目覚めた側妃と国王。その3
「抑々の始まりはあなたにあります、陛下」
メルトの言葉を受けてラーラが話し始める。
「正妃、君は知っているのかそのことを」
メルトの巻き戻りは一度では無い、という発言に動揺していたナハリは、続くラーラの淡々とした口調で自身を責める言葉を紡ぐことになぜか冷や汗が落ちる。
「ええ。巻き戻り現象の最初の記憶があるのは、私と第三側妃。それと第四側妃と第五側妃ですから」
ラーラから伝えられた話は何から何まで衝撃で、とうとうナハリは自分の足がふらつくまでに至り。ラーラからソファーを勧められそちらに座った。
「第一と第二は知らないことなのにこの場に居てよいのか」
少し呼吸を整えたナハリは、従姉妹とその元夫の愛人だった二人を見てからラーラに尋ねる。
「私たちが話していた内容を盗み聞きしていた二人には、全て話してありますよ」
盗み聞きなんてはしたないことを、と言わんばかりの視線を二人に向け、二人は肩を縮こませて俯いたが否定しない。ナハリはこの話が長くなるだろうことに気づいて、執務をある程度終わらせておいて良かったか、と場違いなことを考えていた。
「第一と第二側妃が知らないところで話していた、はずなのに盗み聞きしていた、というのは」
何から尋ねれば良いのか分からないまま、ナハリは取り敢えず疑問に思ったことを口にする。ラーラが大きく息を吐き出してそのことについて、答えることにした。
「正確に言えば、第一側妃はあなたの従姉妹です。それもあなたの大切な。だからあなた、彼女に影を付けているでしょう。彼女も小国とはいえ王族の妻だった身。影の気配に気づけたらしく、第一側妃の意向を汲んだ影が聞いていたのを、私の影が気づきました。それで第一側妃を呼び寄せたら自分を仲間外れにしないで、とか訳の分からない言い分で第二側妃までやって来て、仕方なく話しただけです。
もちろん、このことを他言すればその命は無い、と脅した上で。第一側妃に付けた影も私に付けられた影に抑えられ、第一側妃と第二側妃は私の殺意に受け入れるしか無かった。それだけです」
殺意、とはっきり断言するラーラ。正妃がそのように強い女性だと分かってはいたものの、こうもあからさまに相手を脅かすようなことを口にするとは思っておらず、ナハリは違和感を覚えた。それともこちらがラーラの本質なのだろうか。
「では、これより。これまでのことを話します。第一側妃にも第二側妃にも簡単に話してきましたが、折角ですからあなたと共に詳しい話を聞いてもらいましょうか。個人的には、これが最後の巻き戻り現象で、この後はそんなことが無いように、と願いながらの話だと思ってください」
ラーラはとても疲れたような口調で、そして一気に年を取ったような顔で切り出す。
「時間を戻すなど神でさえ禁忌だと思うような現象。それを行った人間が対価も支払わずに、なんの労苦もなく悠々と生活出来るわけが無いのです。そして、終わりが来るのかも分からない、けれど巻き戻り現象が終わることを祈りながら日々を過ごしてきた私たちの苦労が、禁忌の代償であるのだから報われたいと思います。いえ、全てでは無いにしても報われている、と願いながら話をしましょう」
長い話の始まりだった。
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