婚約期間の意味。その3
それからまた月日が過ぎて本日は城内にて勉強をしていた。妃教育や王子教育ではなく学園に入学するに辺り、上位の成績で入学したい、とルナベルが望んだことから王子教育を行っている家庭教師に、ルナベルも教えてもらうことにした。
「バゼル伯爵令嬢は、なにか苦手な勉強がございますか」
家庭教師に問われてルナベルは国内の地理が難しいことを答える。
「なるほど。これまではどのようにお勉強を?」
という問いには、王都の隣に公爵領があり、その隣には……という形で教えられたが、よく分からないのだ、とルナベルは肩を落とした。
「それは口頭で教えられたのでしょうか」
「はい。その通りです。それで理解出来ない私に、教育係の方は、覚えられなくても令嬢だと地理は必要では無いので大丈夫です、と仰って。ですが、私は令嬢だから覚えなくても良いということは無いと思うのです。教育係の方は、そのように仰って覚えられない私を慰めてくださっただけなのかもしれませんが、私は分からない自分がとても悔しくて。だから教えていただけましたら、と思いました。ただ、殿下の家庭教師の方であらせられますから、殿下とは違い覚えの悪い私に呆れてしまわれるかもしれません。その折は、ハッキリと仰っていただけましたら、私も諦めがつくかと思います。我儘を申してすみませんが、どうぞ宜しくお願いします」
国の地理について口頭で教えられ、覚えられなかったルナベルは、令嬢ならば地理に疎くても構わない、というような口振りで宥められたことがとても悔しくて仕方なかった。
「分かりました。本日、殿下と共に教えることを致しますが、殿下のペースが乱れるくらいでしたら、バゼル伯爵令嬢を切り捨てることもあるかと存じます。それでもよろしいのですね?」
「はい。それでお願いします」
家庭教師の確認は見限る可能性も示唆している。ルナベルは固い表情で頷いた。家庭教師も分かりましたと頷き、では始めます、とノクティスとルナベルを交互に見た。
それから家庭教師は少しお待ち下さい、と言い置いて一旦教材を取りにその場を外した。護衛や侍従は室内に居るものの、声が届かない範囲に下がっていることから、ノクティスはルナベルに疑問に思ったことを尋ねた。
「バゼル伯爵令嬢は、地理を克服して成績上位を目指したいのはなぜなのか尋ねてもいいか」
「はい、殿下。殿下は母の出生のことをご存知だと聞き及んでおります」
ノクティスの疑問にルナベルがそこを確認する。ノクティスが軽く頷いてルナベルは続けた。
「では、私か妹が彼の国の公爵家の跡取り候補であることもご存知のはず」
ああ、そうだった、とノクティスは思い出して頷いた。
「条件として提示されたわけではありませんが、母に心構えを尋ねましたところ、強制では無いけれど可能であれば、学園での成績は上位の立ち位置を目指す方が良い、と助言をもらいました。それは私も妹も、ということです。公爵家の跡取りならばそれくらいの成績を収めていないと、跡取り教育が追いつかないだろうから、と。跡取り教育と学園の勉強は違うこともあるけれど、学園の勉強を把握しておけば、跡取り教育で困ることが少なくなる、とも助言されました。国は違えど、貴族の基本的な勉強は変わらないはずだからということでしたので」
ルナベルの話にノクティスは改めて婚約が続行出来ない理由を思い出していた。
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