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145/149

145.満開開花(中)

申し訳ありません。上下2分割の予定が3分割になりました・・・。

 アーフェアの姿を見て、ウィルベルの表情がぱっと明るくなった――のは、ほんの一瞬だった。


「その体は……」


 日本のマリモの大きさは最大30センチ程度と言われている。それ以上になると形が保てなくなるのである。

 大きくなりすぎると、球状体の中央に日光が届かなくなるため芯から枯れていき、やがて全体がぼろぼろになって割れてしまうからだ。


 この世界のゴブリンも、大きさこそ違えど、根本的な部分は変わらないのだろう。植物である以上、日光が届かない部分から枯れてしまうのは自然の摂理なのである。


『――ぼくはね、ずっと不思議だったんだ。人間さんたちから離れられなかったのはなんでだろって』


 2000年生きてきた生命は嬉しそうに言った。


『さいごにその疑問がとけて、うれしい』


 さいご。

 ぼくがシアンを見ると、ぼくの問いたいことを悟ったシアンは「うん」とうなずいた。

 シアンにはゴブリンの言葉は通じてはいない。それでも、はっきりとわかるほどその体は朽ちていた。


「最期やなんて、そんな……」


 ウィルベルが言葉に詰まるけれど、アーフェアは構わず言葉を続ける。


『ぼくの心の端っこにはね、ずっと温かいものがあったんだ。なんだろうって思ってたけど、これが"好き"って感情だったんだね。ぼくの分身たちから、君からの"好き"って感情がぶわーっと伝わってきて、初めてわかった。理解できた。だから、ありがとう』


「……ううん。ありがとうって言うんは、うちのほうなんよ。2000年もの間、ずっと”人間を好き”って気持ちを秘めていてくれて。忘れないでいてくれて」


『かなしまないで。ぼくはもっと前に朽ち果てているはずだったんだ。心のなかの疑問がぼくを縛っていただけで、ほんとはもっと前にいなくなるはずだったんだから』


 夢のなかでぼくはアーフェアの歴史を追体験した。だからわかる。これは強がりじゃなくって、本心から言っているってことが。

 そして、ウィルベルが彼に伝えるべき言葉は、「死なないで」とか「悲しいよ」なんて言葉じゃないってことも。


「――うちはゴブリンさんたちが好きや」


 ウィルベルがアーフェアを優しく抱きながら言う。


「のんびりしとるとこが好きや。ノリがいいとこが楽しくて好きや。いっぱい飛んどる姿はきれいで好きや。無愛想にしてても優しさが隠せてへんとこが好きや」


 ウィルベルが、いっぱいの好きを伝える。アーフェアの2000年間の孤独を埋めるように。


「ゴブリンさんたちの素敵なところは――うちが好きなところは、ぜんぶあなたから始まったんや。せやから、うちはあなたのことも大好きや」


『ありがとう。君はやさしいんだね』


 ぴしりとアーフェアの表面にヒビが入る。


『だいじょうぶ、()()がいなくなっても、この島にはたくさんのぼくがいる。心はずっと残り続けるんだ。そして、いつか人間さんたちと「わっはっは」って笑って楽しく一緒に……』


 ぴしり、ぴしりと亀裂が広がっていく。

 ぼくの額の魔法宝石ルーンジェムがふぃぃぃんと鳴った。まるで子守唄のように。


『だから、これからは――』


 言葉の途中で、アーフェアの球状体が崩壊した。

 ぼろぼろと、とりとめなく崩れていく。表面が割れ、茶色に枯れた中央部が露出し、その芯すら崩れ落ちていく。球状体が完全に崩れ落ちて、残骸ざんがいとしか言えないものが世界樹の枝の上に積もりあがる。


「……」


 ぼくらはそれをじっと見守りつづけた。


「……」


 じーっと、じーっと。待ち続けた。

 え? なにをって? まあまあ、もうちょっと……。


『!』


 アーフェアの残骸のひとつひとつから、ピョコンと無数の新たな糸状態のゴブリンが出てきたのはそのときだった。

 

 マリモは割れることで新たな命を芽吹かせる。

 こうやって割れるのも生命のサイクルに組み込まれている植物なのだ。

 彼らにとって、死は別れではなく、新たな出会いなのである。

 

『?』


 新しく生まれた幼いゴブリンたちが、ぼくらの視線を不思議そうに見て、やがて集まり、球状体を作ってウィルベルのほうへと浮いてやってくる。そしてその目の端に浮かんでいた涙に触れて、


『ぬれたー』『なんやこれ?』『あったかいかもー?』


 幼いゴブリンたちはしばらく周囲を飛び回ったあと、空へと舞い上がり、その姿を視線で追っていたウィルベルは、


「ふぁ……すごい……」


 思わず感嘆のため息をついた。

 

 空に、大量のゴブリンが集まっていた。

 先ほどの怪獣戦のときもすごい数だったけど、それよりもさらに多い。


『なんかよばれた気がしたんやけどー?』『なんやったんかなー?』『あ、にんげんさんだ』『ウィルベルだー』『なんか用でもあった?』


 ゴブリンたちがウィルベルに気づいて話しかけてくる。

 ……呼ばれた? 誰に? そんなのは決まっている。


(アーフェアが呼んでくれたんやね)


 だったら、やるべきことはひとつだ。

 アーフェアが最後に言った「これからは」を紡ぐためにウィルベルはすーっと深呼吸をした。

次回パワーアップイベントになります。

レベルはまだ6ですが、それ以外のところでも強さの説得力を出せていければいいなぁと考えています。

次回更新日は2022/7/15 20:00となります。

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