方針の話し合い。その2
「ジゼル様……。その方は下位貴族の方でしたけど、ノクティス第二王子殿下と恋人同士となられ、陛下がバゼル伯爵家の養女として私の代わりにノクティス第二王子殿下の婚約者とすることで、家族と私の追放処分を無しにする、と言わしめたお方でしたかしら」
兄と父が気にかかると言う存在、ジゼル。ルナベルはロミエルに確認しながら尋ねるとその通りです、とロミエルが重々しく頷いた。
「そのジゼルという娘は、今は関わっていないが、いずれ関わることになるのであれば、現在その娘がどのような状況なのか知っておきたい」
イオノの懸念は分かるため、それについて反対は出ない。ジゼルも記憶を保持している場合は近づいてこないだろう。バゼル伯爵家が国外追放処分を受けたとき、おそらく国王はアイノがレシー国の王女という身分である、と正妃・側妃・王子たちと元凶であるジゼルという娘に話してあるだろう。
話を聞いた記憶が残っていれば、賢い者は、二度と近寄ろうとはしてこない。だが、記憶が無ければ同じことの繰り返しになる可能性は高い。その辺りのことを確認しなくてはならない。
「ただ。記憶があるとしたら、ノクティス第二王子殿下に近づくものでしょうか」
ルナベルが怪訝そうに首に傾げる。
「確かにそうだな。ノジ公爵家とレシー国王家が後ろについているアイノの嫁ぎ先であるバゼル伯爵家に近寄ろうとはしないだろう。尤も記憶があるからこそ、ルナベルの方に擦り寄ってくる可能性はあるかもしれんがな」
オゼヌがルナベルの考えに同調する。その上でルナベルの方に近づく懸念も口にした。
「その考えでいったら、ノクティス第二王子殿下はルナベルと婚約して破棄など言い出さない可能性がありますね」
オゼヌの考えでいくなら、とリオルノはそちらの懸念も指摘する。
「まぁここでアレコレ考えていたって仕方ないわ。ノクティス殿下が婚約破棄を突き付けないのであれば、それでは巻き戻りが終わらないと言えばいいのよ」
あっさりとそれで解決、とばかりにカミーユが言うが、そこで終わりなのではない。
「義母殿、それでは終わらないのでは? 婚約破棄を突き付けた後で、それを取り消すことで終わることになるはず……。婚約破棄を取り消したいのがナハリ国王陛下の意思だったわけですから」
イオノが冷静にその点を指摘するが、そこまで口にして気づいた。
「婚約破棄を突き付けられ、それを取り消したい、と取り消されたら婚約続行ということに……なってしまうのか。ルナベル、やっぱりこの話は無かったことにしておこうか」
イオノがその事実にようやく気づく。婚約破棄宣言からの婚約破棄撤回で巻き戻り現象が終わるだろう、という推測にばかり意識が向いていたが、婚約破棄を取り消した時点で、ルナベルとノクティスの婚約破棄の事実が消えるのだから、それは続行ということに他ならない。
元々別に王家と繋がりが欲しいわけではないイオノからすれば、前回ルナベルのことを信じず、きちんと向き合わずに婚約破棄を宣言して国外追放処分まで出された自分の娘と、今度は婚約破棄を撤回して続行という形を迎えることだって気が進まないのに、続行ということは娘が王家に嫁ぐということになってしまう、ということで。
王家と関わる気のないイオノからすれば、婚約続行でルナベルが王家に嫁ぐことになるなんて、却下する案件である。
「だからこそ、婚約破棄を撤回してもらったものの、ルナベルが傷心してしまったことから、レシー国のノジ公爵家へ養女に出す、という話になるのでしょう」
ルナベルに婚約の話そのものを無かったことにしよう、とゴネていたイオノに、カミーユが呆れたようにそういう話の流れでしょうに、と指摘した。
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