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三年後。その6

「巻き戻った後のことは私から話しましょう」


 バゼル伯爵夫人・アイノがノクティスに代わり話をする、と言う。確かに荒唐無稽な話ではあるが、関係しているバゼル伯爵家が話を進めるのは不自然ではない。国王と正妃は迷ったものの続きを聞くことに。


「先程、ノクティス殿下が仰ったように、私はレシー国の公爵家の者。正妃殿下がご承知だったように陛下もご承知のことでございましょう。この巻き戻し現象について、レシー国には古いお伽話がございます。お伽話を知っている者も少ないですが、さらに信じている者は居なかったのではないか、と思うお伽話。

私も信じておりませんでしたが、実際に末娘やノクティス殿下が経験したのであれば、信じるしかない、とも思うのです。

レシー国の建国時、国王が娶った妻は何人もおりました。その妻たち或いは国王か、誰かに人智を超える神の領域に足を踏み入れたような力を持つ者が居た。その力は王家やいくつかの貴族家に脈々と受け継がれている。このような話です。

どんな力なのか、誰が持っていたのか。まるで分からないお伽話でしたから、信じていませんでした。併し今、まさにその人智を超えた力を持った誰か、或いは何かによって時間が巻き戻っている。

末娘が時間が巻き戻ったことを口にしたので、私は建国のお伽話を思い出し、両親を頼りました。両親も信じられないとは言ったものの、それでも話を信じることにして調べた結果。

誰かの後悔が募って巻き戻ったのではないか、と推測されました。そしてノクティス殿下や元側妃殿下の言葉や行動からもしや、お二方も巻き戻し現象に関わりがあるのではないか、と考えました。そして、ノクティス殿下の後悔がこの巻き戻し現象の発端かもしれない、と推測し、元側妃殿下と話し合って本日を迎えました」


 それがこの現状だ、とアイノが語った。

 ノクティスがアイノの出生の秘密を語らなかったことから、アイノも自身が王女であることを黙っておくことにした。

 巻き戻る前から巻き戻った直後、そして現在までの話を終えたことで室内は沈黙が訪れる。

 あまりにも荒唐無稽な話で、国王も正妃も話を整理する時間が必要だった。


「では、先程の異音は」


 正妃が先ずそこを尋ねる。


「おそらく巻き戻し現象が終わったことの合図だと」


 アイノが答え、国王がさらに尋ねる。


「巻き戻し現象が終わったというのは、婚約破棄を突き付けたノクティスが婚約破棄を後悔したから、ということだな。国外追放処分は確かにやり過ぎだが、なぜノクティスは後悔した」


 ノクティスは国王からの問いに即座に答える。


「レシー国へバゼル伯爵家の皆が去って行こうとしたからです。あちらは南の大国と我が国を含めた周辺国から認められています。バゼル伯爵夫人がレシー国の公爵令嬢であったということは、レシー国へ逃げられてしまえば、なんらかの報復も有り得るか、と思いまして後悔しました」


 公爵令嬢というより元王女だったから、戦になったとしたら恐ろしいので後悔した、というのが真実ではあるが。


「ふむ。バゼル伯爵夫人、そなたの実家である公爵家は、その建国のお伽話から存在していた、と?」


「可能性はございます。ですが、先程も申し上げたように、私を含め皆がお伽話であって、人智を超える力などあるわけが無い、と思っておりますから。ノジ家が建国から存在していて、人智を超える力を持った人がノジ家に居たのかどうかも不明です。ただ、今回、人智を超える力が起きたようだから、その可能性があるだろう、というもので。詳細は不明にございます」


 まぁ多分、母・メルトの血を引いた孫であるロミエルが、偶々記憶を保持したまま巻き戻し現象に巻き込まれたのだろうが。

 そして巻き戻し現象そのものの発端は、母・メルトとレシー国の正妃・ラーラの話から、父の国王・ナハリの後悔が切っ掛けであることは分かっている。

 だからまぁ建国からノジ家が存在していたかどうかは、どちらでも構わない。

 と、アイノは思いながらも詳しくは分からないので尋ねないでください、と国王に進言した。アイノは黙ることを選択したのであった。

お読みいただきまして、ありがとうございました。

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