始まり。その6
「なんでもない日に巻き戻った。これももしや巻き戻り現象の終焉に関係してくるかもしれない、そう思いながら私はメルトに託した。彼女は自分の孫娘が婚約破棄されて、娘たちが我が国・レシーを目指していることを知ったとき、思ったそうよ。人の出来ることを超えた巻き戻りなんて禁忌が行われた代償を、娘と孫たちに払わせているなんて、耐えられないと。だから今回は眠り病に罹ったということで、自分が代償を払うことにした。メルトが術を使わなければ起きなかったことだから」
ラーラがため息を落とす。
「でも、孫娘が婚約破棄された年齢には未だ時間が有って。こんなに早く目覚めるなんて思ってなかった。どうしてなのか、と考えていたときにラーラから、私の孫の一人が記憶の保持者だと知った。自分の孫にこの力の片鱗が受け継がれたのだとしたら、それもまた巻き戻り現象を終焉へ導くためのものとしか思えない。なぜなら最初では、私は孫どころか娘もいない、結婚もしてなかったのですから」
未だに起き上がれないメルトは、然し先程よりも声にハリが出て、力が戻ったようである。
「メルト、あなたはどう思う?」
ラーラが推測で構わないから意見を聞かせて欲しい、とメルトを促す。
「おそらく、国王陛下はラーラに婚約破棄を突き付けておらず、ラーラと結婚して正妃として迎え入れていることで、誰かが誰かに婚約破棄を言い渡すことが繰り返されてきました。それは前回の巻き戻りでは婚約破棄には至らなかったジェリィ国の第一王子と公爵令嬢の婚約騒動が示しています。あれはその前の巻き戻りでは婚約破棄を公爵令嬢は突き付けられていたでしょう。前回は婚約破棄される前に公爵家が手を打ったようですね。吟遊詩人やら劇やら、と。ジェリィ国の話が無かったから、私の孫娘が婚約破棄されたのか、それは分かりませんが、巡り巡った可能性はあります。そして、今回は孫娘が記憶を保持している。となれば、前回婚約破棄された私の孫娘が再び今回、婚約破棄された後で、その相手が孫娘との婚約破棄を取り消したい、と思ってくれれば」
メルトの慎重な考えは、つまり。
「メルトの孫娘が再びあの国の第二王子に婚約破棄され、そして第二王子が間違いに気づいて婚約破棄を取り消せば、巻き戻り現象は終わる、と?」
メルトの考えを正しく理解したラーラに確認され、メルトは頷いた。
「人も場所も時間も関係なく、事象だけが必要なら、そして国王陛下の最初の願いが、婚約破棄を取り消したい、というものであったことから。誰かが誰かに婚約破棄を突き付けてそれを取り消したい、と願い行動し、婚約破棄が取り消されたのなら、国王陛下の願いが叶ったということになり、巻き戻り現象は終焉を迎える。私は、そう思います」
不思議な力を脈々と受け継いできたメルトだからこそ、その推測は納得出来る。
「あなたの孫娘が再び傷つくことになってしまうわ」
「私が犯した禁忌の行動の代償を娘や孫たちに払わせてしまうことは、私の罪ですが。孫娘が婚約破棄を突き付けられて、その後取り消されたとしても、孫娘の気持ちや経歴に傷がつくことは申し訳ないことですが、繰り返される終わりの見えない現象を終焉に導くために必要だと孫娘に理解してもらうしか有りませんね」
それで娘や孫に嫌われて憎まれて恨まれても。
この巻き戻りが終わるのなら、自分は構わない。
「でも多分、それだけでは充分ではないと思うわ。メルトばかりが代償を支払っているけれど、元々はナハリが原因だから。元凶、かしら。だから、ナハリにも代償を支払わせる必要があるのではないかしら」
ラーラの意見に、メルトは肯定しない。だが、否定もしなかった。可能性があるのなら、ということだろう。
ナハリは信じられない話を聞かされ続けてきたが、ラーラとメルト。そして第四と第五側妃は、この話を真実だと思っている。
そうならば、全く記憶にはないが、確かに自分も何らかの代償を支払う必要があるのだろう、とナハリは思う。どんな代償を支払えばいいのか、見当もつかないが。
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