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呪術師は勇者になれない  作者: 菱影代理
第2章:豚
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第11話 双葉芽衣子・2

 双葉芽衣子と如月涼子のダンジョン探索は、順調に進んでいった。

 道中に現れる魔物は、ことごとく涼子の氷魔法の餌食となる。犬に似た中型の魔物なら『氷矢アイズ・サギタ』に貫かれ、牙鼠や虫のように小型、かつ群れで現れるものは『氷結放射アイズ・ブラスト』で一掃。

 芽衣子はただ、彼女の背中についていくだけで十分だった。天職『騎士』の力を振るう機会など皆無。安全、安心のダンジョン探索である。

 そうして、牙鼠を撃退してから数時間後、二人はついにダンジョン唯一の安全地帯である妖精広場へ辿り着いた。

「どうやら、天職の能力は使い続けると新しい技を覚えられるみたいよ。見て、双葉さん――『氷盾アイズ・シルド』」

 休憩がてら、能力の確認として涼子が新技をお披露目してくれる。彼女がかざした手の先に、何もない空間から突如として大質量の氷の塊、否、氷の盾が出現した。大きさは180センチほどだろうか。地面から生えるようにどっかり立つ長方形の氷は、前面の攻撃から術者の全身を完璧に防いでくれるだろう。

「ほぇー」とか間抜けな声を漏らしながら、神業的なマジックでも見たかのように、芽衣子は目をパチクリさせて涼子の説明を聞いた。

「名前の通り、防御用の魔法みたい。できれば、これで防がなきゃいけないような攻撃に晒される事態は避けたいわね」

 授かった魔法の力で、魔物を相手に連戦連勝。それでも、涼子は力を過信することなく、冷静に状況を分析できているようだった。

 しかし、そんな彼女でもピンチは訪れる。そう、危機というのは、いつも突然、我が身に降りかかってくるものなのだから。

「――っ! これはまずいわ、双葉さん、早く下がって!」

 焦りでやや上ずった涼子の声が、緑の木々に溢れるドームに木霊する。

 妖精広場で小一時間ほど休息を終えて、再びダンジョン探索に出発した二人は、ほどなくしてこの体育館の三倍以上はある大きな円形の空間にたどり着いた。牙鼠が現れた部屋のように、深緑の木々が生い茂り、ちょっとした森といった様相を呈している。上を見れば、剥き出しの鉄骨のようなアーチが組み合わさったドーム型の天井をしており、本物の森というよりは植物園のようなイメージを抱く。もっとも、白い光を発する四角いパネルの照明器具は半壊しており、とっくに閉館といった暗い趣である。

 そんな場所で、突如として涼子と芽衣子の二人は襲撃された。

 木陰から、あるいは樹上から、人影が幾つも飛び出したのだ。一見すると人、だが、次の瞬間にはその頭一つ分ほど低い背丈と、猫背が極まったような前傾姿勢から、猿だと思えた。

 結論からいえば、それはこのダンジョンに生息する人型の魔物である。人間を積極的に襲い、その肉を貪り喰らう、この異世界においても忌み嫌われる存在。

 その名は『ゴーマ』。

 情報そのものは、つい先ほど妖精広場で休憩した際にチェックした魔法陣で仕入れていた。もっとも、このゴーマに襲撃された瞬間において、目の前の醜悪な黒い魔物と、文字で読んだだけの情報が一致することは、いくら頭脳明晰な如月涼子といえども無理だったようだ。

 それでも、最初の一撃を覚えたばかりの『氷盾アイズ・シルド』で凌いでみせたのは、見事としか言いようがない。飛び掛かって来たゴーマが手にする斧とナイフの斬撃、そして暗い茂みの向こうから飛来した矢、その全ては分厚い氷の盾が防いでくれた。

 この間、双葉芽衣子はただ呆然としており、次に涼子が『氷矢アイズ・サギタ』の二連射で斧とナイフを持ったゴーマを始末したところで、ようやく恐怖の叫びをあげたのだった。

