相談するしかないでしょう!
どうせ兄は帰るの遅いし、お城に来たついでに図書館にも寄っておこう!
図書館って頭が悪くてもブザーはならないんだそうだ。ここは城に勤める者やその家族なら利用できるとの事。まあ本は借りないけれど、コレットさんに用がある。
一人だけど女性に会いに行くんだから、兄も心配はしないはず。図書館、まだ開いていて良かった。
「頼もう! コレットさんいらっしゃいますか?」
受付みたいな所で聞いてみる。
二階の書庫にいるとの事なので、探してみた。
あ、いた!
「コレットさん!」
びくっとした人影のすぐそばにもう一人。
「あ……」
コレットさん、一人だと思っていたら灰色の髪の彼氏のような男の人と一緒だった。仲良さそうだし、もしやこれってオフィスラブ? じゃあ、私が邪魔しちゃったって事?
「ご……ごめんなさい」
「どなたかと思ったらセリーナ様。どうなさいました?」
コレットさんの相手がぺこりと頭を下げる。茶色い優しい目をした若い男の人だった。
私もすぐに膝を曲げて挨拶した。
でも、明らかに二人の邪魔をしちゃったよう。せっかくいちゃついていたのに……
「いえ、お邪魔してすみません。出直します」
「あら、良いんです。この人ったらもう! あ、紹介が遅れてすみません。主人のアルム=シャルゼです」
「へ?」
コレットさん、そんなに小っちゃくて可愛くてまさかの既婚者!?
「け、けけけ結婚してたの? 何で、初めて聞いた!」
「あら、だって言ってませんでしたもの」
「既婚者なのにラノベの話が大好きって……」
「いくつになっても読書は楽しいですわ! 恋愛の話は人生に潤いを与えてくれますもの。じゃああなた、後はお願いね」
頷き微笑む旦那様。
こういうのを『尻に敷かれてる』って言うのかな?
「セリーナ様、何かお話があるのでしょう? あちらで聞かせて下さいな」
歩きながら考える。
そっか、どうりで男女の事に詳しいし落ち着いていると思った。だからちょっとエッチなシーンを話しても、意外と平気だったわけね? 私は思い出しただけでも顔が赤くなるというのに。
だけど、転生しててもこっちの世界でちゃんと結婚できるんだ。
それなら私の『恋愛』だってチョロい……と、いいんだけど。
図書館内、この前と同じ部屋に案内されたのでコレットさんと向かい合って座った。
つい先日まで囮の仕事をしていたせいか、ここでも私と王太子が仲が良いと思われている。さっき受付でコレットさんの居場所をあっさり教えてくれたのは、そのため。でも本当は違うので、私は今まで必要があって王太子と一緒にいた事、誘拐事件に協力して無事解決した事などを説明した。
「だからもう囮でもなんでもないから。今は王太子と特に仲が良いというわけでは……」
ない、と思う。さっき色々触られたりしちゃったけど、「私を好きだから」ってわけでは無さそうだ。単にからかわれただけ? それとも他の人を褒めたから負けず嫌い? 所有物として扱われるのは嫌かも。
「だからこの前『色仕掛け』って言い出したんですね? じゃあ、王太子様のラノベのセリフも無くなったって事ですか?」
「いや、私ラノベ自体読んでいないからセリフかどうかもわかんない」
「囮という設定はありませんでしたよ? それなら、『アルロン』の攻略者として一人一人にアタックしてみてはいかがでしょうか?」
そう言われたので、私は既にコレットさんのアドバイス通りに頑張ってみた事を伝えた。王太子だけでなく、全員ことごとく失敗してしまった事も。
だからあの助言、さっきまではインチキなんじゃないかと疑っていた。だって全然効果がなかったから。でも既婚者からのアドバイスとなると重みが違う。今も旦那様と仲よさそうにしてたし。
上手くいかなかったのは、まさかとは思うけど私に原因があるのかな?
