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137.やっぱ好きやねん

 ぼくはずっと不思議に思っていたんだ。

 人間に興味のなさそうなゴブリンたちが、人間たちの住まう領域の上空を浮かんでいるのか。そして、怪獣から逃げているはずのゴブリンたちがこの空域にとどまっていたのか。


 その答えはたぶん、とっても単純だ。


「せやな」


 ぼくの考えを肯定するようにウィルベルがうなずく。


 ゴブリンはさ。人間に無視されて寂しい思いをしていたって言うけれどさ。その根本にあるのは人間に対する”好き”っていう感情だと思うんだ。


 好きだからしゃべりたい。触れ合いたい。

 じゃあ、その”好き”がどこからきたかっていうと……。

 

 ぼくはさっき見た夢を思い浮かべた。

 夢の中で見たリゼットさんは素敵な人だった。会う人すべてを思わず微笑ませてしまうほどに。

 どんな偏屈な人でも心を開かせる不思議な魅力があるほどの、理想そのままの勇者だった。


 リゼットさんとずっと行動を共にしていたアーフェアが見てきた人間っていうのは、そういう人間たちだった。アーフェアが対話したいと願うくらいに素敵な人たちだったんだ。


 もちろん、これはあくまでぼくの主観からくる推論であって、アーフェアがほんとにそう思っているかどうかはわからない。


 でも、ぼくはそれを証明したい。

 だって、悲しいじゃないか。アーフェアが人間のことが好きだとしたら、そういう風に導いてくれたのはリゼットさんで……。それなのに、そのリゼットさんが後悔してたなんてさ。


『へるぷみー』『たすけてー』『しにたくなーい』


 怪獣に取り込まれたゴブリンたちが口々に助けを求める。彼らはすべてアーフェアの分身ではあるけれど、それぞれが人格をもっているのだ。

 

「ウィルベル!」


「おうともなんよ!!」


 以心伝心。ウィルベルがぼくのやりたいことを理解してうなずいてくれる。よーし、ならば。


『こっちを見ろおおおおお!!』


『ひょ?』『なんじゃ?』『だれだれ?』


 突然の大声に、ぴたっと。ゴブリンたちの混乱が止まる。

 声とともに拡散させた魔力がほんの一瞬、怪獣を硬直させ、わずかな間の静寂が訪れた。


 よし。これで舞台は整った。

 じゃあ、ウィルベル。あとはよろしく!


「へ……?」


 ウィルベルは一瞬、間の抜けた顔で戸惑う。けれど、ゴブリンたちに注目されていることに気づいて、


「た……」


「た?」


「たすけてっ☆」


 キラッ。

 こめかみに手を当て、あざとい笑みを浮かべてピースサイン。


 さあ、ゴブリンたちの反応は!?


『……』『……』『……』


 なんとも言えない微妙な空気!


 デスヨネー。

 さすがにいまのはぼくも引くわー。……っていうかさ!!

 

「いまのって、どう考えてもゴブリンたちに演説をぶって「ボクたちニンゲンダイスキー」みたいな感じで力を借りる場面だったよね!? 名場面になる感じだったよね!? なんでそうなるの!?!?」


「いやいや、ミカのほうこそ、なんか悟った感じやったやん!? ミカが全部解決してくれる的な流れやったやん!? いきなりそんなこと言われても無理やって!!」


「はー、このご主人様つっかえねーな! 急にボールが来たから、みたいな言い訳しちゃってさ!! 脳みそに筋肉詰まってんじゃないの!? ――やめてっ!? お尻に手を突っ込んで奥歯ガタガタ言わさせようとしないで!?」


 ぎゃーぎゃーわーわー。


 まったくぼくらはいっつもこう! わかりあえたつもりでも、実はぜんぜんすれ違ってる。


 例えるなら、「サーモンの刺身には醤油じゃないよね」って言ったらレモン汁を絞られた感じ。絶対にサーモンにはマヨなのにね。


『なんやこいつら』『いきなりケンカしはじめたぞ』


 これにはゴブリンたちもあきれ顔。


(でもさ)(でもね)