 氷魔法で果敢に応戦して見せる涼子。一方、切れ味鋭い肉切り包丁で武装した芽衣子は、ほぼ錯乱状態で泣き叫んでいるのみ。無暗矢鱈に手にする包丁を振り回していないだけ、まだマシかもしれない。

「コイツら、何てしつこいのよ!」

 ここに来るまでの間、魔物は涼子の氷魔法を受けるとすぐに撤退していった。出会いがしらに群れの仲間が二、三匹もやられれば、敵わない、あるいは割に合わないと察して、速やかに退いていく。魔物とはいえ、野生動物のような合理的本能があるのだろう。

 しかし、ゴーマはよほど人間に執着があるのか、それともよほどイカれているのか、五人、六人――氷柱に撃ち抜かれたのが十人を数えても、決して攻撃の手を止めようとはしなかった。

「――『氷盾アイズ・シルド』っ!」

 その粘り強さもさることながら、時折、暗闇の向こうから飛んでくる矢が厄介であった。

 涼子が一瞥した限りでは、太さも長さも不揃いな上に、鏃は鉄ではなく明らかに尖っただけの石、あるいは魔物か動物の骨と思われるものが使われていた。矢羽根なんてものはなく、とても安定した弾道は期待できないだろう粗末な作り。

 だが、それでも引き絞った弦に番えて放てば、矢は飛ぶ。先が石でも骨でも、鋭ければ刺さる。人間の柔らかい体、身に纏うのは鋼鉄の鎧兜ではなく、ただの制服。矢を防ぐに足る防御力など、あるはずもない。

 数撃ちゃ当たる、を実践しているとしか思えない矢の攻撃を前に、涼子も少しずつ、だが、確実に追い込まれていく。あんな不出来な矢でそうそう当たるはずもない。だが、もし一発でも当たってしまえば、そこで勝負は決する。矢を一本、体のどこかに突き刺したまま、今のように魔法を使えるか、走れるか、冷静に、考えることができるか。

 涼子は牽制の『氷結放射アイズ・ブラスト』と、本命の『氷矢アイズ・サギタ』を織り交ぜて撃ちながら、森林ドームから決死の撤退を続ける。

 背中には泣き叫ぶだけで、図体がデカいだけの役立たずな豚をかばいながら、涼子は泣き言一つ零すことなく、魔法を撃ち続けた。

 薄暗い上に、生い茂った木々という環境は、かなり視界を制限される。だが、ゴーマはこの薄暗闇を見通すほど夜目が利くようで、こちらを見失うことなく把握している。向こうには見えて、こちらは見えない。一対多数。ここまで耐え凌いでいるのが、奇跡のようなものだった。

「――そこっ!」

 僅かな茂みの揺れを見逃すことなく、骨の短槍を手にしたゴーマが飛び出してきた瞬間に撃ち殺す。涼子の攻撃魔法は、未だにその精彩さを欠かない。

 威力も、魔力も、集中力も、まだ途切れることなく戦い続けた涼子だったが、この時ついに――

「くっ、痛っ!?」

 運が尽きた。青い結晶の鏃がついた矢が、涼子の左太ももをかすった。真っ白い玉の肌に、痛々しい朱色の線が一筋走る。

 致命傷ではない。しかし、走っている途中で受けた痛みと衝撃に、前のめりに転倒してしまう。受け身は完璧。顔面から突っ込むような真似は、運動神経も悪くない涼子がするはずない。

 しかし、転倒から衝撃を殺す一回転を経て、再び立ち上がろうとするまでの間は、完全な隙となる。

「しまった――」

 再び起き上がったその時、目の前には二体のゴーマが立ちはだかっていた。

 一方は刃先の欠けたナイフを持ち、もう一方は赤錆でボロボロの鉈を手にしている。だが、どちらも濁った黄色い目に、薄汚い色と並びの歯を剥き出しにした大口を開けた、吐き気がするほど醜悪な容姿。その黒く脂ぎった体から漂うのは、腐った卵の硫黄臭と腐った魚の腐敗臭。そして、トイレ掃除で味わえるアンモニア臭を絶妙な配分で混ぜ合わせた、最悪の刺激臭だった。

