目覚めた側妃と国王。その1
「メルト」
アイノの実母・レシー国の国王・ナハリの側妃であるメルトが目覚めた。その知らせをナハリに出したのは正妃・ラーラ。
知らせを受けたナハリは執務をある程度済ませてからメルトの部屋へ向かう。そこにはラーラを始め、他の側妃たちも集まっていた。
レシー国は元々小さな国同士の争いで、一番強かった国が他国を併合したことで出来ている。その初代の国王は負けた国々から王女やそれに近しい娘を妻にした。言わば人質のような婚姻。その名残で今も国は一夫多妻が多い。
とはいえ、先代国王から数えて六代前までは正妃一人と側妃一人か二人という慣習になっていた。ところが現在の国王であるナハリは正妃一人に側妃が五人。慣習から大きく外れている。法に触れているわけではないが、珍しいことであった。
だが理由はきちんとあって、正妃のラーラを含めた妃皆が納得しているし、政の中枢に居る宰相や大臣たちも国民たちも理解していた。
一つは、正妃として選ばれたラーラの身体が弱かったことがある。実際には王太子となる息子も娘も産んでいるのだが、ナハリが王太子の頃に結婚した当初、子どもが産めるか分からない、という懸念があるくらい身体が弱かった。
王孫である息子と娘を一人ずつ王太子妃の頃に産んだことでナハリもラーラも一安心したのだが、生まれたばかりの息子と娘はラーラに似たのか、やはり身体が弱かった。
そこで側妃を迎えてもう一人くらい子どもを、と当時の政の中枢に居た者たちがナハリに煩く進言した。
二つ目として、ナハリの母方の従姉妹が嫁いでいた家から離婚された。ナハリの従姉妹はレシー国から更に南の小国の王族へ嫁いだが、男尊女卑の激しいお国柄で娘しか産めなかった従姉妹は、娘共々離婚し帰国の途に着いた。
従姉妹の夫だった王族は愛人を作り愛人が子を孕ったことで、ナハリの従姉妹を追い出した。愛人の子は絶対息子だ、と思い込んでの所業だったようだが、生まれた子は女児だったというのは後日談。
従姉妹の屈辱はレシー国の王太子であるナハリを侮辱したのと同じこと、とナハリは激怒した。仲の良い従姉妹だったから余計だ。そこでナハリはその従姉妹を第一側妃として迎え入れた。
三つ目が、その従姉妹の嫁ぎ先だった国への援助を止めたことである。従姉妹の嫁ぎ先の王族は愚かだったので、従姉妹が嫁ぐことで自国の援助をレシー国にお願いしていた事実をすっかり忘れていた。
当然激怒したナハリが父である国王の許可を得てその国への援助を止めたことで、小国は貧困に喘いだ。そこで小国は従姉妹の元夫の首を差し出し、属国になることを申し入れ、ナハリもナハリの父もそれを受け入れたことで、矛先は収まった。
とはいえ、小国はレシー国の機嫌を損ねたくない、という気持ちからなのだろう。従姉妹の元夫の首だけでなくもう一人の当事者であった元夫の愛人も差し出した。行き場の無いその愛人の話を聞けば、元夫に無理やり愛人にさせられたことが判明。
ナハリの従姉妹が同情心を起こしてナハリにどうにかして欲しい、と頼んだ。仕方なくナハリは第二側妃として従姉妹の元夫の愛人を迎え入れた。
ナハリは当初、ここで側妃は終わらせるつもりだった。側妃として迎え入れた以上、従姉妹とその元夫の愛人だった女と共寝もした。
結果二人共にナハリの子を孕った。従姉妹の子が息子で愛人だった女の子は娘だった。
これで煩かったレシー国の中枢たちを黙らせられたので、ナハリももう側妃を迎える気はなかった。
考えを改めることになったのは、正妃であるラーラの頼みごとが起きたからだった。ナハリは口には出さないが、ラーラのことは婚約者の頃からとても大切にしていたし、彼女の憂いはなるべく取り払うのが自分の務めだとも思っていたから。
その大切な正妃・ラーラが頼んできた内容が、第三側妃として娶ることになったメルトのことであった。
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