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そして、物語は始まる

 ――そんなわけで、今日はまたもや舞踏会。『恋愛』するより前に私にはやるべき事があった。今度こそ間違えずに、最初からきちんと軽食コーナーにいる。



 あの時に食べられなかったサーモンもちゃんと食べた。テリーヌやジュレの輝きが相変わらず私を誘うから、そちらももれなく。ローストビーフはなくってチキンだったけどしっかり食べた。ムニエルやキッシュ、パイやタルトもしっかりいただいたから、今なら誘拐されても三日間ぐらいはいけそうな気がする。

 もうお腹いっぱいで苦しくて動けない。

『コルセット』がキツくてヤバイ。

 できれば胃がちゃんと働いて消化してくれるまで、別室で休憩したいところだ。こんな時、親切に案内してくれた侯爵家ゆかりの子爵令嬢……ロザリンド様はもういない。


 仕方ねーな。

休憩所、自分で探すとするか。

 頭をかきつつ苦しいお腹を抱えながら、そろりそろりと会場内を出口まで移動する。今日の私は一人だからか、足を引っかけられたり悪口を囁かれたりする事もない。

『ヤンデレ君と恋愛』? 

 あ、そうだった。すっかり忘れてた。

 まあいいや、休憩してから考えよう。




 舞踏場を抜け出し、廊下に出てやっと一息つく。

 さあ、これからどこへ行こうか?


「私の可愛い人はこんな所に隠れていたんだね? 私の手で咲くのを待っているセリーナ。青いバラのように可憐な君がなかなか来てくれないから、待ちきれなくて迎えに来てしまったよ。今日のドレスも良く似合っているね」


 今日の私は白いドレス。

 なのになぜだろう?

 この前と王太子のセリフがかぶっているような気が……。

 ヴァンフリード様『見目麗しいご令嬢』の一人と踊っていらしたはずじゃあ。もう囮の演技は要らないし、こっちは放っておいて良いんだよ?


「素敵! やっぱりラノベと同じセリフだわ!」


 いつの間にか近くに来ていたコレットさん。

 今までどこにいた? 

舞踏会には参加していなかったのね?


「あれ? コレットさん、この前も同じ事言っていたような……」


「ああ……セリーナ様ごめんなさい。私、間違えておりましたわ!」


「何!? じゃあもしかして私、本当はヒロインじゃ無かったとか?」


 ちょっと期待をしてしまう。

 もしや、今までの事は全てコレットさんの勘違いだったとか?


「いいえ。殿方と恋に落ちる舞踏会ですが……。『ラノベ』でのヒロイン、セリーナ様は確か白いドレスを着ていらっしゃいました。ちょうど今日のように――。前回は青かったでしょう? だから今日がきっと本番です!」


「はいぃぃぃ!? じゃあ今までのは何。誘拐されちゃったのは? 囮は? 話の中に入ってなかったの?」


「誘拐? 囮? 何の事でしょう。まったく意味がわかりませんが……」


 緑色のドレスのコレットさん、可愛く首を傾げている。

 何で? 誘拐事件、あんなに大変だったのに。

『ラノベ』には出て来なかったの?




「可愛いセリーナ、私以外と何を楽しそうに話しているんだい? 君は私だけのものだよ?」


 げ。王太子、まだいたのか。

 後ろから私の腰に手を回して自分の方に引き寄せるって……。

 やーめーてー!!

 さっき食べたものがリバースしちゃう。

 耳にキスするのもダメだから。



「ヴァン、抜け駆けは禁止だとこの前約束しただろう? ああセリーナ、君を私の腕の中に閉じ込めたい」


 あり? この低い良い声はグイード様。

 ご令嬢達を褒めちぎっていたんじゃあ……。

 助けに来てくれたと思ったのに、変な事言ってしつこく髪に口づけるなんて聞いてないよ!



「困った顔の君はやっぱり可愛いね。もちろん泣き顔もそそるけど……」


 ジュール様。

 それって褒めてんの? 脅してんの? 

 どちらにしろ、突然現れて手の甲にキスをするのはやめて下さい。うわ。今、噛みましたね?


 

「……誰が触って良いと言いました? リーナは私のものです。誰にも渡しません」


 言いながら正面から近づいて来た兄。

私の顎を持ち上げると、唇の端を舐めた。

 あれ、食べカス残ってた? 

 じゃ、なーくーてー。

 お兄様、それってもしかして……。




 せっかく舞踏場を抜け出して休憩しようと向かっていたのに、後ろに王太子、左隣にグイード様、右隣にジュール様で前に兄様って……完全に囲まれているのですが。どうしちゃったの、みんな?


 さすがに私もこの状況だとどうして良いかわからない。イケメンに興味がないとはいえ、全員の激し過ぎるスキンシップに顔が赤くなったり青くなったり……。

 でも一体何なんだ、突然どうした?

 みんな、悪い物でも食べたのか?

 逃げ場を求めて視線を彷徨わせる。

 ハッ、そうだ。

 コレットさん、そこにいるんでしょ?

 助けて!!



「素敵素敵! ラノベ版『アルロン』の表紙だわ!!」


 (かが)んだ兄の肩越しに、胸の前で両手を組んで嬉しそうにしているコレットさんが見える。


 え? ごめん、話が見えない。

 表紙って何だ? 

これから始まるってこと?

 ラノベ版って事は……もしや私のヒロイン確定したってことなの!? しかも、この状態がこれからもずっと続くの?


「嫌ぁぁぁぁぁーー!!!」


絶叫が、廊下にむなしくこだまする。

私の意思とは関係なく、彼らに半ば引きずられるような形で会場へと戻された。日頃から鍛えているのかみんな意外と力が強い。私ごときの力では、ビクともしない。


コレットさん、うっとりしてないで早く助けを呼んで来て!!




「さあ、セリーナ。君はまず、誰の手を取る?」


 今日、ようやく私はヤンデレ包囲網から逃げられない運命である事を悟った。

 



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