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嘘から出た真?

お待たせしてすみませんでしたm(._.)m

義兄ルートはアルファポリス版で。

 角度を変えて(ついば)まれる。

 唇を舐められたり舌で歯を触られたり。

 長い口づけは思ったよりも心地よく、頭がボーっとしてきてしまう。


「うっとりした顔も素敵だけど、目は閉じてもいいんだよ?」


 キスをしながら指導が入る。

 さすがチャラ男……王太子、慣れている。


 じゃ、なーくーてー!!

 両手をグンと伸ばして、私は身体を引き剥がした。




「ちょ……ちょっと待った。何が問題ないって? 大ありでしょ!」


 目を細めた王太子が、眉を寄せている。

 私、今キスはちゃんと好きな人としなきゃダメだって言ったよね。なのにどうして? わからなかったふりをするの、無しだから。


「だってヴァンフリード様、手放せない人がいるってこの前……」


「……ああ、言った」


「それにルチアちゃんも。『兄はちゃんと心に想う方ができました』って」


「そうだね」


「だったらどうして!!」


「どうしてって……君が私にそれを言うの? さっきみたいに自分で考えてごらん。わからなければ君の鈍さは国宝級だ。宝物庫にしまってしまおうか?」


 な……なぞなぞだ!


 王太子は好きな人がいるのに、私に迫りました。

 グーで殴っても避けませんでした。

 でも、手放せずに心に想う人がいます。

 好きな人がいるなら、その人としかキスしちゃダメだと私は言いました。

「問題はない」と答えて続行。

 その答えは――


「ま……まさか!?」


「ああ。ようやく気付いてくれたんだ。嬉しいよ」




「――相手は人妻!!」


 私は大声を出した。

 いきなり大正解かも。

 兵士がダメなら探偵でいける!


「はあ!? どうしてそうなるんだ?」


「だって好きな相手と会えなくて、その人も旦那さんとキスしているなら、少しくらい遊んでも問題ないって思ってるとか……」


「セリーナ、本当に……君は私の事をどんなヤツだと思っているの? まさか焦らしているわけでは無いよね?」


「何を?」


 おかしいなー。

 かなり自信があったのに。

 だって、ベニータ様やその他の見目麗しいご令嬢達からモテモテな王太子。だけど今まで誰にもなびかなかったんだよ? ……って事は、好きな相手が既に他人のものだったから。だから凝りてこの前も『君が誰のものなのか』と私に対して所有権を主張した。うん、やっぱり我ながら完璧な推理なんだけど!


「まったく。本当に宝物庫に閉じ込めてしまおうか」


 嘆息する王太子、ちょっと涙目?

 レアな武器や防具の隣は嬉しいけれど、閉じ込められるのは嫌だなぁ。




「セリーナ、君を相手に駆け引きは無理なようだ。まあ私は今まで、駆け引きをしていたつもりはないけれど。何度も示して来たはずだ。私の可愛い人、好きだよ、君は私だけのものだよ、と」


 うん? 

でもあれは演技のセリフ。

 誘拐事件の囮の時と終わった直後だったような。


「だって、あれって囮の時だったし。演技は数には入らないでしょう?」


「演技? 私は演技をしていたつもりはないよ? いつだって本気だった。わからなければわかるまで言おうか。セリーナ、私は君が好きだよ。出会った時からずっと」


「ふえ? えぇぇぇぇーー!!」


 あり得ない!

 ヴァンフリードの好きな相手が私だったなんて!

 

「なぜ驚くの? 私じゃダメなのか?」


「だ、だだだって……」


どう考えてもおかしいでしょ?

一国の王太子が、品も教養もない元ヤンが好きだなんて!

私が勝手に想っている分には良いけれど、王太子がただの元ヤン……あ、今は伯爵令嬢だった、を好きだとなれば大問題! 暴動が起きるのでは!?

しかも初めて会った時からって……


「私が思いっきりふて寝して、逃げ出して、説教かました日から? うっそだぁ~~」


もし本当だとしたら王太子って相当な変わり者。もしくは変態さん? 態度が悪いヤツを好きになるって、どんだけマニアなんだろう?


