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VS ルチア?

「……それで? 何でここに君がいるのか聞いても良いかな? ルチア」


「あら、だってお姉様がこちらにいらしてるって聞いたんですもの。でしたら未来の義妹として私、ご挨拶申し上げなければならないでしょう? 叔父様こそ二人きりでどうして?」


「おかしいな。未来の義妹って聞こえた気がしたけれど。ヴァンにはまだ具体的な話なんて出ていなかったはずだよ? 何より本人が結婚する気がなかったからね」


「まあ、それは叔父様の事では。独身主義を貫き通していらっしゃるのでしょう? 兄は違いますわ。ちゃんと心に想う方が出来ましたもの。妨害しないで下さる?」


「私も独身を通しているわけではないよ? 今まではたまたま運命の女性に出会う事ができなかっただけだ。これからは違う。君こそ邪魔しないでくれるかな」




 中途半端な時間だったからか、グイード様はお茶の用意に軽いサンドイッチやパイなどを添えた軽食を用意して下さった。これだとわざわざ食堂に行かなくても室内で食べられる。借りたドレスもそれほどコルセットをきつく締めていないから、十分お腹の余裕はあるし。


 でも、せっかく用意していただいた美味しそうな食事を食べながら、味がしないのはなぜでしょう? ルチアちゃん、「私もご一緒したいですわ!」ってやって来たからてっきりお腹が空いているんだと思ったら全く食べていないし。しかもさっきから二人で謎の言い合いをしていて、何だか怖いし。効果音を入れるとしたらシャーッとかグワァーッとかってのが合うと思う。蛇対マングース? 虎対竜? グイード様もグイード様でセリフに褒め言葉が全然入っていない!


 王女と王弟が仲悪いなんて、聞いてなかったんだけど。



 ルチアちゃん、お姉様って言ってくれるけど、兄弟分の杯を交わしたわけでもないのに未来の妹分っておかしいと思う。転生前は喧嘩がバカ強かったから、結構慕ってくれる女の子たちはいたけど、こっちでは大した事ないし。


しかも、突然結婚の話をし出したけれど、こちらには関係ないから後で二人でゆっくり話せば良いと思う。誘拐事件も片付いて私の囮の役目も終わったから、王太子が心に想う人がいるならその人の所に行けば良いだけでは? いくらお兄さんが大好きでもそれは本人の問題だよ、ルチアちゃん。


 グイード様も運命の人がいるのなら、ここで油を売っていないでさっさとその人の所に行くべきでは? あ、もしかしてお腹を空かせた私に遠慮して? それならゆっくり食べとくから私は一人でも構わないし。


「あの……」


「なんだい?」

「何かしら」


 二人が同時に振り返る。


「どうぞお構いなく。勝手に食べて食べ終わったら帰りますので」


 私が昼食を食べ損ねていたせいで、二人をつき合わせるのは申し訳ない。コンビニ前で座って食べたり公園でパン食べながらハトに餌やったりと一人で食べるのは平気だから、むしろ放っておいてくれた方が嬉しい。高く積まれたティーセットの軽食、下から順番に全種類制覇してみたいし。


「まあ、お姉様ったら。わたくしの事が邪魔になりましたの?」


「え? いや、違うけど。だって二人ともお忙しいのでしょう?」


「せっかく麗しい君と過ごせる機会を棒に振る気は無いね」


 あ、グイード様のお世辞復活。でもいくらチャラくても、それは運命の女性とやらに言うべきだと思う。

 そんな事を考えていた時――




「ああグイード、探したよ。例の国境沿いの小競り合いの件で。やはり君にも出てもらわなければならないそうだ。ジュール達は既に出発している。飛竜も頼む」


「お兄様!」


 いきなり入って来たのは王太子。

 ジュール様が急に呼び出されたのはそういうわけだったのね?


「しかし……」


「グイード様、お心遣いありがとうございました。おかげで楽しい時を過ごせましたわ。お気を付けて。ご武運をお祈りいたします」


 ファンタジーな少女マンガの姫のセリフ。パクったけれど仕方が無い。職務には真面目に励んでもらわないと。

 なのにグイード様、私の手を持ち上げて手の甲にキスをしながらこう言った。


「貴女のために戦ってきます」


 いや、違げぇだろ。そこは国のためだろ。だからほら、王太子と妹のルチア王女の視線が痛い。


「近いうちに飛竜で空からこの国をご案内致しましょう」


「ええ。とても楽しみ……」

「叔父様、さっさと行かれた方がよろしいのでは? 飛竜騎士団が他の騎士団に遅れを取るなどあってはならない事かと思いますけれど?」


 なんで氷温ブリザード?

 ルチアちゃん、いつもの可愛い貴女はどこにいったの?




 グイード様、苦笑しながら出ていく姿もカッコよかった。

 まあでも運命の女性がいるのなら、これからはちゃんとそちらを優先してもらわなくちゃね? 

 コレットさんのアドバイス、またもや不発。



「セリーナ、こんな所で君に逢えるとは思わなかった。今は外せないがいろいろ聞きたい事もあるから、後で私の執務室に来るように。ルチアに案内してもらうといい。ルチア、頼めるな?」


「ええ、お兄様。もちろんですわ!」


 あ、ルチアちゃんもいつもの可愛い笑顔に戻った。やっぱりお兄さんの事が大好きなのね!

 でも、さっきのグイード様との対決はいったい何だったんだろう?

 コレットさんのアドバイス、ルチアちゃんの分は無かったからよくわからないや。


「セリーナ?」


「うううわ!」


 何で至近距離? 王太子、いつの間に!?

 気が付けば、目の前にヴァンフリードの綺麗な顔がある。

 青い瞳には私の顔が映り込んでいる。


 突然、唇の端をペロリと舐められた!


「なっっ!」


「これはガトーの甘さ? それとも君の唇の甘さかな?」


「ど、どどどど」


 動悸、息切れ、火照り、めまい。

 自分の唇をぺろりと舐める仕草も妖艶で。ケーキ食べたいなら直接取りゃいいのに。

 それとも食べかす? ついているなら言葉で注意して欲しかった。

 っていうか、実の妹の目の前でそんな事するってどうよ? ルチアちゃんもビックリして……ないし。




 ねえルチアちゃん、どうしてそんなにニコニコ嬉しそうなの?

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