方針の話し合い。その1
メルトと話し合い確認し合ったアイノは、ノジ公爵家で待つ家族の元に帰って、オゼヌとカミーユを含めた皆で認識を共有することにした。つまり。
「では、お祖母様とお母様のご意見では、私とノクティス第二王子殿下の婚約を調え、その後私は婚約破棄をノクティス第二王子殿下より宣言されることが目標ということで合っていますか」
ルナベルの確認にアイノは頷く。
「側妃殿下の話によれば、事象有りきで人も時間も場所も別で構わない、という話だったか」
オゼヌの問いにもアイノが頷けば、オゼヌがふむ、と顎に手を当てて思案している。
「そうであるのなら別にルナベルでなくても別の者でも良いのではないか」
オゼヌの言うことも尤もだ。ただ、別の人がその対象になるということは、その別の相手に傷がつくようなものなのだが。婚約破棄を突き付けられる、というのは突き付けられた側に問題がある、と表沙汰にされているようなものなのだから。
そう考えるのならルナベルは? という疑問が浮かぶが、その辺りについてメルトが助言してくれたのである。
「メルト妃殿下が仰るには、私の養父母であるお父様とお母様は、まだルナベルかロミエルのどちらを養子に迎えるか決まってないだろうから、ルナベルに辛い目に遭ってもらう代わりに、ノジ公爵家の跡取りにすれば良いのではないか、と」
アイノは少し躊躇いながらもメルトの考えを伝える。
いくらアイノがノジ公爵夫妻の養女であっても、跡取りについて口を挟める権利が無いことくらい分かっている。それは実母であるメルトでも同じ。
それでも、ルナベルがノクティスに婚約破棄され、それを撤回されたとしても、ルナベルが王子妃の地位に着くことは無い、と言える。
撤回されたから全て元通り、ということは無い。表面上は何も無かったことにして、元通りと見せかけても、婚約破棄された事実は無かったことにならない。表向きは無かったことになるわけでも。
その場に立ち会った者は知っているし、立ち会わずとも噂が広まるのは容易。そうなってしまえば、好奇や憐れみなどの目を向けられる可能性がある。
「だから、婚約破棄を突き付けられた後、それを取り消す……撤回されたとしても、好奇の目を周囲から向けられる中にいるよりも、レシー国に来て再スタートを切る方がルナベルのためになる、というのがメルト妃殿下の案でした」
「なるほど。我が公爵家を逃げ場、として提案したか」
ふっふ、と面白げに声をあげて笑うオゼヌ。
「お祖父様、お祖母様、そのときが参りましたら宜しくお願いしますね」
ルナベルがオゼヌとカミーユに頭を下げてから、続けて。
「それでお母様、お伺いしたいのですが。ロミエルの話では前回、私は十八歳で婚約破棄を宣言されたとのことでございました。仮にノクティス第二王子殿下とそのお母様であらせられる側妃殿下のどちらかに、その前回とやらの記憶があった場合は、十八歳には婚約破棄を宣言してもらいますか? それともそれより早く宣言していただくのでしょうか」
ルナベルの確認に、アイノは返事に詰まる。
「時間も人も場所も違って大丈夫ならば、早くに婚約破棄を宣言してもらい、それを取り消してもらって良いとは思う。ただ、記憶が無い可能性も低いがある。だからどうなることか分からない。それに私は気にかかることがある」
返事に詰まったアイノに代わり、イオノがルナベルに答えるが、そのイオノもまた気がかりがある、と眉間に皺を寄せた。
「父上の気掛かりとは、ロミエルの話に出てきたノクティス殿下の恋人とかいうジゼルという名の令嬢のことですか」
イオノと同じようにリオルノもまた懸念していた、と直ぐにその名前を出す。イオノもうむ、と頷いた。
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