再びのレシー国。その1
国境で手続きをするために砦の中に入ったバゼル伯爵一家。イオノが手続きを行っている間に、アイノへ接触があった。砦の中では上位に位置する役人が手紙を渡した。その封蝋はノジ公爵家のもの。開封し文面に目を走らせれば、アイノは夫に声をかけた。
「あなた、迎えの馬車が来ているから、我が家の馬車は帰らせておくよう指示があるわ」
「分かった」
手続きを終えたイオノは、子どもたちと自分たちを乗せてきたそれぞれの馬車の御者に声をかけに行き、宿に泊まりながら無事に帰るよう手当を上乗せして見送った。
その間にレシー国入国の許可が下りて、アイノと三人の子どもたちはノジ公爵家の馬車まで移動していた。イオノも直ぐに後を追い、五人で乗り込む。
使用人たちもノジ公爵家の馬車に乗り換え、荷馬車だけが母国から変わらずについてきた。伯爵家の馬車で五人一緒に乗れるものはあるが、それに乗ると少々窮屈のため、このような遠出では二台に分かれて馬車に乗っていたが、さすが公爵家所有の馬車は、五人が一緒に乗っても窮屈どころか、さらに二人か三人は乗れるくらい余裕のある広さ。
財力の差というものである。それを羨む気持ちは、イオノには無い。それだけ付随するものが多いことも分かるから、自分には背負いきれないと分かっているため。
「父上、母上、お祖父様かお祖母様の体調が悪くなったのでしょうか」
リオルノが淡々と尋ねる。少し前ならば不安や心配を声や表情にだしていたはずだが、先のレシー国・ノジ公爵家での滞在期間にてオゼヌ自らリオルノを教育した成果のように、冷静沈着である。
「それは分からない。時候の挨拶のみが書かれた手紙こそ、何かが起きたと思ってのことだからな」
イオノも子ども扱いせず、きちんとリオルノに返事をする。リオルノがアイノを見れば頷いたので、それ以上リオルノも尋ねない。
バゼル伯爵家に届いた手紙の内容は、子どもたちはもちろん知らない。ただ、レシー国から届いたとイオノが言ったと思ったら、レシー国へ向かうということになっていたから。
当然何か急にレシー国に来なくてはならない出来事が起きているのだろう、とリオルノは考えたのだが、話を聞くにそうではなさそう。
けれど、とリオルノは考えることをやめない。時候の挨拶だけの手紙が届いた。今までも双方で手紙のやりとりがあったのなら、そういうこともあるだろうけれど、それはない、とイオノに確認済み。
その上で時候の挨拶だけの手紙が初めて届いた手紙だとしたら。
両親じゃなくても、手紙に書くことが出来ないような何かが起きている、と考えるのかもしれない。
だいぶ子どもらしくない考えをしているリオルノ。他人がそんな考えを聞いたら八歳という年齢を忘れてしまいそうだが、それもまた、オゼヌ自らの教育の成果である。
オゼヌは常に考えることを怠るな、とリオルノに教えていた。最初のうちは考えるばかりだと疲れるから嫌だ、と反抗もしたリオルノだが、貴族として領民を守るためには考えることを止めてはならない、と諭された。
その理由はまだきちんと把握していない。
それでも貴族として、領民を守るために必要なら、とリオルノは彼なりに考える癖を身につけている最中だ。
さて、そんな馬車内のことなど構うことなく、御者と馬は息のあったやり取りで馬車を動かし、やがてノジ公爵家へと到着した。
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