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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十章 REQUIEM
209/533

第209話 Confutatis【呪われた者】


【7.Confutatis】

(呪われた者)


 間髪も入れず、男達の激烈なる声が度重なっていく。


«Confutatis maledictis,flammis acribus addictis,»

(呪われた者達が退けられ、激しい炎に呑み込まれる時、)


 カルクスとエルバンスがリードするその一節は、爆発を度重ねていく様に迫力を連ね、暴発する衝撃が空気を揺るがしていた。


 瓦礫に埋もれた鴉紋が、茜色に何処までも伸びる六枚の悪辣を見上げる。

 見果てぬ先から垂れる膨大なる暗黒が、最早いたぶられるだけの鴉紋を(あざけ)る様にうねり、(うごめ)く。


 激しかった楽奏が途絶えて、消え入る様なフォルナのソロが始まった。すすり泣くかの様な、その微かな声が。


“Voca me cum benedictis.”

(祝福された者達と共に私をお呼びください。)


 強い発光を帯び始めたマッシュの額の魔石。このおぞましい歌詞で、ギルリートが何を呼び覚まそうとしているのか未だ分からない。


「ギルリー…………ト」


 自らに残された最後の責務。その対象である少年を認めながら。残された気力だけが鴉紋の体を突き動かす。

 

「――あッ…………ぐ……!」


 未だ続々と降り注ぐ光の魔人が、そんな気力すらをも容赦も無くその牙で喰らい、刈り取っていく。

 走る激痛に悶え、声も無く双頭の異形を振り払うが、彼等はまたその数を増して、虚ろな目線で鴉紋を捕える。


「「キョォアアアアアアッ!!」」


 魔人から発せられる耳障りな男女の悲鳴。感情の無いと思われた彼等は一斉に、その鋭い口元を醜く吊り上げ始めた。


「「あハあハあハ……アハアハアハアハ!!」」

「……!」


 聞くに耐えない奇怪な笑いの最中(さなか)に立ち上がり掛けた鴉紋。


「ぐッ――――!!」

「「アハハーハーハ!! アハハーハハーハハーハ!!」」


 そこで無防備になった腹に、一人の魔人の膝が炸裂した。

 血反吐と一緒になって転がり回り、掠れていきそうな意識の中で、また男達の激しい楽想が始まる。


 獰猛な何かがすぐ目前まで迫り立ててくるような――


«Confutatis maledictis,flammis acribus addictis,»

(呪われた者達が退けられ、激しい炎に呑み込まれる時、)


 そのエネルギーは遥かなるまで――


「おい天使達よ……俺の玩具が壊れてしまうではないか」


 見上げると、赤の空が混沌に埋め尽くされていた。

 魔人達が退き、ギルリートは自らの腕から(ほとばし)る闇に恍惚としながら靴を鳴らして歩み始める。


「素晴らしい力だ鴉紋……このまま我が物にしたい位だよ」

「……っ」

「気付いているか鴉紋? お前はこの闇の翼を、六枚広げるだけの可能性を秘めていたのだ。誇っていいぞ」


 ギルリートの背で闇の翼が空に噴出し、暗黒の風巻が周囲を吹き荒れる。


「うる……せぇ」


 潰されてしまいそうなプレッシャーを一身に受けながら、鴉紋はよれよれと、ガクつく足を地に立て始める。


「数十分にも渡り暴行され……ふぅむ、見上げた根性だ。しかし立ち上がってどうする?」 


 鴉紋が足を滑らせて転倒する。しかしそれでも彼は懸命に、立ち上がろうと全身を力ませる。


「何が出来る? お前の背負う役割という奴の為か?」


 黙したまま、産まれたての子鹿の様に何度も繰り返す男にギルリートは笑みを見せ、その右手に宿る莫大な闇を掲げた。


「良き道化だ。ならばそのまま踊り続けてみろ」


 ギルリートの豪快なる拳が、膝を折った鴉紋の頭を殴りつけ、壁に叩き付ける。


 壁の瓦解する物音に紛れ、またフォルナの静かなソロが始まっていた。


“Voca me cum benedictis.”

(祝福された者達と共に私をお呼びください。)


 上がった土煙が晴れると、そこにあった光景に、ギルリートはやや面食らった様子で静かに息を呑んでいた。


「……そこまでして、何がしたいんだ?」


 鴉紋は壁に頬を、そして全身を預けて押し付けたまま、這い上がる様にして身を起こしていた。

 これ以上無く無様で泥臭い醜態であったが、鼻息を荒くして壁にしがみつく男にある種の感動を覚えたギルリートは、感嘆の声を隠せなかった。


「ならば今一度聞いてやろう。お前の役目とはなんだ鴉紋?」

「マッシュを、マッシュ……だけは!」

「ほう……」


 鴉紋が未だ携える獣の瞳を差し向けると、静かなるホールに、掠れた少年の声が落ちてきた。


「助けて……アモん……」


 ホールに突き立った巨大な十字架の先から、意識を微かに取り戻したマッシュが囁く。


「マッシュ……?」

「怖い、こワいよ、アもン」


 だが彼の声音に、妙な気配が見え隠れしている事に鴉紋は気付いた。

 落涙しながら鴉紋を見つめて、額の魔石を輝かせた少年は続ける。


「おソロしイん……だ……僕のなカでナニか……ダレかが」


 ギルリートもまた少年に視線を移し、広角を上げて独り言を呟いていた。


「くだらん玩具だと思っていたが……良い演出をするじゃないか……くく」


「近付イて……クル……こワイよ……苦しイ」

「……!」

「僕何カ、悪いコトしたのかナぁ?」

「違うマッシュ、お前は何も! 悪いのは俺だ!」


 虚しく響く鴉紋の答えに、マッシュは白目を剥いていきながら声を返す。


「お願イ……だから鴉紋……」


 そして次に発した少年の声は、明らかに誰か別の、地の底から湧き上がって来たかの様な低い声だった。


「『たスけて』!」


 また意識を途切れさせたマッシュを、血の気の失った表情で見上げる鴉紋を、ギルリートが見つめる。


「何しやがった……」

「んん?」


 そして怒気を込めて、鴉紋は拳を握り込みながら叫んだ。


「マッシュに……マッシュに何をしていやがるんだテメェ!!」


 眉を下げながら舌なめずりをするギルリートの背後から、ディーヴァの静かな声が忍び寄る。


“Voca me cum benedictis.”

(祝福された者達と共に私をお呼びください。)


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↑の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると意欲が湧きます。 続々とスピンオフ、続編展開中。 シリーズ化していますのでチェック宜しくお願い致します。 ブクマ、評価、レビュー、感想等お気軽に
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