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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十ニ章 13番目の神罰代行人
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第236話 捨て駒にされた勇者

 *


 ホドの都での激闘の末、鴉紋に破れたダルフは、リオンとピーターに連れられて第1の都“ケテル”を目指して北上していた。

 ピーターの押す木製の車椅子で項垂れた男の頬をリオンはそっと両手で支える。そして抜け殻になった彼の双眸をジッと見つめた。


「ダルフ。ほら、昨日立ち寄った村でパイを貰ったの。食べて」

「……」

「甘い物、貴方好きだったでしょう? ほら口を開けるのよ」

「……」

「お願いよダルフ。また餓死してしまうわ。やせ衰えていく貴方を、また黙って見てろって言うの、ねぇ!」

「……ぁ……」

「食べるのよ、ほら! 口を開けて飲み込むの!」

「……ぉ…………あ」


 無理矢理に捩じ込まれたパイ生地が、ガクンと首を落としたダルフの口元から膝に落ちた。


「もうよしなさい小娘」


 あの死闘からもう三ヶ月と十五日の月日が流れていた。春は終わり、二つの太陽によって照り付けられる容赦の無い日射が、草原をひた歩く三人を襲っている。

 あの日、おぞましい手によって言葉通り粉微塵となったダルフの体は、彼の特性――いや、呪いの様な『不死』という力によって、80日もする頃には元の体へと再生を遂げて生命活動を再開していた。


 ――だがダルフは、ある意味ではまだ死んだままであった。


 強き心の芯、その拠り所となっていた、辛苦を共にした巨大剣。天使の子マニエル・ラーサイトペント特注のクレイモアが砕け散ったのと共に、彼の心は絶大過ぎる力に怯え――破壊された。

 彼が再生を遂げてから約二十日が経過しているが、ダルフは喋るどころか意志すらも示そうとはせず、星屑の様であった虹彩を陰らせたまま、何処を見てるとも知れぬ視線を投げて、生きる事すらをも拒絶していた。


「大丈夫きっと何とかなるわ。ミハイル様が目指せと行っていたケテルの都まで、もう数日で辿り着く。そしたらきっとダルフくんも……」


 沈んだ面持ちをするリオンを案じて、ピーターは彼女を気遣う。だがそれはささくれだった感情を逆撫でする結果にしかならなかった様だ。


「そこに辿り着いて、何がどうなるって言うのよ……」

「あ……いや。でもミハイル様は」

「彼がこんな事になってしまうと知っていてホドに差し向けたミハイルが何だっていうのよ! 今度は救ってくれるとでも言うつもり?」


 普段無表情であるリオンが激情に駆られているのを認め、ピーターはたじろぐ事しか出来なかった。


 敗戦後ホドの都を脱っすると直ぐに、ピーターは王都でミハイルに渡されたという書簡を取り出してリオンに見せた。

 ホドでの戦いの後に開封せよとだけ命じられていた筈の封書であったが、そこに記された内容は、簡素でいて尚且、この残酷な結末を予見していたかの様なものであったのだ。


『ケテルを目指し、メロニアスに剣を打って貰え』


 ただその一文だけのメッセージに、リオンが血相を変えて激怒したのをピーターは思い起こす。


「ダルフはアイツの駒なんかじゃない! 彼には心が……崇高な志があったのよ!?」


 複雑な心持ちで、髪を振り乱した彼女を高所から見下ろすピーター。


「待ちなさいよ小娘。まだミハイル様がこの結末の全てを見通していたとは限らないわ」


 肩に置かれたゴツゴツとした掌を、リオンは払い除ける。


「……いいわ」

「……」

「でももし、奴が全て見通した上で捨て駒の様にダルフを扱っていたのだとしたら……」


 昂ぶった感情に呼応する青き閃光、そして凍てつく冷気が彼女の髪を高く(ひるがえ)す。


「ミハイルを殺すわ」


 とても冗談とは思えぬその気迫に、ピーターは額の上の星型のサングラスを下ろしながら、生唾を呑み込んだ。


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↑の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると意欲が湧きます。 続々とスピンオフ、続編展開中。 シリーズ化していますのでチェック宜しくお願い致します。 ブクマ、評価、レビュー、感想等お気軽に
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