三年後。その5
「学園に入るまではルナベル嬢が私に歩み寄ってくれていたからこそ、婚約が続いていました。私は己から歩み寄ることはせず、彼女に与えられてばかり。甘えていたのです。さらにはそのことにも気づかず、男爵令嬢であったジゼルという娘と恋仲になりました。ルナベル嬢と婚約してから七年目。学園三年生目の年でした。結局私は陛下の子では無い、と陛下に疑われたことを自身で蟠りにし、乗り越えられなかった。陛下から謝られたことを許してしまったが為に、怒ることすら出来なかった。そうして陛下と同じ金の髪に空色の目のジゼル嬢に惹かれた。今となっては、彼女の色に惹かれただけで、性格など彼女本人については、二の次だったと分かりますが。
兎に角、一年後。学園を卒園した式典にて、私はルナベル嬢に婚約破棄を突き付けました。
そうして愚かにもジゼル嬢を虐めたなどと身勝手なことを口にし、ルナベル嬢に国外追放処分を言い渡しました。学園の卒園式という衆目の中でのこと。陛下も隠しきれないことから、ルナベル嬢の国外追放を認められ、彼女はレシー国へ向かいました。
その後、陛下はバゼル伯爵夫妻にルナベル嬢の国外追放処分の取り消しをして欲しければ、ジゼル嬢をバゼル伯爵夫妻の養女にし、彼女と私の縁談をまとめるように打診しました。それを受け入れさえすれば、ルナベル嬢の国外追放処分を取り消す、と。バゼル伯爵夫妻はこれを拒否し、自分たちも国外追放処分となるのであれば、それより先に出て行く、とルナベル嬢を追ってバゼル伯爵一家はレシー国へ向かいました。そこまでで私の記憶は途切れ、八歳まで時間が巻き戻りました。母もそこまで記憶がある、と言ってました」
荒唐無稽。
確かにその通りだが、それにしては随分と具体的であり、話を聞いていると、確かに国王ではなく父としてならば、ノクティスのやらかしたことを何とか無かったことにしようと画策したかもしれない、と自分でも思う。
それにしては、国外追放処分など大げさではあるのだが。
この話は事実としてノクティスは話しているのだろうし、バゼル伯爵家は誰も異議を唱えないことから、事実だと受け止めているのだろうとは思うが。
国王としては、己はそこまで愚かであるのか、と自問自答をしてしまう。
とはいえ、確かに迂闊な発言で側妃もノクティスも傷つけてしまった以上、どうにかして側妃とノクティスを傷つけたことに対する償いをした可能性はある。
婚約破棄に国外追放処分とはやり過ぎだと思うが、ノクティスが宣言してしまった以上、どうにかしよう、と考えた可能性は高い。
それが結局のところ、バゼル伯爵夫妻に対する愚かな発言で、国王としては悪手である対応をしていることは、国王の資質を問われると言えそうだが。
息子の恋人を他家の養女に迎えろ、とか自分が言ったらしいが、信じられない、と自分でも思う。本当にそんなことを自分が言ったのか、と疑いたくなるが、少なくともノクティスもバゼル伯爵夫妻と令嬢も、疑ってないのだから、記憶が無いが、言ったのだろう。信じたくもないが。
一方で、確かに己の罪悪感を正当化するため、ノクティスを庇うような行動を取る可能性が高いとも言える。全て身から出た錆なのに、自分の償い方が甘いことに自分のことながら居た堪れない気持ちに陥った。
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