始まり。その2
「私は死んだはずなのに、生きていることに驚きました。混乱の最中、翌日にイドネとの茶会がありますが体調は大丈夫ですか、と私の侍女に問われて、更に混乱しました。結婚前の私の家に私の部屋、私の侍女。そして、聞かされたイドネとの茶会。信じられないけれど時が戻ったとしか思えなかった。そんな時に茶会前に会わなかったはずのメルトが訪ねてきて。私はレシー国の歴史である不思議な力について思い出し、メルトに尋ねた。そして彼女は肯定し、ナハリがメルトに無理やり時を戻すよう迫ったことで、こうなった、と聞かされた。メルトや私に記憶があっても他にも覚えている人がいるのか分からない、とメルトに教えてもらいながら。翌日の茶会を迎えた」
引き続きラーラが語る。
体調不良だと言って避けてもどうせ日を改められるのなら、行く方がいい、とラーラは向かった。席に着いてお茶が注がれたところで眩暈がした、と倒れた。イドネがお茶を飲む前に倒れた。だが、既にイドネは口の中に毒を含んでいたから、お茶の中に毒が入っていた、という演出をするのなら飲まないわけにはいかずに飲んだ。
買収は済んでいたから、後で口裏を合わせるつもりだったのだろうけれど、一度目では茶会の場で遠ざけていたラーラの侍女や護衛を二度目では立ち会わせていた。
「だから、私がイドネに毒を盛ったことは有り得ないと私の侍女や護衛が否定した。彼らだけの証言では弱かったけれど、今は第四・第五側妃としてこの場にいる二人が、記憶を持っていたことから、買収されたことを含めてナハリに真実を明かした。それで私が毒を入れる時間も無かったことが判明して、私はナハリから疑われなかった」
でも、それで終わらなかった。
イドネは失敗したことにより小国へ嫁ぐ話が早まったことを知って、今度はラーラを殺そうとした。その場に居合わせたメルトがラーラの身代わりとなって死んでしまった。
そして、巻き戻った。
「おそらくは、術を使ったのが私だから私が死んだことで巻き戻ったのでしょうね」
メルトがラーラの説明を補足する。そして三度目はやはりイドネとの茶会の前日だった。前日の理由は分からない。抑々が禁忌の術なのだから、考えても仕方ないことは考えないことにした。
そして始まった三度目。三度目も第四・第五側妃の記憶があったことから、メルトと四人で話し合い、一度目と同じ行動を取った。そして第四・第五側妃が買収されたことをナハリに打ち明け、イドネの自作自演であることを証言し、ラーラの疑いは晴れた。
「そして、イドネはそのまま小国の王族へ嫁がされたのだけど。女児しか産めない、と責められて離縁された、と戻ってきた。今回のように、ね」
そういえば、とナハリはここで思い出す。もしも巻き戻っているのだとしたら、ラーラはイドネに毒を盛った、と騒がれたはず。だが、婚約時代にそのような話は無かった、と。そのことを問おうとしたが、話を全て聞いてからにするべきか、と思い直した。
「ナハリ、あなたは私を冤罪に追い込んだイドネが許せない、と怒っていたくせに、女児しか産めないと責められて離縁されたイドネに同情したの。仲の良かった従姉妹の憔悴した姿に絆されてね。そしてあなたは第一側妃としてイドネを娶ったのよ。私になんの相談もなく」
ナハリは、息が止まるかと思った。
大切な婚約者で自分の中では愛する人とも思える、正妃・ラーラの気持ちを無視したことを自分の知らない自分が行ったと聞いて、自分のことなのに信じられなかった。
「私はその時まではナハリを愛していたわ。メルトからも私を愛している、と言っていたと聞かされていたから、あなたがイドネと仲が良くても、毒入り事件でイドネを追放に近い形で嫁がせたことで、私を大切にしていると信じられていた。けれど、それはイドネの憔悴した姿に惑わされる程度の気持ちだった、と知って、あの時からあなたへの愛は捨てたわ」
自分への気持ちを捨てた、と言われナハリは胸を痛める。自分の知らない自分のやらかしの結果、大切にして自分なりに愛してきたはずのラーラから愛されない人生を送ることになっていた、なんて信じたくなかった。
併し。
そうであるなら婚約時代も結婚してから今まで、どこか一線を置いたように素っ気ない正妃の態度にも納得がいく。
全く記憶に無い、自身のやらかしの所為と言われても信じたくないが。
お読みいただきまして、ありがとうございました。