 うっ、と吐き気をこらえるうめき声と、その秀麗な細眉をしかめた時には、ゴーマは手にした凶器を振り上げ、獲物まであと一歩のところまで迫っていた。

「あ、あ、如月さん!」

 芽衣子はこの時、ようやく遅いランニングを止めて振り向いていた。一方的に守られ、前を向いて走ることだけに集中できた彼女は、如何に豚足、もとい、鈍足といえど、涼子から僅かに距離を開けて先行できていた。

 無論、このタイミングで芽衣子が振り向いても、涼子のピンチを救う手立てなどない。芽衣子の天職は騎士。魔法による遠距離攻撃は不可能。

 故に、如月涼子が一命をとりとめたのは、第三者の助け以外にはありえなかったのだ。

「涼子ちゃん、大丈夫っ!?」

 よく通る少女の声音が届くと同時に、汚らしいダミ声の絶叫が響き渡った。

 その時、最初に涼子が目にしたのは、目前まで迫り来ていた二体のゴーマが派手に転倒するシーン。一方は喉に、もう一方は胸に、錆びたナイフが突き立っていたのが、チラリと見えた。

「うそ、美波なの!? どうして――」

「ただの偶然だって! いいから、早く逃げよ!」

 気が付けば、涼子は一人の少女と肩を並べて走り始めていた。足の傷は痛むものの、走るのに支障をきたすほどではないようだ。そんなことよりも、気になるのは隣を並走する彼女のことである。

 夏川美波。それが、窮地を救ってくれたクラスメイトの名前だ。

 クリクリした猫のような目は、彼女を可愛いらしい中性的な容姿に仕立て上げている。ショートの髪型と、こんがり日に焼けた小麦色の肌は、如何にも活発なイメージを見る者に抱かせる。その第一印象を裏切ることなく、むしろ、想像以上に元気溌剌としたエネルギッシュな少女だ。

 その体力は主に陸上部という至極真っ当な使い道に割り振られており、一年生の頃は期待のホープと呼ばれ、二年生の現在は不動のエースの座を獲得するに至っている。勿論、出場競技はスプリント。彼女の性格をそのまま具現化したような爆発的スタートダッシュは、白嶺学園陸上部を全国大会へと導いた。

 そんな筋金入りの陸上少女であるところの美波は、仲良く名前で呼び合うように、如月涼子と友人同士である。部活ではスーパーヒロインな美波だが、テストではいつも赤点ギリギリな劣等生。彼女の残念な学業のお世話を、我らがクラス委員長である涼子が甲斐甲斐しく焼いているというのは、二年七組において周知の事実である。ドがつくほど真面目な涼子が、宿題をそのまま写すことを許すのは、この夏川美波と天道龍一の二人のみ。

 さておき、元気でホットな美波と知的でクールな涼子は、正反対の性格であるが故にピッタリ反りが合うというタイプの友人関係であった。対外的には、親友と呼んでもなんら恥ずべきことはないというほど、仲が良い。

「ありがとう、助かったわ、美波」

「にはは、涼子ちゃんを助けるチャンスなんて、年に一度あるかないかだよっ!」

 絶体絶命の窮地のはずが、太陽が如き明るく朗らかな笑みを浮かべる友人のお蔭で、希望の光が満ちる。半ばあきらめかけた涼子の心に、溢れんばかりに気力がみなぎった。

「再会を喜びたいところだけど、まずはアイツらから逃げ切らないといけないわね」

「大丈夫、準備は万端だから――」

 美波が悪戯を仕掛けた子供のような笑みを浮かべて、ドームの壁際に開く一本の通路を指差す。そこへ駆け込む、というのはわざわざ問いかけずとも、明らかであった。

 ちなみに、美波が助けに入ったのを確認したらしい芽衣子は、猛進する猪のような逃走を再開しており、偶然その目に入っただろう通路へと向かうところであった。涼子の指示を聞く冷静さがあるかどうか分からない錯乱状態の芽衣子が、同じ方向へ走ってくれたのは幸い。

 もっとも、ドームから通路に入る境目の部分に、何故か歩道の縁石のようなでっぱりがあり、見事にそれに蹴躓いて転んだ芽衣子は、その幸運など微塵も感じることはないだろう。

