122.脳天直撃、頭が;y=ー( ゜д゜)・∵. ターン(☆)
(2020/11/30)初代勇者こと『始原の勇者リゼル』を『始原の勇者、聖女リゼット』に性別変更しました。
&今回、前半分は設定の説明回です。適当に読み飛ばしてください。
&時間軸的には、セドルヴェロワが首都港到着→このエピソード→セドルヴェロワとプラパゼータが合流 という流れです。
アミティ先輩に連れられて、モジャコの艦橋に到着すると、先生やユーリアさん、レアさんたちが忙しそうにしていた。
「騎士団からこの方面に何人を都合できるか――」
「すでに隊長クラスの人間は――」
「ならば、戦士ギルドから――」
どうやらあの式典のあと、ここで総攻撃のための会議をしていたらしい。
「(でも、なんで王城じゃなくてモジャコ内部で?)」
「(さあ?)」
ぼくらが不思議そうにしていると、ドアがコンコンとノックされ、レヴェンチカの情報科の生徒が息を切らして入室してくる。
「『女神の目』から通信が入りました。アルヴァンから200人までなら傭兵ギルドが参加できるそうです。費用と期日はこちらの資料を参照してください」
言って、資料を配布し、机の上の資料にアルヴァンの位置を記載。続いて費用と期日、規模を記載する。
資料を見ると、国内戦力と海外戦力について大量の書き込みがあり、配置や援軍要請について議論されているようだった。
「(リヴィエラくらいの小国だと通信設備がないので、浮遊有船内部で会議をするのは珍しいことではないのです)」
ぼくらの疑問に、小声で答えてくれたのはアリッサちゃんだった。
いわく、この世界の空をびゅんびゅんと飛びまわる浮遊有船は、地球の外洋船のように3時間ごとに位置情報や気象情報などを報告することが義務付けられているため、通信設備が整っているのだとのこと。
ちなみに、報告先は『女神の目』と呼ばれる、前に乗ったグランカティオのような船。
送信された情報は乗組員によって分析され、各地の天気予報や航路情報、魔獣の発生警報などに利用されているのだという。
複数の『女神の目』による情報網は、全世界の空をほぼ網羅しており、
「浮遊島は物理的な孤島です。なので、他国と連携を取る際にもその情報網が利用されるわけなのです」
「アズヴァルトのような大国であるならともかく、リヴィエラのような小国だと、そういった設備も旧式だったりで、モジャコの艦橋が使用されるというわけでありますね」
なるほど。どこの世界も小国の悲哀ってあるのね。
「そういえば、アズヴァルトって、確かベルメシオラのとこだよね? あそこってそんなに大きい国なの?」
「面積も人口も、どちらも世界有数の大国でありますよ」
はえー。ベルメシオラって思ってたよりもすごいとこの女王様だったのね。
「――思ったよりも単価が安いな?」
「――あそこは穀倉国で物価が安いですから。ですが少々難しいですね。その人数で遠征費用をこちら持ちとなると――」
ぼくらがおしゃべりしている間にも、先生たちは話をつめていく。
記載されている金額は、200人で20億クレジット。日本円にして約20億円相当。
緊急事態の費用としては安いように思うのだけど、そこは人口30万人のリヴィエラ。ひとつの傭兵ギルドにそこまでの大盤振る舞いはできないようだった。
ちなみに傭兵ギルドっていうのは、島を渡って魔獣を狩る戦士たちによるギルドで、在地の戦士ギルドよりもレベルの高い人材が揃っている団体だ。
具体的には、在地の戦士ギルドの平均がCクラスだとすれば、傭兵ギルドは基本的にはAクラス以上。サッカー風に言うなれば、国内組と海外組ぐらいの差があるって言えばわかりやすいかもしれない。
「対流側ですが、レゼルプラントに滞在している勇者がこれそうです。途中、ラブラントとヴァラールで早船用の人員を確保できるとのことです」
対流――地球に海流や偏西風があるように、この世界の空にも風の流れがある。
飛行機が追い風を受けたときに速くなって、燃料効率がよくなるのは有名だけど、浮遊有船も追い風のほうが効率がいい。
ところが一点だけ地球と違うところがある。
それは燃料=魔力の原資が人間であることだ。
早船とは、推力要員である船員を使いつぶしながら、目的地に向かう船のこと。
外空を飛ぶような大型の浮遊有船の推力には、非常に高い魔力を持つ人たちが必要になる。そんなエリートが複数人も必要になるので移動費用はすごく高くつく。
が、それでも200人の傭兵を招くよりは勇者さん一人のほうが滞在費は安くあがるのだろう。レアさんが悩む素振りを見せる。
「我が国とは貿易問題をかかえている国だな。あまり借りは作りたくはないが……」
「そうですか……。いったん、待機を伝えてください。回答の最終期限は?」
「はい。現在の風速から計算すると本日の18時までには」
「だがしかし、ヴァラールで早船が確保できるのであれば、こちらの空域の国家群から――」
