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危険なお茶会

「……ですか?」


「え? ルチアちゃん……姫。今、何て?」


「もう、お義姉様ったら! ルチアでいいですわ。もうすぐ本物の姉妹になるんですもの! それよりも、紅茶のおかわりはいかが? ミルクも持って来させましたのよ?」


 ルチアちゃんは今日も優しい。

 隣で舌打ちしているベニータ様よりも。

 ルチアちゃんは猫舌の私の為に、ミルクを用意させていた。じゃあ、一杯目はみんなと同じくストレートだったから、おかわりはミルクティーにしようかな?


「ありがとう。じゃあミルク入りで」


 驚いた事に、貴族は自分では何もしない紅茶のミルクも給仕に入れてもらうのだ。

 このままでは確実に太ってしまう。


「婚約祝いは何がいい?」とヴァンフリードに冗談を言われた時、咄嗟に断ってしまった。だけど今なら間違いなく、トレーニング用の道具だと答える。まあ実際に、婚約はしないんだけど。

わかっているのに悲しい気持ちで考える。

 いったいいつから、自分はこんなに弱くなってしまったんだろう?

 ボーッとしながら目の前に置かれた紅茶に口をつける。少し熱いけれど、ミルクの甘い香りが漂っている。




 一口飲んだ途端、ドアを開ける大きな音が。部屋に王太子の声が響いた。


「待て! セリーナ、飲むんじゃない!」


 彼は私に駆け寄ると、青い顔で聞いてきた。


「まさかセリーナ、飲んだのか?」


「ええ、一口だけ。でも、どうして?」


 答えを聞くなりヴァンフリードは私の顎を片手で掴み、もう片方の手の指をいきなり口の中に突っ込んできた。


「うえっっ」


「お兄様!」


「ヴァン兄様!」


 苦しくて、思わず嘔吐えずく。

 飲んだばかりのものが逆流する。

 みんなもビックリしている。

 なんなんだ、突然? 


「ごめん。でもお願いだ、セリーナ! 全て吐き出してくれっ」


 彼は必死だ。嫌がって逃れようとするけれど、放してもらえない。それどころか今度は拳で胃の辺りを押さえつけてきた。この前頬にパンチした仕返しか? ケンカには慣れていたから腹だって殴られたことはある。だけど、この世界でこうしてお腹を押さえられるのは、初めての経験だ。


「げほっげほっ」


「構わない。全部出しなさい!」


 なぜか焦っている王太子。

 私の様子を観察しているような気がする。

 かと思えば側にあった水差しの水をひったくるように掴み取り、自分で直接飲むと口移しで私に飲ませてきた。


「ん~、ん~、んーー!」


 強制的に流し込まれる水。

 あまりの息苦しさに、彼の胸をどんどん叩く。

 ヴァンフリードは全く動じない。

 口から溢れた水が顎の下を伝い、服まで流れ落ちる。

 苦しいし、冷たいでしょ!

 さっきから、何なんだ?

 何で急にこんなことを?

 周りでバタバタ走り回る音が聞こえる。

 何が起こっているのか、さっぱりわからない。


「がはっ、ごほごほ、ごほっ」


「まだだ! まだもう一度!」


 もう、いい加減にして欲しい。

 何でこんなことをしてくるんだ?

恥ずかしいとかそんなことより、胃が苦しい。

 強制的に水を飲まされすぐに吐かされるからか、喉まで痛くなってきた。


「ヴァンフリード様、代わります」


 別の男性がやって来た。

 医師のような恰好の人だ。


「いや、いい。私がする。セリーナ、大丈夫かっ」


 大丈夫なわけないだろう?

 三回目の後、さすがに気分が悪くなった。

 何だか舌がしびれてきたような気がする。

 頭がボーっとして、息をするのも苦しい……


「セリーナッ!!」


 最後に耳にしたのは崩れ落ちる私を支えて必死に名を呼ぶ、ヴァンフリードの声だった。




 *****




 うっすら目を開けた時、なぜか見たこともない部屋にいて全く動けなかった。大量の汗をかいて息も苦しいのに、身体だけは凍えそうに寒い。


「ハッハッハッハッ」


 必死に息を吸って吐く。

 それだけのことがひどくだるくてしんどい。


「持ち直しました!」


「自力で呼吸しています」


 そ、そうなんだけど。

 息をするのに全神経を集中しているので、かなり辛い。


「ハッッハッッハッッ」


 喉の全部が焼けたように痛い。

 胸もすごく苦しい――物理的に。

 知らない人が汗を拭きとり、冷たいものを当ててくる。

 違う、暑いんじゃなくて寒いの!

