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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十章 REQUIEM
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第210話 この悪夢を終わりにしよう


 マッシュの中で拍動を始めたナニか。鴉紋はギルリートの行った非人道的な行為に、額に青筋を立てて激昂(げっこう)し始める。


「マッシュを……俺達を何だと思っていやがるギルリート!」


 せせら笑うだけのギルリートは、嬉しそうにその怒声を聞きながら、淡々と口元を動かす。


()()()()


 ――そこで魔人達が一斉に鴉紋へと飛び掛かってきた。


「「コキィィイイギ!!」」


 覆い被さって来る光の群れ。それを見上げて鴉紋は拳を引き絞っていく。


「俺の役目が何かと聞いたよな……」


 満身創痍であった筈の鴉紋の腕に、確かな力が湧き上がっていく。まるで身の内から、力の源泉が微かに流れ始めたかの様に――

 鴉紋の体を侵食していく闇が、蠢いて首元まで染める。それに呼応するかの様に、また微かな闇が、そして力が体に纏わりついていく。


「のォらぁあッッ!!」

「「アッギィイイイイぁあッ!!!」」


 化身の翼を掴んで引き千切り、四肢をぶち抜いて振り回す。激しい乱戦を豪快な蹴りで一閃した鴉紋が、息を荒げてギルリートを睨めつけた。


「お前達に苛まれ続ける、赤い目を救う為に」

「……」

「お前達に虐げられし、()()()を救う為に!!」

「…………は?」


 ギルリートはその目元のマスクの為に、感情を推し量り辛い。だが今、彼がどの様な感情であるかは、押し溜まって肩を震わせ始めた様子からありありと分かった。


「貴様、ロチアートを()()と、そう呼んでいるのか?」


 ギルリートを中心にして強くなっていく黒の暴風、そして滾り、より一層と激しく噴出する暗黒に(さら)され、鴉紋は目前の男が未だ力を出し切っていなかった事を悟る。


「忌まわしい……」


 カルクスの寂然(じゃくねん)としたヴィオリンに、フォルナの歌声が粛々と続く。


“Oro supplex et acclinis,cor contritum quasi cinis:”

(私は灰の如く砕かれた心で(ひざまず)き、平伏して懇願します。)


「よもやこの俺の前で、赤目の下等生物が人間と同類だと……」


 鴉紋の目前で、悪意の塊が拡散して全てを覆い尽くす。

 そこから漏れる果てしの無いエネルギーに、まるで災厄と相対している様な無力感を覚える。


「……っ」


 鴉紋の体が、心が、ただその恐怖に萎縮していった。

 そして莫大なるパワーがギルリートの腕に集結し、巨人の様な黒腕へと変貌していく。


「それは今のお前の身の丈にあった願望なのか?」

「……」

「この後に及んでそう吐き散らしているのなら、片腹痛い……そして、腹立たしい」


 ――()()ずとその刻を懇願するフォルナの歌声は、鴉紋の心情を晒して消える。


“gere curam mei finis.”

(終末の刻をお計らい下さい。)


 冷酷なる圧力に震えた瞼を押し上げ、鴉紋は歯を喰い縛って半身に構えていく。


「マッシュだけは救う。それが俺に残された最後の責任……たとえ刺し違えても、貴様の首筋に喰らいつくぞギルリートっ!」

「何処かで聞いた言葉だ……」


 最早言葉も返す事も(わずら)わしいと、ギルリートはただ、両腕を垂れて前屈みになる。


 そして押し留めていた力は(せき)をきり、力の奔流(ほんりゅう)が闇として溢れ出す。


「もういい、お前の滑稽(こっけい)なる踊りにはもう飽きた」


 明確なる殺意にその身を氷漬けにされ、鴉紋は苦悶の表情を刻む事しか出来なかった。


「貴様の声は、このギルリート・ヴァルフレアの耳に入るには、(いささ)下賎(げせん)が過ぎた」


 力を一挙に噴き出したギルリートの一撃を喰らえば、もう鴉紋に生還する術は無いという事が、目前で逆巻くエネルギーから如実に物語られている。

 いとも簡単に身を貫かれ、胸に風穴を開けられて息絶えるのだろう。


 まるで梨理の最期と同じ様にして……。


「この悪夢(ナイトメア)を終わらせようか」


 六枚の闇が空を裂くと――

 ――気付いた頃にはもう、ギルリートは眼下で拳を引き絞っていた。


「――――ッ」

「何も護れず、誰も助けられなかったなぁ、鴉紋――ッッ!!」


 不敵に嗤うギルリートの声が、その姿が、鴉紋の内の影と重なる。

 ――紛れも無く絶命する自らの瞬間に、剥いた眼の見る景色はスローモーションになった。


 ――ごめん。みんな。


 ――――ごめん…………。


 死の瞬間に見たイメージは、忘れてしまった梨理では無く、共にこの世界を駆け抜けて来た、仲間達の、そして彼女の笑顔だった。


「――――セイ……ル――――」











「『焔雨(ほむらあめ)』」



 ――凛とした少女の声と共に、突如として、黒き火の雨がホールに降り注いだ。


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