娘との話。その3
「それでね、ここからが大切な話だけど。アイノとしては嫌だと思うのだけれど、ルナベルと第二王子を、もう一度婚約させて欲しいのよ」
母の申し出にアイノは、そうだろうなと思う。
母の話によれば、父であるレシー国の国王が元凶のようだが、巻き戻り現象が起きてからは父は正妃殿下に婚約破棄を言い出したことが無い、というわけで。色々あって、前回はルナベルが婚約破棄を突き付けられた。
「今回も婚約をして婚約破棄を突き付けられる可能性が高い、ということでしょう?」
アイノが確認をすればメルトが頷く。
「でも、婚約破棄を取り消したいと思うでしょうか」
メルトの言うことは分かるが、婚約して婚約破棄を突き付けられ、そして取り消しの宣言をもらわなくてはならない。取り消してくれるだろうか。
「そうね。その辺りのことを考えなくては、ね。アイノ、ロミエルが話してくれた前回のことや、今、何か気になることがあったら話してくれないかしら」
メルトに請われてアイノは思い返す。ロミエルが話していた前回のことで、メルトが気にかかるのが、ルナベルの婚約破棄騒動。アイノはメルトに聞いている限りのこと、と話してみるが、ノジ公爵の手紙を通して知った話ばかりのようで、コレといって気にかかることは無いようであった。
「お母様がご存知のことばかりだったかしら。お役に立てずにごめんなさい」
「役に立たない、なんて思っていないわ。あなたもそんな風に思う必要は無いの」
アイノが思わず謝罪をすれば、メルトは気にしなくていい。と伝えながらも、さて、と悩む。
「ああ、そういえば」
どうしたらルナベルが第二王子から婚約破棄を突き付けられ、その上でそれを撤回させられるのか、そんな風に悩んでいたメルトの耳に、アイノが何かを思い出したように声を上げた。
「どうかしたの」
「お母様、これからお話することがお役に立てられるか分かりませんが、第二王子殿下の母である側妃は、もしかしたら記憶があるのかもしれません」
アイノがそのように話を切り出す。
それによると前回は殆ど関わりのなかった側妃が、手を変え品を変えてアイノに接触を試みてきたからだった。
アイノが養女として迎え入れられた侯爵家経由で声をかけられたこと。その際養母が側妃の肩を持ってアイノに話を聞いて欲しい、と口出ししてきたことや、側妃の幼馴染の妻から誘われた二人きりのお茶会での話など。
「それは……記憶保持者かもしれない」
前回とはあからさまに違うらしい側妃の行動だ、とメルトも思う。
「それに、レシー国に来る直前、側妃殿下から手紙をもらったのよ。そこには、王族籍からの除籍を願い出た、と書かれてありました」
アイノがそのことを伝えると、メルトは驚いた。
「そう、除籍を願い出たの。中々言えることではないけれど、その覚悟があるのは色々考えてのことかもしれないわね。その色々の中に前回の記憶があるとしたら……。アイノ、あなた、あちらの国に帰ってから側妃殿下に直接会えるかしら」
メルトに言われ、アイノは理解する。
「記憶があるかどうか確認し、あるようならノクティス殿下とルナベルとの婚約を締結させ、そして破棄をするように誘導して欲しい、と頼めばよろしいのでしょうか」
ええ、出来るかしら。
メルトの真剣な目にアイノは「やってみないと分かりませんが、先ずは養母経由で会えるか確認します」と答えた。
メルトの話を聞いてアイノも、繰り返される巻き戻り現象を終わらせたい。という母の気持ちに同意だからやれることをやってみよう、と思う。
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