「……と、いうわけで全員失敗しちゃったんだけどどう思う? みんな他に好きな人がいそうだし、唯一の頼みのジュール様は自分より可愛くてそんな気になれないし」
「変ですねぇ。お話を聞いただけですが、私は全く逆の印象を持ちましたけど。皆様セリーナ様の事がお好きなのではないですか?」
「いやあ、ないない。だってみんな『誰かと間違った』だの『手放せない人がいる』だの『運命の女性がいる』だの私の前でも平気で言ってるもん」
「そうですか。ではセリーナ様は、どなたからもまだ告白はされていないんですか?」
「全然。兄は『お仕置き』しかしてこないし、王太子は意地悪だし、誰にでも手を出すはずのグイード様は出してこないし。ジュール様にはしごかれただけで進展はなかった」
「まあジュール様はああ見えて少々変わったご趣味の方ですから、敢えてそちらに行かなくても良いかと」
「うん。確か泣き顔が趣味の変態さんだったんだよね?」
「いえ、ちょっと違いますけれど。それならセリーナ様ご自身がいいな、と思う方はいらっしゃいませんか?」
「え、私? うーん」
「そばに居て堅苦しくならないとか、愛しいと思う方は?」
「ああ、それなら!」
「あら。いらっしゃるのでしたらその方では?」
「でも、ヤンデレじゃないしなぁ、ルチアちゃん」
「はい? ルチア様って王女様? 女の子ですし攻略者でもありませんよ」
「だよね。やっぱりダメかぁ」
「セリーナ様、もしやそういうご趣味?」
「何が? 女の子同士の方が気が楽だよ? 恋愛はできないけど」
「恋愛しないと意味がありませんよね? 特定の相手を作らないと殺されてしまいますが、それでも?」
「す……すみませんでした」
「良かった。じゃあ、真面目に考えましょうか」
「はい、先生。あれ? でも、ラノベって小説だよね?」
ようやく私は、重大な事に気が付いた。
そうだ、何で最初から思いつかなかったんだろう?
「ええ。それが何か?」
「それなら、コレットさんは結末を知っているんでしょう? セリーナが誰とくっついたのか先に教えてくれたらいいのに」
そう。そして、その人と手っ取り早く仲良くなって「好きだーー」と叫ぶの。
「それだと全く面白くありませんけれど。しかも『アルロン』は少し変わった形のラノベなので、私にもよくわかりません」
「はあ? だって、最後まで読んだんでしょう?」
「ええ。でも……そうですね、話してしまった方が早いかも」
一応聞いてみてるけど――
「えっと、じゃあこの前話してくれた序章がまた後ろの方で出て来て、そんでもってセリーナは実は死んでいなかったってオチ?」
「はい。崖下に洞窟があってそこに打ち上げられていました」
「なのに相手は全然気づかなかったと。バカじゃね? そいつ」
「だって、すぐにわかったら最初の20ページで完結してしまうでしょう?」
「その方が早くて良いんじゃない?」
「それなら物語の意味がありませんよね? そんなの読みたいと思います?」
「いや、小説自体読んだ事ないし……ごめんなさい」
コレットさんの目が怖い。
本好きの人の本にかける情熱がスゴイって事忘れてた。
「まあいいです。それで、ええっと最後の方ですが、散々探し回った攻略者の一人がとうとう彼女の居場所を突き止めるんです」
「居場所って洞窟?」
「いいえ。漁師に助けられていましたので、彼の家にお世話になっていました」
「じゃあセリーナは漁師の奥さんになっていたとか?」
「まさか! 漁師は妻子持ちで……って、真面目に聞く気ありますか?」
「もちろん! で、誰が探しに来たの?」
「それが……」
「えっと、攻略者の誰かなんだよね? その人がわかればその人と仲良くなるようにこれから頑張ればいいんだよね?」
私はドキドキした。
もうすぐセリーナの相手がわかる!




