側妃と伯爵夫人。その3
バゼル伯爵夫人がいらっしゃるわよ、珍しいこともあるものね。などの声が聞こえてくるが、アイノは当然何も聞こえていないフリをする。茶会がスタートして主催の側妃が挨拶をする。表向きは他国で流行っているという珍しい菓子が手に入ったから、というものらしいが。
「抑々側妃殿下がこのようにお茶会を開くことが珍しいわよね」
コソコソと聞こえてくる。正妃が主催のお茶会は年に何度か開催されるが、側妃が主催する茶会が年に一度あるかないか、といったところ。その珍しい茶会にアイノが参加しているのだから、それは注目されても仕方ないことだった。
だが、側妃の人選は正しいのか、表立って波風立てるメンバーもおらず、アイノに直接側妃との関係を聞き出す者も居ない。和やかに進みある程度のところでお開きとなった。
あら、何も起こらなかったわ。何か面白い趣向でもあるかと思ったのに。
などとアイノは考えたが、抑々、側妃が何か面白い趣向を凝らすつもりが無い限り、滞りなく終えるのは当たり前のことである。
そして側妃としてみれば、何か面白い趣向を凝らすなんて、ただでさえアイノが茶会に参加していることで注目を浴びているから、さらに何かあったらアイノの機嫌を損ねるのではないか、と危惧してのこと。側妃の気持ちなど知らぬアイノが勝手に期待し、拍子抜けしているだけである。
一人一人に土産を持ち帰るよう侍女から手渡されたが、アイノはそこでメモを渡される。素知らぬフリで受け取ってそっと内容を確認すると、侍女の案内に従うように書かれていた。
なるほど。これなら不自然なく側妃と話し合いが出来るというもの。やがて夫人方が案内されて退席するのに合わせてアイノも退席し、侍女の案内で一室へ。そこで暫し待っていると側妃だけでなく正妃まで現れた。さすがに正妃の存在は予想しておらず、内心は慌てているがそれを出さずに、正妃に挨拶をした。
「ねぇ、側妃。バゼル伯爵夫人と何をコソコソしようと考えているのかしら。いきなり陛下に王籍除籍を願い出たこともよく分からないし。あなたの息子・ノクティス殿下の周りから自分の手のものを下げたのも分からない。そして、全く関わっていなかったはずのバゼル伯爵夫人。彼女がレシー国の公爵家出身であることと何か関係があるのかしら」
アイノの挨拶を無視した正妃が、側妃に率直に問いかける内容を聞くに、どうやら正妃は側妃の行動を訝しんで突然ここにやって来た、ということらしい。
側妃がどのように対応するのかアイノは気になって側妃を見遣る。側妃は正妃へ敬う態度を見せてから正妃が懸念していることを的確に理解して否定した。
「正妃殿下がお疑いなのは、我が国をレシー国へ売ろうとしていることでしょう。売国は国家反逆罪です。そのようなこと、側妃として召し上げられた私がするわけが有りません」
「口ではどうとでも言えるわね」
アイノは売国の意図がある、と側妃が疑われていると同時に自分もそのように疑われていることに気づく。ただ、正妃から見れば、大人しくしていたはずの側妃が急に除籍を願い出たことも目を疑う事態なのだろうし、関わりなど無かったはずの大国の元公女と親しく関わろうとするのなら、何やら企んでいる、と懸念してもおかしくないのかもしれない。
これはアイノとしてもどのように申し開きをするべきか、悩む。
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