 薄桃色のパンツがパツパツになってる大きな尻を丸出しにした恥ずかしい体勢の芽衣子に、二人が追いついたその時、美波が声高に叫んだ。

「今だよ、佐藤ちゃん! 撃って!」

 返答の代わりに、一本の矢が二人の間を駆け抜けた。キラリと輝く鏃は、通路の奥から飛来し、そのままドームへと飛び出していく。向かう先は追っ手のゴーマではなく、奇妙に捻じれた一本の木だった。人の胴ほどある幹のど真ん中に命中。緑の葉が生い茂る枝を震わせて、鈍い音が響く。

 外した――そう思った直後、狙い通りの大当たりであったことを涼子は知る。

 ゴゴゴ、という地響きが走り抜けた次の瞬間、地面が消えた。今、彼女達が立つ通路ではなく、数秒前に駆け抜けてきたドームの地面である。ちょうど縁石の向こうから、十メートル四方の面積が、正しく霞となって消失したのだ。

「え、何なの、これ……」

 確かに踏みしめたはずの地面が、幻のように消え去ったのを目の当たりにし、思わず涼子も目を白黒させてつぶやく。

「落とし穴だよ。ここって、こういう罠が色んな所に仕掛けられてるみたいなの」

 プレイ中のゲームを解説するかのような気軽さで、美波が言う。

「落とし穴って、こんないきなり消えるものだっけ?」

「さぁ? 魔法の落とし穴なんじゃない?」

 考えなしの美波らしい答えだが、事実、そうとしか思えなかった。魔法、という存在はすでに涼子自身が行使している。ならば、地球ではありえない仕掛けの罠があったとしても、何もおかしくない。いや、ここがダンジョンなどと呼ばれる場所である以上、無い方が不自然だろう。

「とにかく、これであのキモいのは追って来れないから、早く先に進もうよ」

 落とし穴は自分達が飛び込んだ通路の入り口を守るように、ぽっかりと開いている。軽く覗いてみた限りでは、深さの判別はつかなかった。奈落の如き暗闇が広がっているワケではなく、ドライアイスでも敷き詰めているかのように白い靄が立ち込めており、単純に底が見えないのだ。だが、少なくとも人の身長以上の深さがあるのは間違いない。

 ゴーマ達は落とし穴を前に、獲物を目前にしながら取り逃がしたことを無念がるようにゾロゾロと集まり始めていた。ギャーギャーと耳障りな声でがなりたてているが、誰一人として、この落とし穴を飛び越えようとかかってくる者はいない。

 この穴に落ちればただではすまないことを知っているのか、それとも、彼らにとっても未知の罠で警戒しているのか。少なくとも、ゴーマが一足飛びに十メートルの距離は飛べないということは明らかである。恐らく、身体能力は人間とそれほど変わらないのだろう。

「そうね、色々と聞きたいことはあるけれど、今は移動を優先すべきだわ」

 そうして、辛くも窮地を脱した涼子と芽衣子は、未だゴーマの叫び木霊するドームを後にした。




「夏川さんの天職は『盗賊』だよね?」

「え、そうだけど……どうして分かったの?」

 丸い顔に丸い目をした双葉さんが、ぽかんとしたように問い返す。

 如月涼子のピンチを颯爽と救った陸上部のエース、夏川美波。彼女の活躍を聞けば、誰でも簡単に想像はつくだろう――と思えるのは、僕がゲーム脳だからだろうか。

「いや、ナイフとかトラップとか使ってたし、そうなのかと」

「うん、確かに夏川さんはナイフを使ってたし、落とし穴とか秘密のドアみたいなのも、見つけられるんだよ」

 投げナイフの攻撃技と探知能力は、ほぼ確定といっていいだろう。

「能力名と効果は分かる?」

「え、うーん……『スロウダガー』っていう、ナイフを投げるのが上手になるのと、罠を見つける『サーチセンス』、あとは……そうだ、『疾駆はやがけ』っていう能力? えっと、確か武技って言ってた気がするけど、それで凄く速く走れるようになったって、喜んでたよ」