 ぼくとウィルベルは顔を見合わせ、互いに微笑んだ。


「こうやって、すれ違うからこそ、ほかの誰かと一緒にいるのは楽しいねん」


 今度こそ、ぼくの言いたいこととウィルベルが言いたいことは一緒だった。そして、手を差し伸ばす。


「うちはゴブリンさんともそういう風になれたらいいなって思っとるんよ」


『なんで?』『どうしてぼくらと?』

 

「誰かと手をつなぎ合うのに理由が必要?」


『だって』『みんなに』『噂されると』『恥ずかしいし?』


「ううん。恥ずかしくなんかないよ。だって――」


 そこまで言って、ウィルベルは口を()()()()言った。


『うちらはゴブリンさんのこと好きやもん』


『……』『……』『……』


 もう、ほんとうちのご主人様ってばチョロイン! 誰かれ構わず好きって言っちゃえるんだもん! 大学にいたら絶対サークルクラッシャーになっちゃうタイプである。

 口にすれば陳腐すぎる口説き文句。だけれど、心から発されたその響きは、ゴブリンたちの心を揺さぶる。


『ぼくも……』


 最初にウィルベルの指先に触れたのは、どっかで見たことのある小さな小さなゴブリンだった。

 いや、ぼくにはゴブリンの区別なんてつかないんだけどさ。でも、ウィルベルは確信をもった口調で断言する。


「君は――昨日、助けてくれた子やね」


 言って、ウィルベルが微笑みかけたのと同時に、ゴブリンもちょっと恥ずかし気に微笑んだ気がした。


『ぼくも、好き……かも』


 一人と一匹の手と手が触れる。

 好きと好き。助け合いたいという気持ちがウィルベルとゴブリンの間に魔力を生み出す。

 

『……はー』


 その光景を見て、


『しゃーなしやな』『ぼくもいっしょにいくわ』『ちょっとだけなんだからね!?』『さきっちょだけ』『デレたわけじゃないんだからね!』


 雪崩をうったようにぼくらの周りにゴブリンたちが集いだした。いや、雪崩っていうのは比喩としてはよくないな。だって、閉ざされた心の閂が溶け出した光景なんだもの。


 イイハナシダナー。

 だけど、ひとつだけ言っておきたいことがある!


「さっき、ウィルベルはうち()はゴブリンを好きって言ったけど。ぼくは藻類のこと別に好きじゃないからね? ゴブリンのことが好きなのはウィルベルだけだからね!」


「うち知っとるで。そーゆーのツンデレって言うんやろ」


「ノー! 断じてノー! 本心だっつーの!」


『ぼくらもマグロ好きちゃうし』『生臭いだけだし』『すぐくさるし』『くろいからきらい』


『うっせえバーカバーカ! お前らなんて金魚に齧られて枯れちゃえばいいんだ! ふぁっきゅー藻類!!』


 ぎゃーぎゃーわーわー。

 大ピンチなはずなのにね。どこまでいっても、ぼくらはすれ違いまくりであった。


 もしも、リゼットさんがこの光景を見たらどう思うだろう? あきれるかな? 苦笑するかな?

 理想の勇者であるリゼットさんなら、こんなすれ違いは起こさないんだろうな。きっと、みんなを優しく包み込むんだろうね。


 でも、これがぼくたちだからね。理想の勇者には程遠(ほどとお)いけれどしかたないね。 


「ぬおおおおおおおん!!!!」


 怪獣の硬直が解けて動き出す。ぼくらを押しつぶそうとぐにゃぐにゃと腐肉が蠢動する。

 人間一人をひとひねりで挽肉(ミンチ)してしまうほどの圧力がぼくらを襲う。でも、


「ぬんっ!」


 ぶちぶちぶち。

 ウィルベルはいとも簡単に迫りくる肉塊を振り払った。


 この世界の魔力とは心の力。

 いま、ぼくらのなかにはゴブリンから託された信頼が魔力となって渦巻いていた。そのまま力任せに、


「ぜやあああああっ!」


 ウィルベルが気合とともに腐肉を押し返し、なお余りあるパワーで振り払う。怪獣の胴体に穴をあけて、跳躍!


