第229話 相克する過去と未来
楽想が終わり、物音の無くなった炎の中で――
「フン――――ッ!!」
――脱兎の如く駆け出したギルリート。
背の猛烈なる六枚の推進力が、一筋の黒線となり彼を推し進める!
怒涛のプレッシャーに床が捲り上がり、周囲の火炎すらも消し飛ばして鴉紋に迫る――
「猿真似野郎が……」
それを迎え撃つ体制の鴉紋は、背に十二枚の闇を拡散して髪を逆立てた――!
そしてギルリートは鴉紋の目前でしかと地を踏み込み、右の拳を解き放つ。
「ォオオアァ――ッッ!!」
破滅を予感させる暴力的な拳。それを半身の体制のまま待ち望んだ鴉紋は、混じり合った黒風の中心で、自らの過去に向けて拳を振り抜く――!
「――――ぐ……ンンっ!!!」
「――――……ん……っ!」
鍔迫り合う黒の拳――――!
弾け合うかの様な爆発がせめぎ合い、周囲にインパクトの凄まじさを物語る。
悪風の只中に居る両名を皆が見守る。
「鴉紋……!」
「ギルリート様……」
セイルは目を見開き、フォルナは願う――――
「フハハハハッどうした鴉紋ッ!!」
「…………ぬ……ッ」
あろう事か拮抗を押し返していくのは、鴉紋の半分のエンジンしか積んでいない筈のギルリートであった。
そしてギルリートは美しく整った歯を見せて笑い始める。
「左足が壊れているんだよなぁ、鴉紋ッ!」
鴉紋の踏ん張っていた左足が押されていく。
ビナ・コクマでの死闘で壊滅的なダメージを負った鴉紋の左足が後遺症を残し、黒色化して無理矢理に動かしているという事をギルリートは理解していた。そして自らは闇映しの力の一端である修整によって、その弱点を克服し、全開の一撃を捻り込んでいるのだ。
「足の踏み込む力が無ければッ打突は著しくその威力を損なう!」
肌を切り裂く黒の烈風が鴉紋を襲う。勢いを増して来るギルリートが、奥歯を噛み締めて前へと踏み出す――!
「たとえ翼が倍になろうと、お前は過去の自分に勝てぬのだッ!!」
小さき呻いて体制を崩していく鴉紋。それに覆い被さる様な姿になって拳を振り下ろしていくギルリートに、フォルナは力を添える様にして歌い始めた。
偉大なるモーツァルトのREQUIEM――最後の聖歌を。
とても爽やかな、賛美のアリアを――