「どうすれば君は、私の想いを信じてくれる? いっそのこと、既成事実を作ってしまおうか?」




ヴァンフリードが妖しく笑う。

 綺麗な顔に浮かんだ笑みに一瞬見惚れてしまった。

 ……って、いかんいかん。

ここは一旦撤退して、態勢を立て直さないと!


「か……考えさせて下さい!」


「何を? 私の想いを? それともこの部屋で既成事実を作る事を?」


ニヤニヤしたってダメだ。

そもそも『帰省事実』ってよくわからないんだけど。

 でもそろそろ、この姿勢も恥ずかしくなってきた。私は彼と向かい合って座っている。

 王太子の身体と綺麗な顔がすごく近くにある。逃れようと突っ張ったはずの手が握られ、掌にキスされてしまう。


「ひぎゃっっ!」


 慌てて引っ込めた手を自分の胸の上で握る。心臓がうるさくて鳴りやまない。

「好きだ」と言われた事実を、今更のように理解する。

 今日ってエイプリルフールじゃなかったよね? というより、そもそもこの国にそんな習慣はなかったはず。


「どうしたの? セリーナ、顔が真っ赤だよ」


 自分の言葉で私が動揺してるって知ってるくせに!

 ヴァンフリードも意地が悪い。


「ヴァンフリード様、ふざけるのもいい加減に……」


「ああ、ヴァンでいいよ? さすがに自分の婚約者に愛称で呼ばれないのは辛いからね?」




「婚約者ぁ?」


 一瞬、聞き間違えたのかと思った。

 何じゃそりゃ。

 こんにゃく、じゃなく?


「そう。さっき庭でも客人にそう説明したしね」


「あ……。でもあれは、私を連れ出してくれるための嘘と言うか適当な言い訳というか……」


「方便? 違うよ。言っただろう? 私はいつだって本気だ」


「いやいやいや、それは無いでしょう。だって元々婚約なんてしてないし」


「まあどうせ時間の問題だったしね。君が私を好きになれば問題ないだろう?」


 ん? 時間の問題って?

 算数の問題ってこと?

 だめだ、頭がついていかない。

 というより、私はとっくに好きだけど。


 でも、嫌われたり捨てられたりするのは嫌だからなるべくお近づきになりたくないんだけど……

 ただでさえ、王太子ともなると側室だろうが愛人だろうが何でもありだ。モテモテだし相手には不自由しないだろうし、婚約者だって遊び相手だって選び放題!

 そんなドロッドロの女の戦いの中に巻き込まれるなんてまっぴらごめんだ。男の人のせいで苦しい思いをするのは、前世の自分の父親だけでもうたくさん!


「丁重にお断り……」


「ああ、そうだ。私が先ほど庭で話していた人だけどね?」


 王太子が話しながらすごくイイ笑顔で私の顔を覗き込んでくる。

 青い瞳が楽しそうに輝いている。

 

「遠方のカレント王国の大使なんだよね。我が国に商談を持ち込んで来た」


 それが何か?

 なんで突然仕事の話を?

 私はキョトンと彼を見て、首を傾げる。


「近々貿易を拡大すると思う。安定した国だし国王や宰相も信頼がおけるし」


 それは良かったですね。

 でもそれが、何か?


「そんな相手に、王太子である私が嘘を吐いていたとバレたらどうなるだろう? 婚約者と紹介したはずの人が、実は付き合ってもいないだなんて……」


「……!」


「取引は信用問題だ。お互いの信頼関係があってこそ成立する。だが、もし私の嘘のせいでこの商談が破棄されれば、我が国が今後受けるであろう恩恵はパア。損失は計り知れない……」


 目を閉じ、額に手を当て嘆く王太子。

 ちょっと待て。

 何でそこまで事が大きくなる?

 たかが外国の人に『婚約者』って言っちゃっただけ。しかも私はすぐに上着を被せてもらったから、姿は見えていないはず……


「あ……」


 いけね、バッチリ見られてた。

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