正妃と側妃と国王陛下。その4
「ご理解いただけたのならもうそれで良いです」
側妃はようやく終わった、と思えた。
「それで良いわけではないのよ。事実が判明したからには、それ相応の処分は必要。いくらあなたが分かってもらえたら、と言っても身分制度というものを理解させるためにもね、このままというわけにはいかないの。それは理解してもらえるかしら」
自身も夫も側妃を気遣えなかったことは反省して、それはそれとして宰相たちに咎め無しというわけにはいかない、と正妃は言う。側妃としては処分など、という気持ちだが、身分制度というものの重さを理解させるためにも必要、と言われてしまえば側妃も反対しようが無かった。
「陛下と殿下にお任せします」
側妃の了承を得た二人は頷き、それはあとで国王と正妃で話し合うことにした。
「そちらは任せてもらうとして、あなたは除籍後はどうするの」
陛下と離婚して誰か良い相手を探して再婚をするのか、という意味で正妃は尋ねたのだが。
「教会へ参ります。シスターとして国を見守ります。当時の婚約者は今の夫人と出会われて自家を盛り上げております。夫人を大切にしていることは陛下主催の夜会で目にしておりました。他の方と再婚も考えておりませんし、教会で日々を暮らすのが一番落ち着きましょう。実家も代替わりして私も実家も気遣いばかりで落ち着かないでしょうから」
予想もしない話を聞かされ、正妃は絶句した。
三年後に離婚し王籍除籍されても、側妃が侯爵令嬢であったときの評価は手本とするべき淑女の一人、と言われている。正妃も令嬢時代はそのように評価されたし、毎年そのような令嬢は一人は必ず現れるもので、側妃もその一人だった。
だからこそ、離婚し除籍されたとしても、後妻に欲しがる当主が現れるだろうと思っていたのに。本人に再婚の意思が無いとは思いもよらなかった。それは国王も同じ気持ちだった。
「そなたがシスターになることに余がとやかく言えることは無いが、折角だから令嬢たちのマナー講師など良いと思うが」
国王からそんな提案をされて側妃は驚き目を瞬かせる。
「陛下と離縁し、王籍を除籍する私は周囲からは瑕疵があったと思われますから、私には出来ぬことかと」
少しは気にかけてもらったのかもしれない、と思えたものの側妃はその提案を断る。実際、除籍されれば理由など知らなくても、いや知らないからこそ、側妃に瑕疵が出来たと心無い噂をされる可能性がある。それならば静かに過ごせる環境を選びたかった。
「そういうこともあるかもしれませんが、あなたの人柄を知っている者はそのような勘繰りはしないでしょう。まだ三年ありますから少し考えてみてはどうかしら」
断った側妃に正妃がやんわりと忠告する。まだ決めるのは早いだろう、と言われ側妃は困ったように笑った。是とも非とも言わず側妃は話を変える。
「陛下、殿下、これから話すことはお二方のお心に留めておいて欲しいのですが」
側妃は話すつもりのなかったノクティスの婚約について裏事情を伝えておこう、と決めた。きっと。もっと早く話し合っていれば、という後悔が話をしようと決意させたのだろう。
側妃の切り出し方に国王も正妃も居住まいを正し、話を聞く態勢を整えた。
そんな二人を見た側妃は、ノクティスとルナベルがやがて婚約破棄を言い出すこと、それを受け入れたルナベルに、ノクティスが後悔して婚約破棄の撤回を申し出ること。申し出て、それを受け入れるルナベル。婚約破棄が撤回されたら後に婚約を解消することを伝えた。
「なんだそれは。バゼル伯爵が言い出したことなのか」
あまりにも荒唐無稽な話に国王が眉間に皺を作りながら、責任を取る立場をバゼル伯爵に見出すように尋ねる。
「バゼル伯爵が言い出したことではないですが、あちら側の考えであり、私もそのつもりでいる、と承知おきください」
「なにか理由があることは分かりますが、それを打ち明ける気は無さそうですね」
側妃が国王に対してそのように言えば、正妃がすかさず理由を知ってるだろう、と指摘する。だが、側妃は問われても応えなかったので、理由を打ち明けることはしないのだな、と判断した。
「いつかお話出来る機会があったらお伝えしましょう」
側妃は自分の一存では難しい、と言外に匂わせた。
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