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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十章 REQUIEM
208/533

第208話 その狂気へ飛び込んで

 *


 都の結界の範疇(はんちゅう)においては、転移魔法は目視出来る程度の距離しか移動が出来ない。

 故にフロンスとセイルは物陰から物陰に移り、ひと目を忍びながらコンサートホールを目指していた。


「ちょっと待ってフロンス!」

「どうしたのですセイルさん? コンサートホールは直ぐそこですよ?」

「分かってるけど……!」


 目的のコンサートホール――つまり未だ鳴り響くこの楽想の発生元へと近付くにつれて、ますますと転移魔法での正確な移動が出来なくなっているのだ。


 足元に民の死骸が転がった細い路地で、フロンスがセイルに向けて子首を傾げる。


「セイルさん?」

「今あそこで魔楽器が鳴ってる。前はそこから出る波動? とかいうので転移魔法の座標を移された。ここからはもう、ピンポイントでの転移は出来ないよ?」

「なるほど。なれば、そうですねぇ……」


 民の悲鳴が鳴り止まない中で、フロンスは少し考えた後、上を向いてこう問い返した。


「では、あの広大な屋根の上になら行けますか?」


 フロンスは風穴の空いたコンサートホールの天井を見上げている。

 セイルは妙な顔付きになって彼に尋ねていた。


「それなら多分……。でも、何考えてるの?」


 二人の頭上を光の魔人達の影が過ぎ去っていく。


「それは行きがけに話します……が、その前に協力な助っ人を一人蘇らせましょうか」


 フロンスの足元に紫の魔法陣が起こり、そこに伏せていた屈強な男の死体が立ち上がる。


「『狂魂(きょうこん)』……甦れ」


 フロンスはその術によって、死人の脳のリミッターを外し、筋繊維を張り裂けるまでに膨張させていく。


「……今生ける少年の為に。常闇から甦り、力を貸して下さい。私の愛しいサハトよ」


 愛しき少年の魂を死骸に憑依させたと信じるフロンスは、死人の頭を子どもにする様に撫でる。


「じゃあ行くよフロンス」


 二人が共に空を見上げると、セイルが桃色の魔法陣を足元に発生させる。

 そうして今まさに転移しようとしていたコンサートホールの天井から――

 

 唐突に恐ろしいものが噴き上げ始めた。


「っ……何なんですか全く!」


 それは空を突き抜ける程に高く、そして黒く、夕暮れに闇を垂れて夜を促している様だった。


「あれ……やっぱり鴉紋のじゃない!」

「ええ、私にも分かります。何があったのか知りませんが、あの冷酷な力はギルリートさんの……」


 ――暗澹(あんたん)とした、狂気の(とばり)がホールに、いや都の全てに下り始めている。


 竦む足、愕然とするしかない陰惨な恐怖を前に、セイルは震える声で生唾を飲み込んでいく。


「鴉紋は翼を四枚までしか出せ無かった筈だよ……それなのにあの闇の翼は!」


 今二人の頭上に噴き上げる邪悪の噴水は、()()の翼であった。


 二人は今から深淵に飛び込んで行かねばならぬかの様な胸中であったが、唇を噛み締めて前を見据える。


「怖いよフロンス……」

「ええ、私もです」

「勝てる訳無いよね」

「逆立ちしても無理でしょう」

「死んじゃうかも」

「この力のトリックでも暴かぬ限り、確実に」


 互いの顔を見もせずに淡々と弱音を吐き合う二人であったが、その赤い瞳に影が落ちるでも無く、むしろ煌めきを宿し始める。


 ――そして同時にスゥ、と息を吸い込む。


「だけど……」

「ええ、ですが……」

「行こう」

「行きましょう」

「うん……」


 セイルが転移魔法を起こし、邪悪の爆ぜる天井を見上げた。

 そして緩やかに転移魔法が発動する。


 ――そこに残るはセイルの声。

 愛を宿し、愛思う、彼女の言霊。


 ――陽炎(かげろう)の様に消え去る。



「鴉紋が待っているから」


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