喧々諤々。
地理要因、金額や規模。さらには国際情勢なども含めて、どこからどの程度の戦力を集めるかが議論されていく。
ほかにもゴブリンゾンビたちの動きを見張っている騎士さんたちも定時報告をしにきたりで、まるで戦時中のような忙しさ。
その中心にいるのはプルセナ先生とアーニャ先生。
なるほど。前に誰かが「バカは勇者になれない」って言ってたけど、まさにこのことである。
――と、いったん報告が落ち着いたところで、アーニャ先生がぼくらを呼んだ。
「来ましたね。話はアミティから聞いていますか?」
「はい、先生。エルフの森におもむくように、と」
ウィルベルの返答に、アーニャ先生が「よろしい」とうなずき、机上に広げられた地図の一点を指し示す。
地図には、ゴブリンたちの侵攻予想ルートが描かれているが、その進路から若干、北に外れたところにある小高い丘である。
「ここがエルフの居住地です。そして、この南に――」
言いながら、アーニャ先生が少しだけ指を動かし、ゴブリンたちの侵攻ルート上にある平地を指さす。
「物資の集積所と、最終防衛ラインを構築することになりました」
世界樹の周辺は、危険であるため土地は完全に未開拓。つまり、リヴィエラの人たちにとって、魔獣がやってくるのは南東だ。
それに伴って、リヴィエラの砦は湖岸沿いに築かれている。
今回のゴブリン討伐作戦は、生活圏に最も近い砦まで引きつけてから、反攻作戦を実施するということだった。
「が、エルフたちの居住圏と一部重複してしまったので、レヴェンチカの代表として、勇者候補生であるあなたたちに挨拶に行ってほしい、と。そういう話です。この国にとって、エルフという存在がどれほど重要かはわかっていますね?」
森人。
文字の通り、リヴィエラの北西に位置する森に住む種族で、おとぎ話のなかでいわく、遥か昔、女神マシロが世界樹アーフェアを植樹した際に生み出した種族なのだという。
長寿で、生まれつき魔力の高い者も多く、古い魔法――始原の勇者、聖女リゼットの時代の魔法技術や、独自の薬草学を継承しており、戦闘力もかなり高いとされている。
実際、過去のゴブリンによる災害の際には首都圏への侵攻を阻んでおり、その功績によって、王家はエルフと盟約を結び、様々な特権を与えていた。
「はい、承知しています」
「よろしい。それとウィルベル。あなたにはもうひとつ――」
「お前が、聖女と呼ばれているという娘か」
――唐突に。
アーニャ先生の言葉を遮るように、ぬっとウィルベルの顔を不躾に覗き込んできたのは、先生の後ろに控えていた2人組の女性だった。
ウィルベルに話しかけてきたのは、2人のうちの年長者のほう。
180センチほどの高身長。金髪碧眼。ハスキーボイス。森を彷彿とさせる緑を基調とした服装。どこか上品ではあるけれど、それ以上に他人への興味のなさが、見る者に冷淡さを感じさせる。そして何よりも目立つのは――とがった耳。
ほんとにエルフだ。やったー!
この世界だから、魚のオキスズキとか出てくるかと思ったけど、ちゃんとクールビューティな美人さんだー! おっぱいは控えめだけど。
でも、聖女ってなんじゃらほい? ウィルベル、知ってる? というか、なんでエルフの人がウィルベルの顔なんて知ってるの?
(うちにもさっぱり。なんなんやろね?)
そんなぼくらの反応を見て、首をかしげたのはサーシャちゃんだった。
「? ウィルベルちゃん、もしかして知らないの?」
「へ?」
「今月発行された機関誌の表紙、ウィルベルちゃんだよ?」
「ひぇっ!?」
言って、サーシャちゃんが取り出した機関誌の表紙に載ってるのは、見慣れた顔!
白覧試合の場面かな? クァイスちゃんに向かって「かかってこいや」みたいな挑発ポーズしてるときの写真である。
ちなみにレヴェンチカの機関紙って、この世界で一番、発行数の多い雑誌であるらしい。
その表紙を飾るということは……
「あ、あわわ……」
予想以上に有名人になってたウィルベルが目を白黒させる。
この程度のことで慌てふためくとは、うちのご主人様は小市民であらせられるな!
「じゃあ、もしかして、”あれ”も知らないのかな……?」
「あれ?」
思わせぶりなサーシャちゃんが「うん」とうなずいて、機関誌の中ほどのページをばーんと開く。そこにはなんと、ウィルベルの特集が!
「お魚担いで三千海里。立てばシャーク、座ればビターン! 歩く姿はクロマグロ。――ついた二つ名は『天空の聖女』!」
「おお。かっこいいんよ!」
二つ名の響きに、ウィルベルが思わず目を輝かせる。
「ちなみにどういう由来なの?」
「うん。『天才とバカは紙一重だけど、紙一重でバカのほう』『空振りを気にしない山賊のようなフルスイングの女』」
略して――天空の聖女。
「ぶー!?」
由来を聞いたウィルベルが思わず吹き出す。
ひぇっ。ばっちぃ!