 けれどアタシは呼吸をするのに精いっぱいで、声なんか出せない。

 首を振る余裕もない。


「ハッ、ハッ、ハァ、ハァ」


 一生懸命呼吸に集中した結果、しばらくすると何とかまともになってきた。

 息ができるって素晴らしい!

 でもここ、どこだ?

 アタシは何でこんな所にいるんだ?

 汗で服がベッタリ張り付いて気持ちが悪い。

 頭に霧がかかったようで、何だかとてもぼんやりしている。メイドやお医者さんみたいな人達がうろうろしているようだけど、残念ながら誰一人として見覚えはない。


「意識を持ち直したようです」


「ここがどこだかわかりますか?」


 聞かれたけれど、もちろんわからないので私は首を振る……よう努力した。




 息もだいぶ落ち着いてきた頃、大声を上げて銀髪の青年が部屋に飛び込んで来た。


「セリーナッ!」


 着ているものは豪華なのに、走って来たのか汗で髪が額に張り付いている。青い瞳とえらく綺麗な顔に見覚えがあるような気もするけれど……誰だっけ?


「良かった、気がついて。君に何かあれば、私は生きていけない」


 彼は言いながら周りの人を押しのけると、なんとアタシの一番近くに陣取った。

 そんな大げさな。

 綺麗な顔だしあんたなら余裕で生きていけるでしょ。ところで、誰?

 聞きたいのに、喉が痛くて声が出せない。目だけで誰? と聞いてみる。


「いいんだ。無理せずゆっくり休んで。君は怖い思いをしたばかりだから」


 そう言って、馴れ馴れしくアタシの手を握って髪を触ってくる。こいつ何者なんだ? 側にいる人が誰も止めないどころかお辞儀をしているところを見ると、すんごく偉いっぽいんだけど……


 その人は心配そうな青い瞳で、まるで恋人を見るような目でこっちを見てくる。こんなに印象的な顔なら、いくらアタシがバカでもさすがに忘れないだろう。なのに、彼のことがちっとも思い出せない。つーか、そもそも知り合いかどうかもわからねぇし。だからそんな目で見られても、リアクションできないんだけど。

 イケメンだからって、気安く触るなよ? 知らないやつに慣れ慣れしくされるのって、あんま好きじゃねーし。




 アタシがムッとしていると、銀髪男の後ろからひょこっと銀色の髪の美少女が顔を出した。いつの間に来たんだろう? 繊細な顔立ちで、青紫色の瞳がハッとするほど美しい。


「良かったわ! お義姉様が気がつかれて。お兄様は『心配ない』って言うけれど。その割には、ご自分が真っ先にお義姉様の所に駆けつけたんですのよ」


 そう言って微笑む顔がひどく愛らしい。

 まるで生きてるお人形さんみたいだ。

  

「ルチア、セリーナはまだ疲れているんだ。お前のおしゃべりには付き合えない」


「お兄様こそ。そんなにベタベタ触ったら、お義姉様に嫌がられますわよ?」


 残念ながら見覚えはない。

 二人は兄妹? 何でここに?

 二人のことがわからない。

 身体も鉛のように重い。

 目だけを向けて、彼らをよく見てみることにする。


「そんな目で見て、私をどうするつもりだ? セリーナ」


 どうするもこうするも。

 身体も動かないし、何もできねーんだけど。

 掠れた甘い声と頬を優しく撫でる長い指。

 なぜか胸の奥が痛くなるような感じがした。

 ボーっとしてよく思い出せないけれど、この仕草は何だか懐かしいような気もする。


「もう、お兄様ったら! いくら婚約者でも、妹の前でそのセリフは恥ずかしいですわ!」


「……ゴ……ゴホッゴホッ……ゲホ……」


「大丈夫か、セリーナ!」


「お義姉様!」


 婚約者? と言おうとしてむせた。

 アタシが咳き込んだ瞬間、二人の顔が青ざめたのがわかる。

 いや、青ざめたいのはこっちだよ。

 だって、何? 婚約者って。

 もしかして聞き間違い!?

 こんにゃく……じゃなくて?

 婚約してるって誰と誰が。まさかとは思うけど、こんな綺麗なつらの男がアタシの相手? いやいや、無いでしょ。だってアタシはイケメンに興味なんてないんだから。


 それより聞きたい。

 ここはいったいどこなんだ? どうしてアタシは、こんな所で寝ているんだ?

アルファポリスの方が先行しています。

別々に書くのは時間が足りませんでした。

すみませんm(__)m

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