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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十三章 死灰、未だ猛火に焼かれ精錬と
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第258話 老体に宿る復讐の在り処


 一面が突き立った針で満たされたロビーで、ヘルヴィムは膝を着いたルルードを見下ろしていく。


「イバラ」


 彼の前腕に巻き付いたイバラは伸縮すると、執事長の燕尾服を締め上げ棘を食い込ませていった。


「……ぅ再生する……イバラか、厄介だな」

「死にそうじゃあねぇかぁジジィ……」


 幾度針を打ち込まれても立ち上がるヘルヴィムに対して、ルルードは聖釘の一撃で体をくの字に曲げた。いかに老獪(ろうかい)な騎士といえど、やはり体は一介の老体であるらしい。


「神の意志を阻む者もまた同罪なり……このまま逝くかぁ? それとも、聖なる鉄槌でぇえ……」


 体を雁字搦(がんじがら)めにされたルルードが、苦悶の表情を浮かべて浮き上げ返されていく。何か重大な臓器でも釘に貫かれたのか、青白い顔をして抵抗も出来無い様子だ。

 そんな老人を笑顔で見やり、ヘルヴィムは好き勝手に言う。


「隠居して庭でも弄ってれば良かったんだぁ。年甲斐も無く何時までも修練してねぇぇでよぉぉう」


 ヘルヴィムの足元に白き空間が現れて彼を突き落とそうとするが、飛び上がった男は壁を蹴って地に舞い戻りながら、イバラの拘束を強めた。


「うぐ……く……っ!」

「どうしようもねぇ老いぼれだぁ」


 しかしてルルードは、イバラに締め上げられながら不敵に口元を歪ませ始める。


「私……が、何故騎士を退役してからも修練を続けたか分かるか?」

「知らねぇぇし、分かる訳もねぇぇじゃねぇえかぁ」

「ならば教えてやろう……馬鹿なお前にも……分かるように明白に」


 吊り上げたイバラからルルードの血液が滴り落ちていく。

 そしてイバラに全身を貫かれていく老人は、確かに彼を見定めてこう言い放った。


「全てはこの日、お前に()()を果たす為だ」

「――ぃあ?!」


 ――その時ヘルヴィムは、伝い落ちる血液が足元で微かに反射している事に気が付く。



「舐めるなよ、小僧……!!」



 突如として細い目を見開いたルルードに、ヘルヴィムは恐ろしく危険なオーラを感じ始めた。


「『魔糸傀儡(マジック・スレッド)』――!!」

「ンンア――ッ?!!」


 ヘルヴィムの全身が正体不明の力によって強く拘束されていく。


「な、なんじゃぁあ!!?」


 ヘルヴィムは聖十字を振り上げて微かに感じ始めた細い感覚を振り払う。しかし既に何重にもなって張り巡らされていた()は、彼の体を猛烈な力で拘束していった。


「ゥぅあ゛!!」

「気付かなかったのか? 針に括り付けられていた数多のか細い魔力の糸に……」


 手元で煌めいた糸を手繰り寄せながら、ルルードは弱まったイバラの拘束から脱していた。

 そして憤慨しながら宙に浮き上がっていく代行人を見上げる。


「アアアァこんなものぉオオオ!!」

「無駄だよヘルヴィム」


 懐の釘に差し伸ばしていった手が、強き糸に何重にも巻かれて引き伸ばされていく。両足は真っ直ぐに固定され、腕は水平にせざるを得なかった。


「魔力を流し込んだ魔糸(まし)の強度は想像を絶する。お前程の剛力でもこれだけの数は振り切れまい」


 肉眼での認識が困難な程にか細い糸は、魔力を流し込まれる事でワイヤーの様な強度に変貌する。

 ヘルヴィムは赤面して尚も力むが、糸による拘束はより強まっていくばかり。そして広いロビーに溢れんばかりに打ち込まれた、長針の光景を彼は見やる。


「これはヴェルトも見た事がない。二十年の歳月を掛けて私が完成させた奥義だ……お前を殺す為のな」

「おぐぅウウウが……!」


 深く肉に食い込んでいく糸に呻き、ヘルヴィムはイバラを手放していった。

 先程とまるで対象的になってしまった光景で、ルルードは後ろ手を組み、吐血しながら青白い相貌を彼へと向けていく。


奔放なる針達(ニードルズ・フリー)


 白き空間より出でた針が、ヘルヴィムの体を突き刺して皮膚を裂く。


「ブァァァあ!!」

奔放なる針達(ニードルズ・フリー)


 中空で身動きの取れぬヘルヴィムを、ルルードはいたぶる様にして執拗に引き裂いていく。


「ゥおおおア……!!」

奔放なる針達(ニードルズ・フリー)――ッ!!」


 確かな怨嗟を込めて放たれてきた針が、ヘルヴィムの頬を貫通していた。

 夥しい血液を垂らし始めた男を見やり、切り裂きの騎士は強張った面持ちに変わっていく。


「痛むかヘルヴィム」

「……あぁぁ、痛くて堪らねぇぇ」

「そうか、()()()はもっと痛んだ筈だ」


 震える程に奥歯を噛み締めたルルードは、積年の怨みを晴らし足りぬかというばかりに、針でヘルヴィムを滅多刺しにした。


「――ふがぁぁあッ!!」


 ヘルヴィムは苦痛を浮かべながらに、眼下の騎士が二十年にも渡って昂り続けて来た源動力の何かを悟り始める。


「お前やはり……」

「……そうだ、片時も忘れた事など無かった!」

「あぎぃぃぃあ!!」


 囁いた声を耳聡く拾い上げ、ルルードは誰でも無い、自らの手でその感覚を味わう様にしながら、手元の針を一本ずつヘルヴィムに突き立てていく。


「忘れた事など無かった――お前に殺された我が最愛の妹を、お前の妻となった彼女の、目も当てられぬ成れの姿を!」


 そしてルルードは、血走った目で燃え上がる復讐の在り処を語る。


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