母の過去と提案。その2
「ロミエルの、夢の通り。アイノは南の大国・レシーの王女だ。レシーは元々いくつかの小国が存在していてね。その小国を一つの国にまとめた……言い換えれば争いを繰り返して統一したのが、初代レシー国王。
レシー国王は人質のような形で王妃の他に自分が征服した国の王女やそれに近しい令嬢たちを側妃に迎え入れた。
その名残でレシー国は今でも一夫多妻なんだ。後継が居ないから……というわけではなくね。
アイノはレシー国王の数人いる側妃の娘。あの国は男性のみが王位継承権を所有するから、アイノには継承権は無いが、紛れも無い王女ではある」
イオノは、ポツリポツリと妻の出生について、子どもたちに話し出した。
「併し、アイノの他にも王女は何人もいるし、王子も何人も居て。アイノは生まれた時から子どもが居ないレシー国の公爵家の養女として育てられていた。後々婿を取るつもりでね」
だが実際にはイオノの元に嫁いで来ている。
「私がアイノと出会ったのは、学園生時代だ。後にアイノの異母兄と知るが、レシー国の王子が我が国の学園に留学して来たんだ。我が国からも今の王弟殿下がレシーへ留学していた。
我が国とレシー国の先代国王陛下方が、反目していた歴史がある。と言っても争いにはならなかったが。一時期は交流も絶たれる寸前だった。
その原因は実際のところは不明だが、我が国の先代国王陛下がレシー国の先代国王陛下を怒らせてしまったことがあったらしい。
南の大国にケンカを打った先代国王陛下だが、国王という存在だから簡単に謝ることも出来なくてね。それで交流も絶たれる寸前まで追い込まれた。でもどちらの国でも宰相や大臣たちが国王を諌めたことで、お互いに歩み寄ることになった」
イオノの話は、たった数十年前に、戦が起こっていたかもしれない、という怖さが含まれていて、リオルノ・ルナベル・ロミエルの三兄弟は息を呑んで話に聞き入った。
「その歩み寄りの一環として互いの子どもたちを留学させよう、ということになったが。実際にはお互いの国への人質みたいなものだった。それは当人たちも周りも分かっていたと思う。
ただ争いに発展していなかったことで、互いに余裕があったからか、我が国に来ていたレシー国の王子殿下は、表向きは穏やかだったし、私たちも穏やかに受け入れていた。
私はその王子殿下の友人の一人だった。そこで長期休暇に王子殿下に誘われて、我が国とレシー国との国境付近にある観光地へ行った。アイノとはそこで出会った。国境の街を守る領主がアイノが養女になっていた公爵家でね」
ようやく両親の出会いが判明した三兄弟。なんだか物語を聞いているように、ちょっとワクワクドキドキしている。
「長期休暇中に私たちは惹かれあったが、伯爵家の嫡男である私とレシー国の公爵家の嫡女であるアイノ。私たちの恋は叶わないものだと思っていたよ。アイノは婿を取るわけだし、私は嫁を迎える必要があったから。
それに他国とはいえ、公爵家と伯爵家では身分差もある。諦めるつもりだった。
ところが、我が国に留学していたレシーの王子殿下がね、自分の留学をアイノにして欲しいと言い出した。私たちの気持ちに気づいていてね。その王子殿下もアイノの母上とは別の側妃の子だったから、アイノを不憫に思ってくれたらしい。
それから私の嫁にするように、レシー国の国王陛下に頼んだ。そこで初めてアイノの本当の出生を知った。レシー国は当然、渋った。
アイノは公爵家の養女だし、レシー国王の感情的にも。
でもアイノもレシー国王と養父母である公爵家を説得してね。私もアイノの出生を知って、それでもアイノが結婚してくれるなら、と頑張って説得して。なんとか結婚の許可をもらえた。そしてアイノは公爵令嬢として翌年、留学してきた」
本当に恋愛物語みたいで、三兄弟はハラハラまでしていた。両親の結婚までの道のりは、本や舞台になってもおかしくなさそうな話だ、と思った。
「それでアイノはレシー国の公爵令嬢として、だと、この国に受け入れてもらえるか分からないから、我が家と縁戚にある侯爵家の養女ということにして、私と結婚してもらったんだが。
アイノと私はレシー国王とレシー国の公爵夫妻から条件を出されていた。それが子を二人以上もうけて、二人目以降を公爵家の養子にすること、だった。
私とアイノの恋を応援してくれたレシー国の王子殿下の提案でもあった。彼はその功績で、王位継承権を放棄して、好きなことが出来る人生を送っているが、まぁそれはおいといて。
そんなわけで、元々ルナベルかロミエルのどちらかをレシー国の公爵家へ養子に出すことになっていたんだ。今もアイノを育ててくれた公爵夫妻は現役で頑張っているが、後継が居ないのは辛いようでね」
ここまで話されてようやく三兄弟は理解した。
つまり、ロミエルが見た夢の中でレシー国へ向かっていたのは、母であるアイノの国でもあるし、養子先の公爵家の後継問題のこともあるし、だったということだろう。
伯爵位を剥奪されたと考えたのなら一家でその公爵家に世話になるか、レシー国王に保護を頼むつもりだったと思われる。
「長いお話をありがとうございます、父上。話を聞くに、ルナかロミが公爵家の養女、ということであっているでしょうか」
リオルノはロミエルの夢の話と、両親の結婚に至るまでの話を聞いた上でポイントをズバリ突く。
「そうだ。どちらに行ってもらうか悩んでいたが、アイノの提案通りにするなら、二人を公爵家へ連れて行き、どちらも後継候補にする、という案を採用することになる。
そして、これならばルナベルに王家から婚約打診が来ても断れる。それがアイノの提案だ。
おそらくロミエルの夢でこの話が無かったのは、もう少し後でこの話をルナベルかロミエルにするつもりだったのだろう。
だが、ルナベルが王子の婚約者になってしまったことで、ロミエルをレシー国の公爵家へ養女に出すという話も、中々出来なかったと思う。先代国王陛下方の一件で慎重になっていたのだろうな」
でもそれで、冤罪を着せられて国外追放処分という憂き目に合ったのなら、ロミエルの夢の中の自分は、相当悔やんだだろう、とイオノは思っていた。
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