120.バカなマグロとチョコレート
「おめでとうであります!」
ウィルベルたちがモジャコの自室に戻ったとき、歓迎してくれたのはニアとサーシャちゃん、そしてアリッサちゃんだった。
式典が終わったあと、さすがに今の状況で祝賀会とはいかなかった。そのため、そのままモジャコに直帰したのだけど、ささやかながら、ケーキやら何やら用意しておいてくれたらしい。
パーンと空気圧縮式のクラッカーが鳴らされ、特にニアのほうは興奮した顔で、
「入学一ヶ月で褒章ゲットだなんて、レヴェンチカ史上最速でありますよ! すごいであります!!」
褒章をもらうってことは、国やその国の人たちから認められるということだ。そして、勇者にとって一番不可欠なのが、その【認められる】ってことなのだ。
有名なコピペで言うなら、『もし地球に将棋星人が攻めてきて、向こうの大将と地球代表が将棋一番勝負で対決し、負けたら植民地にされるという事態になったら、地球代表は絶対羽生でないとイヤだろ?』ってやつである。
低俗な言い方をするならば、もらった褒章の数は勇者候補生としての優秀さの証明ってわけ。
ちなみにクァイスちゃんはこれで5個目なのだそう。国家からの褒章ってそんなに簡単にもらえるようなもんじゃないと思うんだけど……。そこらへんはさすがクァイスちゃんってところだろうか。
その記念すべき5個目の褒章をゲットした当人は、
「あれ? クァイス先輩ってば、不機嫌じゃないです?」
ぶすーっと不機嫌。式典会場では外面を保っていて、隣にいるウィルベルくらいにしかわからないレベルでだったけれど、部屋に戻ってきてからは感情が漏れ出していた。
んもう! せっかくお祝いしてくれるっていうんだから、そういう態度はいけないよね。
なので、ぼくはその頬をツンツーンと突きながら、
「純粋な功績じゃなくて、式典のダシに使われたのが不服なんだよね? クァイスちゃんってば意識高い系だからそーゆーの気に食わないんだよね? そーだよね? よね?」
ふっ。我ながら完璧すぎるプロファイリングだな!
これにはクァイスちゃんも『コミュ障ツンデレなわたしのことをこんなにも理解してくれるなんて! 素敵! 抱いて!』って反応をしてくれ――
「わかったようなことを言うな。ぶち殺すぞクソマグロ」
――なかった。
それどころか、エラに手を突っ込んで奥歯をガタガタ――いや、待って!? リアルに奥歯まで手が届いてきてガタガタ言わされそうなんだけど!?
「ぐえー。口からネギトロが出そう」
「ミカはいつもどおりやねえ」
「ふん……。あんたもそうなんでしょ?」
クァイスちゃんがウィルベルに話を振ってくる。
こっちもご機嫌斜めとは言わないけど、いつものはしゃぎっぷりが嘘のような静かさだしね。
でもウィルベルは首を横に振ると、いただいた褒章を優しく撫で、
「うちはちょっとだけ違うかな。
確かに、ミカの言うように、うちがこれをもらったのは、士気高揚のダシって意味が強いと思っとる」
「それはそうかもでありますが……」
「でもな。本来のうちはそのダシになれるほどの活躍もしとらんやん?」
確かにフカビトを撃退したけれど、それだけっちゃそれだけだ。すごいはすごいのかもだけれど、国から褒章をもらえるほどの活躍かっていうと、かなり疑問符がつく。
「それは、これからの期待込みということなのでは?」
「ほんなら、その”期待”の理由ってなんやろな? うちが勇者候補生やからかな? フカビトを撃退したからかな?」
「それだけじゃ足りないわね」
クァイスちゃんが言った言葉に、ウィルベルはうなずく。
「はい。この褒章の”期待”の大元となっとるのは、いままで活躍してきた先輩たちへの信用や。
いままでいろんな国を守ってきた勇者さんの信用がぎょうさん詰まっとる。せやから、喜ぶよりもさきに、それに恥ずかしくないように努力せなあかんって思いのほうが大きいかな?」
「ふぅん」
クァイスちゃんが、なかなか考えてるじゃないのと言わんばかりに息を漏らす。
でも。まあ、まあ、そんなことはどうでもいいじゃん! 学生は学生らしく喜ぶのも仕事のひとつ!
「よーっし、ってわけでケーキ食べよう! ぼく、チョコレートケーキ食べたい!」
「……え”?」
ナマコの潰れるような声でサーシャちゃんがうめく。
「へ?」
? ……なにか不都合でもあるんだろうか?
えーと、用意されたケーキは5つでしょ?
食べるのは、ウィルベル(1)、クァイスちゃん(2)、サーシャちゃん(3)、アリッサちゃん(4)。そしてニア(5)……。……。…………。
「絶望した! ナチュラルに魚をハブるこの世界に絶望した! ぼくもミカンとかチョコレートとか、めっちゃ食べたかったのにィィィッ!!」
「さ、差別って、そういうわけじゃ……」
「まさかマグロさんがケーキを食べるとは思いもせず……」
サーシャちゃんとアリッサちゃんがなだめようとしてくれるけれど、うるさーい! バレンタインだけじゃなくて、日常ですらチョコレートをもらえない男の子の気持ちなんて、女の子にはわからないんだい!
「やだー! ぼくにもギブ・ミー・チョコレートォォォォッ!!」
ぎゃおおおおん。マグロ差別反対!!
「あんたら……なに、騒がしくしてんのよ」
そんな折り、部屋のドアをノックして入室してきたのはアミティ先輩だった。
ちなみに、アミティ先輩もルームメイトではあるけれど、こちらはハブられていたわけじゃなくて、大学課程の生徒たちは2日後の総攻撃について、レアさんたちと会議を実施中。……だったはずなんだけど。
「会議、もう終わったんですか?」
「まさか。まだようやく2割ってところよ。ちょっとあなたたちに頼みたいことができたんで呼びにきたのよ」
「頼みたいこと?」
「ええ。これから先生の説明があるけれど、ちょっと森人のところに行ってもらいたくてね」
……エル……フ? …………。エルフっ!?
ぼくはその単語にピタッと泣き止んだ。
「ミカ、どしたん?」
「エルフってあれだよね!? 耳が長くて、可愛いやつ!」
「え、ええ」
エルフだ、ヤッター!
オークとかにひん剥かれて、エッチなことされる種族キター!!
チョコレートケーキ? そんなのは空の彼方にぽーい! マグロの餌は、やっぱりイカがナンバーワン! チョコレートなんてしょせんブリどものエサっすよ。
そんなことより、せっかく異世界に来たんだから、きゃーエッチな展開のほうが優先だよね!
※大学課程の生徒は、上級将校の候補生みたいなものなので、作戦立案とかの訓練もしてます。
【お魚豆知識】
『みかん魚』や『チョコブリ』は株式会社宇和島プロジェクトの養殖魚のブランド。文字の通り、飼料にミカンやチョコレートを混ぜて育てます。
ちなみにチョコレートを与えられたブリは、チョコの抗酸化作用が作用し、4日ほどのあいだ変色しにくくなるでそうです。
https://www.google.com/amp/s/m.huffingtonpost.jp/amp/2018/10/23/chocolate-yellowtail_a_23568950/






