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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十三章 死灰、未だ猛火に焼かれ精錬と
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第265話 鬼迫る


   *


 シェメシ鉱石のシェルターをスリ抜けたラァムは、ダルフの乗った車椅子を押してエルヘイド邸を疾走する。


「逃げなきゃ急いで逃げなきゃ!」


 ラァムには何やら『壁抜け』の能力があるらしく、魔力を吸い上げるシェメシ鉱石を抜ける時には手間取っていたが、それ以外の壁はスルリスルリと抜けていく様だ。


「人間が追い掛けてくる! 追い付かれたら殺されちゃう!」

「……ラァ……ム」

「はやくはやく早く〜!」


 エルヘイド家に仕える従者達が驚いて道を開けていく。そもそも彼女に目的地の宛がある様子も無く、ラァムただ真っ直ぐに走り続けていた。


「おルゥぅらァァァッ 逃がさねぇぞユダぁあ!」

「うわぁあ!! あの怖い神父様やっぱり追いかけて来るよ!」


 駆ける二人の背後からは、壁を何枚も砕きながら近付いて来る神罰代行人の怒声が聞こえる。


「ラァム……」


 僅かに口元を動かし始めたダルフが椅子で揺れていた。先程出会ったばかりの少女には彼がこうなってしまうまでの経緯など知る由も無く、別段気にした風もないまま薄い青の髪を跳ね上げていた。


「ダルフ、ねぇダルフ! 私どうしたらいいの? あいつやっつけて!」

「……ぅ……」

「……ぅも〜!! ダルフってば全然喋らないのねーっ!」


 ラァムは随分と明るい声で話すが、彼女なりには慌てているつもりであるらしく、玉のような汗をかきながら必死にダルフの車椅子を押していた。

 

「追いつかれちゃうよ〜っ!」


 年端も行かない少女の足は遅く、加えてダルフの事も連れているので速度は出ていない。

 だが本来迂回しなければいけないルートも、彼女は『壁抜け』の能力で直進して行く事が出来る。

 真っ当に考えれば、どれだけ足が遅くてもその能力さえあれば敵を煙に巻く事は出来るだろう。実際彼女は農園を抜け出してから、そうして来たに違い無い。

 しかし――


「ゴぅぅらアアアアア――ッ!!」

「うわわわわわぁー!!」

「何処に居るのかは筒抜けだぁあ! こぉのロザリオがキィサマ等の臭いを逃しはしねぇからなぁあ!!」


 ――相手はあの神罰代行人。エルヘイド家の堅い壁も、まるでカステラか何かでも突き破るかの様にして猛進して来る。


「ブゥウチ殺してやる反逆者ァァァ!!」

「キャァアーー化物ぉ!!」


 長い廊下の後方で瓦解した壁から遂にヘルヴィムが姿を現した。怒り狂った様子の彼は、やはり国家元首であるエルヘイドの邸宅であろうと何の躊躇(ためら)い無く破壊して駆け回っている。

 最早どちらが反逆者なのか分かったものでも無いが、そんな真っ当な論理が通用する相手では無い事は分かる。


「待てぇええ!! キィエエエエエア!!」

「外に出るよダルフ!」

「……ぇ」


 二階の廊下の突き当り、夕焼けを映す窓の向こうにラァムは飛び出していった。


「待……っ!」

「わわわ〜ッ」


 転落した二人は運良く藪の中に落ちている様だった。


「ん……もしかして、助けてくれたのダルフ?」

「……っ」


 向こう見ずに二階を飛び降りて行った少女を、ダルフは反射的に胸に抱き留めていた。不思議な事に動かなかった筈の体も、その時だけは機敏に動いた様だった。

 ラァムはダルフの胸で逆さまになった体を起こすと、車椅子から落ち掛けたダルフを直して、エルヘイド家の美しい庭を駆け出していった。


「ドォオラアアアアッ――んァ……!?」


 窓を打ち破って空に飛び出したヘルヴィムもまた、藪に真っ逆さまに墜落していった。聖十字の大槌の荷重も相まって体重の重い彼は、ダルフ達とは違って藪を突き抜け、頭から地盤に着陸した様であった。


「……ヵ…………っ」

「待ってダルフ、やっつけたかも! 頭から真っ逆さまに落ちたよ!」


 地に突き刺さってピクピクと痙攣している足を指差し、ラァムは飛び上がって喜んでいた。


「……ふぅぅ…………!」

「え……?」


 しかし、メリメリと盛り上がっていった地から、そんな吐息が漏れ始めている様だった。

 そしてどうこうする間もなく、血を吸った土砂は高く舞い上がっていた――


「――ッフゥアア!! ユダぁああ!!」

「イヒィイイイイイッ?!!」


 やはり立ち上がったこの男は、頭から血を流した恐ろしい形相のまま、大槌を振り上げてラァムを追いかけて来た。


「チィィツジョノタメニィイイッ!!」

「ぎゃぁぁあああああああーッ!」


 鬼の様な男に追い回され、ラァムは髪に葉っぱを絡ませたまま泣きべそをかいた。

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