 なるほど、投げナイフとトラップサーチと移動強化技か。何とも盗賊の初期スキルらしい効果である。

「あとね、途中で新しく『スラッシュ』っていう技と、私と同じ『見切り』も覚えてたよ」

「『スラッシュ』は使うとどうなるの?」

「うーん、私はいつも後ろから見てただけだから、よく分からないんだけど……凄くよく切れるようになる、って言ってたと思う」

 シンプルな技名の通り、ナイフで直接的に切り裂いた際の威力を上昇させる効果ということか。これも正確には『武技』というものにカテゴライズされるのだろう。聞く限りの効果と名前から、魔法と対を成すスキル系統といったイメージである。まぁ、今は正確な分類名なんてどうでもいいけど。

「何て言うか、強そうだね、夏川さん」

「うん、すっごく強かったよ! 魔物が襲ってきても、いつも一番前で戦うの」

 見事に前衛の役割を果たしたということだろう。すでに氷魔法を使いこなしている如月さんが後衛にいるなら、かなり強力な連携がとれていたに違いない。近接戦闘職が壁役で、攻撃魔法使いが後ろから撃つ、というのはファンタジー系のネトゲじゃ定番の陣形だけど、まさかリアルで実行できるとは。

「でも、私は……全然ダメで……」

 話題に上ったことで、改めて夏川さんと自分との実力差を思い知ったのだろうか。見る間に双葉さんの顔が曇り、円らな瞳には再び薄らと涙の粒が浮かぶ。

 ここで即座に優しくカッコよく、それでいて思いやりに溢れる慰めの言葉をかけることができれば、今日から僕もイケメンの仲間入りを果たせたのだろうが、残念ながら、そのチャンスを棒に振ってしまった。

 ぶっちゃけ、双葉さん今のところ完全に足手まといになってるよね、という率直な意見しか僕の胸には抱けない。しかしながら、イケメンではなくとも、それを素直に言ってしまえるほど空気を読めないワケではない。

「あ、あのさ……矢を撃った佐藤って、男子の佐藤君? それとも女子の佐藤さん?」

 結果、僕がとった選択は、双葉さんによる自責のつぶやきを聞こえなかったことにして、話を次のステップに続けること。スルースキルって、大事だと思う。

「あっ、ごめんね……佐藤さんは女子の方だよ。佐藤彩さん」

 佐藤さんってそんな名前だったんだ。正直、苗字しか覚えていない。

 彼女は僕と同じように、そんなに目立つ生徒じゃない。そもそもウチのクラスは普通の生徒と、蒼真君や天道君みたいにやたらハイスペックな生徒との二極化が激しすぎる。チートステータスな奴らを狙って集めただろ、と二年七組のクラス分けを見た時に思ったっけ。勿論、その中には如月涼子と夏川美波も含まれる。

「佐藤さんは射手?」

「うん、中学の頃は弓道部だったって、言ってたよ」

 個人に最適な能力を与えるのが『天職』という話だから、まぁ、多少なりとも経験のあるものが反映されるのは当然かもしれない。よほどズバ抜けた才能がない限りは、神様だって使い慣れたものを与えようと思うだろうし。

 もっとも、僕は佐藤彩の腕前など全く知らないが。少なくとも、全国常連の蒼真桜ほどではない、というのは間違いないだろうけど。

「じゃあ、そこで仲間に加わったのは、夏川さんと佐藤さんの二人だけ?」

「うん、他の人は……途中で、落し物の鞄を見つけただけで、誰とも会わなかったよ」

 脳裏によぎる、ゴーマ共が女子生徒を貪る悪夢の光景。あんな風に食われたなら、そりゃあ死体は残らないだろう。

 ちくしょう、思い出したら気分が悪くなってきた。止めよう――

「それじゃあ、これで四人パーティになった、ってことか……」

 いいや、この四人、という組み合わせの方が、もっと気分が悪くなりそうだ。なぜなら、すでにオチは明かされているのだから。

 この妖精広場で、重傷を負った双葉芽衣子だけが取り残されたという、僕自身が遭遇した現実に。

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