でも確かにあの表紙の写真って、蛮族感に溢れてるもんね。仕方ないね。
「い、いや! でも!! 聖女っておしとやかなイメージあるし!? せやからプラスマイナスゼロ! ギリギリセーフ!! だよね!? ね!? そうだよね!?」
あまりにもな由来に、ウィルベルが泣きそうになって、サーシャちゃんにすがりつく。
が、サーシャちゃんはぷいっと顔をそらした。
「……お腹空いたら聖書とか齧ってそうな女、略して『聖女』だよ」
「oh……」
あまりにもあまりな由来にウィルベルは絶句した。
「――それはともかく」
ごほん、と咳払いをして、エルフの女性がウィルベルを値踏みするように観察し、次にぼくに視線を向ける。
「なるほど。これがお前の精霊か」
これまた不躾に、ぼくを舐めまわすような視線。マグロの競りのように情熱的で、いやん、照れちゃう。
エルフの女性はひとしきりぼくを観察すると、侍女のように後ろに控えていた若いエルフの少女を手招きした。
「シエル。あれを」
「はい。マーテル師」
師っていうことは、この人たちは師弟なのかな?
それはともかく、若いエルフの少女――シエルが懐から取り出して捧げ渡したのは、水晶玉と……50センチほどの銀色の針?
なんの道具だろ? ぱっと見た感じは塩分濃度計みたいな形してるけど……。
針のほうを受け取ったマーテルさんは、いぶかしがるぼくに対して、腕を振り上げ、
「ふんっ!」
ぶすり。
躊躇なしの一撃! ちょっと男前な掛け声と共に、唐突な脳天への刺突がぼくを襲った。
「ふぐぅっ!? まさかの活〆!?」
背筋がビクビクしちゃう。
「!? なにを――」
「騒ぐな。精霊はこの程度では、死にはしない」
ウィルベルたちが抗議しようとするのを押さえて、マーテルさんがグリグリと捻じってから、針を抜く。
刺さっていたのは、だいたい20センチくらいだろうか。
「魔力に含まれる瘴気の濃度を確認させていただく。この精霊はフカビトに噛まれたと聞いている。我らの里に、汚染された精霊を入れるわけにはいかないからな」
あ、これって魔力の検査なのね。ふー、てっきりお刺身にされちゃうかと思ってビビっちゃってたよ。
でも、ホッとしたのはぼくだけのようだった。
「ずいぶんと乱暴なやり方をするのですね」
ウィルベルを不躾にジロジロと観察したことも含めて、アーニャ先生がお怒りの表情で抗議をする。が、マーテルさんは素知らぬ顔。むしろ、当然のことだとでも言いたげに、肩をすくめた。
「どうも、お前たちのところでは最近、前例のないことが続いているようではないか。前例なきことは世界を滅ぼす兆候かもしれぬ。であれば、手ぬるいことをして、見逃すわけにはいかないだろう?」
どうやらこの世界のエルフさんは、超がつくほどの保守的な考えの持ち主であるらしい。
ともあれ、エルフたちは、アーニャ先生の抗議を無視して、検査を続ける。
ぼくの頭から引き抜かれた針に対して、マーテルさんが何やら呪文を唱えると、針の先端が軟化――どころか、液化し始める。
待つこと約10秒。針の先端に大きな水滴が出来上がり、それをシエルが捧げ持つ水晶玉にポタリと垂らす。
「この水晶が少しでも瘴気に黒く濁るようあれば、里への立ち入りをお断りさせていただく」
んもう、怖い顔しちゃって!
だいじょーぶ、だいじょーぶ。昨日の瘴気なんて、おしっこと一緒にすでに排出済み! いまのぼくの魔力はバイカル湖くらいに高い透明度を誇ってるに違いないね!
――反応は劇的だった。
マーテルさんの宣言とほぼ同時。水晶玉はこれ以上ないほどに、真っ黒に変化した。マグロなだけに。
※一応画像を貼っておくと、塩分濃度計ってこんなんです。
左が食事用で、右が熱帯魚とかの水槽に使うやつ(液体比重計ともいう)です。
【お船の豆知識】
新コロナによって天気予報の精度が低くなった、というお話はご存知でしょうか。
航空機は世界気象機関を通して、気温や風向・風速の観測データを提供していますが、新コロナによって旅客機の便数が減ったため情報量が減少し、精度が低くなっています。
というと、「飛行機ってけっこう身近で役に立ってるんだなぁ」と言いたくなりますが、天気予報に寄与しているのは、実は飛行機だけではありません。
実は船舶も、気象業務法で3時間ごとの気象・海象を記録して気象庁に報告することが義務付けられており、天気予報などに利用されています。
(みなさんご存知の通り、地球の表面の7割は海ですから、↑は超重要情報です)
このように、わたしたちが日頃から利用する気象情報は、気象衛星だけでなく、船舶や飛行機からも情報を得て、成り立っているのです。






