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除籍の条件。その2

「そなたが、ノクティスが、そのような状況にあったことを知らなかったのは、余の不明だ」


 先ずはそう口にした夫。夫というより、やはり陛下で雲の上のような存在と思ってしまう。側妃はどこか他人事のような気持ちで耳を傾ける。針の筵の城内で目立たないように波風立たないように、と過ごしてきた癖のようなもの。


「知らずにいた余を疎んでおるか」


「疎むほど、陛下と関わっておりませんし、正妃殿下たちとも関わっておりません。私が関わることを避けていたのも有りますが、私がノクティスを産んだことで王位継承権争いが起こらないよう、宰相様方は正妃殿下とニルギス殿下とアイヴィス殿下を守っていらっしゃいましたから」


 静かに問われ、側妃は首を左右に振る。側妃自身、国王にも正妃たちにも関わる気は無かったが、宰相や大臣たちが守るように側妃とノクティスを関わらせなかった。

 城内の使用人たちは側妃の立場を理解して同情的だった。正妃側も側妃側も関わることを極力避けていたからか、使用人たちは表向き側妃とノクティスに良く仕えてくれていた。それは分かっていたが、さらに側妃は自分とノクティスの周りに居る使用人を、側妃の実家に連なる家の者達で囲んでいた。

 尚、ノクティスと正妃の産んだ兄弟との関係を分断していた使用人は、この者たちである。


「守っていた? そなたとノクティスは、正妃にもニルギスとアイヴィスにも関わろうとしなかった、というのに? それともそなた達は敵対する気があった、というのか」


 夫である国王の怪訝そうな顔に、側妃は、一応こちらのことを気に掛けていてくれたのか、と思いながら敵対する気は無い、と断言する。


「私たちが敵対する気が無くても、私の子は王位継承権を持ちます。女児であったなら王位継承権があっても、他国へ嫁入りが出来ましたから。それならば王位継承権を放棄出来ました。ですが、男児を産みました。それも正妃殿下の子と同い年の。他国へ婿入りさせようにも、婿入り出来る国を探すのに時間がかかったことでしょう。その間に、ノクティスとニルギス殿下を比べる者や、ノクティスの手に王座を与えて傀儡にしようと思う者も出てくる可能性がある。そんな状況を避けたい、と宰相様方は思われたのでしょう。だから私たちを遠ざけていらっしゃいましたよ」


 側妃から聞く城内の現況を聞けば聞くほど、国王としても夫としても見えてなかったのだな、と嘆息する。


「そうか……。そなたにとっては、居心地の悪い所であったな」


「王城など、そんなものでありましょうが。私は元々侯爵夫人となる予定でおりましたから。貴族夫人の務めを果たし、貴族夫人としての立ち居振る舞いを心掛ける心算(こころづもり)はあっても、妃としての心算はまるで無い女でありました。急な妃教育を施されても、何処か王族に成りきれない女でありましたから、私にも悪いところはあったのでしょう。

私は己を変えるつもりがありません。変えれば、私やノクティスにその気が無くても要らぬ争いを生むかもしれません。それよりは、ここから去る方が私のためでもあり、ノクティスのためでもあり、政の中枢を担う方々のためでもあると思います」


 側妃の心の声に、もっと早く耳を傾ける方が良かったのかもしれない、と国王は思うが、もうここまでくると、側妃を引き留めないことが最善だろう。


「あい分かった」


 側妃の気持ちを変えることは難しい、と判断し、除籍願いを受け入れる。


「ありがとうございます、陛下。ただ私から除籍を願い出ておいて条件を述べるのもなんですが、お聞き届け願えたらと思います」


 除籍願いを受け入れてもらい、ホッとする側妃。だが、まだ条件を述べていない。こんな図々しいことを願い出て受け入れてもらえるのか分からないが、言わないわけにもいかない。


「申してみよ」


「ノクティスには陛下に願い出る前に、除籍の話を致しました。そうしたところ、私が城から去ったら、自分の価値観は下がるので自分の価値観を高めるまで、城に居て欲しい、というのがノクティスの考えでございます。ですので、陛下。五年間は側妃として残していただきたいのです。五年後に除籍を願います。図々しいお願いですが、どうかお聞き届け願えたら幸いに存じます」


 ノクティスが僅か八歳でそのようなことを言うとは、と驚く。だが、確かに元侯爵令嬢の側妃が除籍になれば、ノクティスの後ろ盾は弱くなる。側妃の実家は変わらず後ろ盾にはなるだろうが、除籍された母親の実家に、後ろ盾でいられる力があるか、と指摘されたら弱いと思われるだろう。

 実際にはなんの瑕疵もない側妃だが、そして本人の希望であっても、王籍からの除籍というのはイメージが悪い。除籍された母を持つノクティスの価値は下がるし、側妃の実家が後ろ盾のままであっても、イメージが悪くなった側妃の実家では、後ろ盾が弱くなる。


 となると、自分の力で価値を高めるしか、ノクティスが王族に残る意義を成さない。


「あいわかった。良かろう。ノクティスが五年でどれだけ己の価値を高められるか見ものだな。だが、価値が高められなくても、五年後にはそなたを除籍する」


 側妃は、自分の条件が受け入れられたことを喜び、五年後の除籍を待つことにした。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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