも激痛であったが、彼女を心配させまいと、顔をしかめながら言葉を紡いでいた。


「ああ、痛み……は、感じるが、死なない」


 当て所も無く夕焼けを駆けていく魔物の背中で、憂い顔となったラァムは結局涙を流した。


「それって……苦しい。きっと、死ぬよりもずっと……」

「……」


 泣き虫で優しいロチアートの少女を見上げ、ダルフは黙した。


「私が絶対に……もうダルフを傷付けさせないから!」


 助けを求めに来た筈の少女が今や、逆にダルフを守ろうと奮起している。それが何か、ダルフにはチグハグに思えた。


「ごめんね、私が来たせいで、こんな事になっちゃって」


 少女は先程も、泥沼に沈んでいこうとするダルフに手を差し伸べて掬い上げた。

 まだ幼いというのに、ラァムは自分よりも他人を思いやる事の出来るとても優しい子だ。


「やっぱりここから逃げよう……襲って来る人間は、私が全部殺すから!」


 その決断も、殺意ですらもが、家族を思う少女の優しさによるものなのであろう……

 ラァムは人間達に家族を皆殺しにされている。つい先日に起こった、少女にはまるで耐え難い筈の絶望を間近に眺めておきながら、彼女はそのトラウマに立ち向かっていた。それがたとえ復讐という形であれど、家族を思うその顔は、俯かずに前を向き続けていた。

 ダルフはただ、今の自らが喪失してしまった強い心を持った存在を見つめていた。目も当てられぬ程の悲境(ひきょう)に伸し掛かられても、その小さな体で抗い続ける強き少女の姿を。

 ――その暗黒に浸かるのでは無く、自らの持った光で闇を押し返そうとしていく、勇敢な在り方を……


「……」


 彼女の能力の事や、都を占領し始めている魔物の事について尋ねたかったが、腹に穴を明けた体ではもう叶わなかった。


 大通りを駆け抜けていくその前方に、ラァムは蹂躪(じゅうりん)されているのとはまた違う人影が二つある事に気付く。

 その人影はどうやら、数多蔓延(はびこ)る魔物を駆逐している様子である。

 

「どけ、人間ッ!」


 ラァムは目を細めると、そのまま一直線に大狼を突っ込ませていった。


「ん?」


 近付いて来る大型の魔物の気配に振り向いたのは、リオンとピーターの二人であった。返り血に濡れた彼女達は、獣が口に咥えている存在に気付いて眼を見張る。


「ダルフ――ッ!?」

「な、なんでダルフくんがここに居るのよ! シェルターは!? それにあの魔物は!?」


 大狼はすばしっこく民家の壁を駆けると、そのままリオンへと鋭利な爪を振り下ろした。


「何なのよコイツ――ぬァアッ!!」


 ピーターの持つ、長い鎖の先に棘付き鉄球の付いた武器――フレイル型モーニングスターの横払いの一撃が、獣の横腹を打ち付けて爆発した。


「キャッ! なに!?」


 ラァムと共に悲鳴を上げた獣は、腹から爆煙を立ち上らせたまま体制を立て直す。


「また強い人間だ……ッ!」


 少女の赤目が灯ると、リオンとピーターの周囲に小型の魔物が溢れ出し始める。


「ええっ何よあの子! 魔物を従えてるの!?」


 獣を振り払っていくピーターに対して、リオンは髪を風に流して静かにダルフを見上げた。


「逃げるからねダルフ!」

「……待て、ぅっ……」


 開いた傷に呻いたダルフが、大狼と共に大きく飛び上がっていく。どうやらラァムは、そのままリオン達を飛び越していく算段のようだ。


「『氷槍(ひょうそう)』――――」

「――え?」


 青い冷気に髪を踊らせたリオンの手元に、特大の氷の槍が形成されていった。

 そして静かに憤る彼女の氷は、頭上に飛び上がった大狼の左足を貫いていた。


「うわぁあ!!」

「キャウン……ッ!」


 獣と共に地に墜落したラァムとダルフ。残党狩りをピーターに任せたままに、リオンは悠々と少女の頭上に立って、手元に氷の鋭利を溜め始めた。


「ああぁ……起きて、魔物さん、起きてよ!」

「ロチアート……関係無いわ。私のダルフを奪い去ろうというのなら」

「ウワァアアア!!」


 今やラァムに向けて、氷の(つぶて)が放たれようとした刹那――


「リオン……!」


 ハッキリと聞こえたダルフの声に、リオンは口を開けて氷を仕舞い込んでいた。


「その子を……殺す……なっ!」

「ダルフ! 喋れる様になったの?」


 苦しそうに血を垂らして話す彼に、リオンが走り寄る。

 頭を抱え込んだラァムは、ギュッと閉じた瞳を開けて緊張の息を吐き出した。


「知ってる人、なの……ダルフ?」


 訳の分からないでいる少女の正面に立ち、腕を組んでいったピーターは眉を下げて困惑した。


「ん〜と……とりあえず、この状況、説明して貰えるかしら?」

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↑の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると意欲が湧きます。 続々とスピンオフ、続編展開中。 シリーズ化していますのでチェック宜しくお願い致します。 ブクマ、評価、レビュー、感想等お気軽に
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