 ――空が見えた。

 

「あはっ」


 空を見たウィルベルが野性的な笑みを浮かべた。

 

『いくぞー』『おくれるなー』『のりこめー』


 空が、(きら)めく緑に覆われていた。

 いったい、何匹のゴブリンがいるんだろう。2000年という年月をかけて増殖したゴブリンたちがぼくらと一緒に戦うために集まっていた。


「すごく、きれいや」


 思わず、ウィルベルが感嘆のため息をつく。

 2000年もの間、命令されるだけだったゴブリンたちが初めて自発的に集まって、生み出す魔力の奔流は思わず見とれてしまうほどに美しかった。


 淡い魔力の緑光がぼくらの周囲を渦巻き、ぼくらに力を与えてくれる。

 いままでにない、あふれんばかりの圧倒的なパワー……っていうか、あばばば! らめぇぇぇ! ほんとにあふれちゃううううぅぅぅ!!!

 はわわ。こんなん、中トロモードじゃ消費しきれないよ!? どうすりゃいいの、これ!?

 

(大丈夫。あなたならできるわ)


 そのときだった。どこかで聞いた懐かしい、あらあらうふふとした声がぼくを励ましてくれたのは。


【プライマリに登録されている『祈りの宝珠』の起動を実行――認証に失敗しました。セカンダリに登録されている『母なる海の黒金剛(ブラックダイヤモンド)』の起動を実行……。……。……。起動に成功。プライマリに設定……】


 体内で何かがカチリと嵌まり込んで、額に黒いダイヤのような魔法宝石(ルーンジェム)が浮かび上がる。

 と、同時に魔力操作がスムーズになり始める。これなら……いけるっ!

 

 急激な魔力の高まりが、煌めく奔流になってぼくたちを包み込んだ。


「ぬ、ぬおおおおおん!!!!」


 怪獣が何かに怯えるように後退る。

 

 ――リゼットさん。

 ぼくらはきっとあなたのような完璧な勇者にはなれない。でも、だからこそ。ぼくたちだからこそ、できることがあります。


「ふぅぅぅぅ……」


 集中力を極限まで尖らせて、ウィルベルが緑光のなかから一歩踏み出した。

 その身を包むのは、精霊の衣(エレメンタルローブ)。中トロモードとは違う、それよりも遥かに力強い人類の守護者、勇者の証。


 とは言っても、まだまだぼくらは力不足なのだろう。

 おさえきれなかった魔力がぼくらの周囲をグルグルと回って空を照らし、ビリビリと空気を震わせる。その様子はまるで、そう――

 

「名付けて、回転(リヴォルビング)寿司(スシ)モード!!」


「まーた、ミカはだっさい名前つけて……」


『なんやその名前』『ださすぎて草』『一回死んで生まれ変われ』


 くそったれー! なんで君ら、そういうところだけ心をひとつにしちゃうの!?!?


 ウィルベルが地面にふわりと降り立つ。

 汚染されて腐っていた地面が精霊の衣(エレメンタルローブ)の放つ光に照らされて緑の輝きを取り戻す。

 一歩、また一歩と歩むたびに怪獣に汚染された大地が息を吹き替えしていく。


「そんじゃ、初めての共同作業をはじめよか」


 じゃりっと大地を踏みしめて、勇者は堂々と茶色の巨人の前に立ちはだかった。

【お寿司 豆知識】

回転寿司の英語表記はいくつかありますがみなさんどれが好みでしょうか。

・Conveyor belt sushi(もっとも一般的。英語版Wikiだとこの表記)

・Rotation sushi (マイナー表記。回転寿司を直訳するとこれ)

・Sushi-go-round (マイナー表記)

・Sushi-train(オーストラリアチェーン店)

・Revolving Sushi(くら寿司チェーン店)


※sushi roll(あるいはroll sushi)は巻き寿司のことですのでご注意ください。

※響き的にRevolving Sushiを使いましたが、商標的にNGなようならローテーション・スシ・モードに変わるかもです。


次回更新は2022/03/21 20:00となります。

また、誤字脱字のご指摘には日ごろから感謝しておりますこと、この場を借りて申し上げます。

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