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正妃と側妃と国王陛下。その2

「余がもっと二人を気遣うべきだったのだ」


 側妃の言葉にならない悲痛を聞いて落ち込む正妃の隣で、国王はポツリと間違いを口にする。正妃のことは大切だし、彼の中では国や政の次に優先度の高い存在。でも。

 側妃を娶ると決めたからには、側妃のことも大切にして側妃の心を慮る必要があったのに。国王の中では側妃のことを後回しにしても良い存在にしてしまっていた。側妃があまり関わろうとして来なかったこともさらに後回しにしても良いと思ってしまった。

 その国王の気持ちが無意識の行動で周りに気づかれていたのだろう。結果として、側妃は周りから蔑ろにされてしまった。使用人たちは側妃を大切にしているのは、側妃の実家から連れてきたり侯爵家に連なる家の者だったりするからで。そうでなければ、使用人たちにすら蔑ろにされていたかもしれない。


「正妃のことは大切で、国や政の合間とはいえ、気にかけていた。……つもりだった。頭では理解していても、感情では側妃を受け入れることは出来なかった、という正妃の心に気づいてやれなかった。

側妃のことも受け入れる、と決めたのならば、側妃の人生を変えてしまったのだから気遣う必要があったのに、自分で決断しておいて気遣うことも無く、寧ろ関わろうとしない側妃に、余も極力関わらなくて良いことに安堵してしまっていた。

だから、側妃の立場が悪い環境に気づかず、我が子であるノクティスの環境も悪いことに気づかなかった。ノクティス付きの使用人が側妃の家の者だったのは、ノクティスも除籍させるつもりだったからだろう」


 国王の後悔に側妃は頷く。


「はい。ノクティスも何れ王籍から除籍させるつもりでした。だから第一王子殿下にも第三王子殿下にも接触させるつもりは無かったのです」


 だが、ノクティスは王籍に残ることを選択した。息子の意思は尊重しなくてはならない。だから側妃は自分だけの除籍を願った。


「ああ、だから息子たちと関わらせなかったのね。でもノクティス殿は息子たちと関わろうとしてきた。今まで関わろうとして来なかったのに、今さら何を、と息子たちも私も思ってしまっていたわ」


 ノクティスの除籍を考えていた側妃の考えを知り、正妃は深く納得した顔をする。


「その背景にあったのは、余も正妃も宰相たちも含めた皆がそなたを側妃にしようと望んだくせに、正妃に子が出来たと分かった途端に掌を返し、そなたに素っ気ない態度を貫いた宰相たち。そしてそれに気づかなかった余と正妃のそなたへの気遣いの無さだったな」


 国王は調査の結果を思い返し、またも項垂れる。


「二年前、あなたから宰相を筆頭に表向きは丁重に扱われながら陰で蔑まれている話を聞いたとき、信じられない思いでした」


 項垂れる夫の隣で正妃も陰鬱な声で語り出した。


「信じられないけれどあなたが嘘を言うとも思えず、かと言って宰相や大臣たちに真正面から問い質しても簡単に肯定はしないだろう、と考え。先ずはノクティス殿付きにした元々私の実家筋の使用人たちから、使用人同士の話を教えてもらうことにしました。

噂で聞いた者も居れば、直接誰とは言わないまでもあなたの子が女児であれば良い、と申す者が居た、と教えてくれる者も居ました。また、ノクティス殿が生まれたことに落胆した者も居た、と教えてくれる者も。まさか、と思いながらの聞き取りだっただけに、真実だと知って唖然としました」


 正妃は聞き取った使用人の話を口にする。全ての使用人たちから聞くわけにはいかないものの、政を司るエリア担当の侍女や侍従、メイドなどから直接または信頼出来る者を介して聞き取った、と。公務の合間に調査してくれたから時間が掛かったのだろうが、直々にそこまでしてくれるとは、側妃も思っていなかったので驚いた。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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