元ヤン、手玉にとる?
いつもありがとうございます(^^)
「あんたら、さっきから聞いてりゃ自分達のことばーっかりグダグダグダグダと……」
私は彼女達の方に近付き、ベルローズとロザリンド母娘に向けて言い放つ。何だこいつ? という目で見られるけれど、いつもの事なので気にしない。
「いい? 『自分達さえ良ければ』っていう考え方はダメだから。その為に他人を犠牲にするのも――」
腹黒王太子に「発言を許可した覚えは無いよ?」って言われたらどうしようかと思ったけど、何にも言われないからいいや。続けちゃおう。
「大変な苦労をしたと思うよ? 確かに嫌な事も色々あっただろうさ。そこから這い上がってきたのはすごいと思うし尊敬もする。でもダメだろう? 人に迷惑かけちゃ。自分の夢は自分の力で叶えなきゃ」
「ハッッ、苦労知らずのお嬢ちゃんに何がわかるの? 私の壮絶な過去を『苦労』の一言で片づけて欲しくないわね」
「そうよそうよ。ヴァンフリード様に大切にされているからって自分だけが特別だって思わない方が良いわ。あなたなんか、すぐに飽きられて捨てられるんだから!」
ええっと――ベルローズ様、私の過去も壮絶と言えば壮絶ですけれど。貧乏だったしヤンキーでケンカばっかで傷だらけだったし。何より一度死んでるし。
それにロザリンド様、仲良く反論するってことは何だかんだ言ってお母様と気が合うみたいよ?
でも私がヴァンフリードに大切にされているように見えたのは、囮役だったから。それに彼は『手放せない人がいる』ってさっき言ってたでしょう? 飽きられて捨てられる、というよりは呆れられて契約終了でさようなら、という方が正解なんだけど……。
ちょっとだけ寂しく感じてしまうのは、きっと気のせい。何たって私、イケメンには興味が無いし。
「……それが何か? 私の事を言うよりも自分達の反省をしたらどう? 嫌な思いをしたんなら、他人にさせたらダメだろう? 自分が愛されたかったら、自分から好かれるように努力をしたらいいじゃないか。なんの権利があって他人の幸せを踏みにじる? 誘拐、ダメ、絶対!!」
腰に手を当て人差し指を立ててビシッと決めた!
――つもりなのに、周りのヤンデレ軍団達になぜかクスクス笑われている。何でだ?
「物事を真っ直ぐ捉える君は可愛いね。そんな所も好きだよ、セリーナ」
む。もしかして私、王太子におちょくられている?
「乱暴な言葉遣いでも君は素敵だ。純粋な心を痛める位なら私に向けて欲しい」
グイード様意味がわかりません。
何が言いたいの?
「泣き顔も困った顔もクるね。早く色々教えたいな」
ジュール様、いったい何を?
それって今まったく関係ありませんよね?
「リーナ、誘拐や監禁は重大な犯罪だ。お前にまで手を上げた事、死ぬまで後悔させてやる」
いやいやいや。
兄様、死ぬまでって……まさか無期懲役とか死刑にする気なんじゃあ?
「そうだったの。男達を手玉に取って――。警戒すべきはあなただったってわけね? 攫うのが遅すぎた。読みを誤ったわ。このわたくしとした事が!」
ベルローズ様? 何だか盛大な勘違いを。
手玉に取れる位なら、『恋愛しなきゃ殺される』って焦ってませんがな。
「初めて会った『夜会』の時にやっぱり潰しておくんだった。ベニータ様よりあなたの方が強敵になるなんて!」
ロザリンド様まで。そんなわけないでしょう?
まあ、ケンカならベニータ様に余裕で勝つけど。
でもこの母娘って実は仲が良いんじゃあ?
さっきから二人で似たような事言ってるよね?
「あたしは一人だけで良いわ! 王太子と仲良くなれるっていうから協力したのに……」
オネエ!? まだ諦めてなかったの?
というより、こいつら全然反省してねーな。
青ざめているベニータ様や公爵様は置いといて、さすがに王女のルチアちゃんも呆れているんじゃあ……。
ルチアちゃん? 何で目がキラキラしてんの?
「お兄様ったら、こんな所でお姉様に告白するだなんて! でも、もう少しムードがあった方がよろしかったのでは?」
いや、それ確実に違うから。
まだ囮の演技を続行しているだけだから。
ああ、さっさと囮契約解消したい……。
まずはこいつらを何とか反省させて、攫われたご令嬢達の信頼を回復させないと。
「良ければ伺っておきたいのですが。この方々はいったいどういう処分になるのですか?」
王太子の青い瞳を真っ直ぐに見て問いかける。
こういう場合、もしかして秘書官である兄に聞いた方が早いのだろうか? でも兄の方が物騒な発言をしていたし……。
「さあ、どうしようか? 心優しい君には耐えられない過酷な処罰かもしれないね?」
ヴァンフリードが微笑を浮かべ、綺麗な顔に似合わず恐ろしい事を言ってくる。まさか打ち首? よくて禁固刑? しっこーゆーよはどうなった?
「ひっっ」
「陛下に進言するわ! 濡れ衣を着せられたと言えば助けて下さるはずよ」
「私は関係ないからな。巻き込むのは止めてくれ」
「こんなの認めないわ! あたしは悪くないっ」
ロザリンド、ベルローズ、子爵、ミーシェの順に叫ぶ。
ここに来て彼らはようやく、自分達の置かれている状況に気が付いたようだ。
「ああ、それなんだが――。ここに来る前陛下に報告しておいた。重犯罪の報告は義務だから。兄は『犯人が誰であっても』一切関知しないとの事だった。処分も私に任せてくれるらしい」
グイード様、何やら笑顔が黒いんですが。
犯罪の取締り責任者はあなたでしたか。
一体どうするつもりなんですか?
「辺境に収監するか島流しにでもするかな? それとも鉱山で強制労働だろうか……」
「まあ」
「そんな!」
「私は関係ないっ!!」
うわ、何それキッツい。
しっこーゆーよは? 裁判とか無いの?
助けを求めて、兄に目で問いかける。
あ、目が合った。
「軽いですね。もう少し重くても……」
ちっがーう! 兄様。逆、逆!
慌ててバタバタ手と首を振る。
反省する暇も与えないで処罰って、ダメだと思うよ?
「それならセリーナ、被害者の君ならどんな処分を下す?」
立ち上がったグイード様からの突然の質問に固まる。
軍服まで黒なのが、似合い過ぎていて怖い。
みんなの目が私に集中したから、何だか面接を受けているみたい。
私だったらどうするかって?
ヤンキー仲間ですごく悪い奴らって、どんな処分を受けてたっけ?
「ええっと……まずは反省文?」
「はっっ」
ミーシェにバカにしたように笑われる。
「それから、財産没収と勤労奉仕」
「勤労奉仕?」
ジュール様に不思議そうに問われる。
この世界には無いのかな?
「はい。ええっと更生プログラムの一環で、地域の方や困っている方々のために大変な仕事や力仕事を引き受けて、世の中の役に立つという……」
兄に「そんな事!」という目で見られる。
「人殺しやクスリに手を出したんなら危ないから即、刑務所……牢屋に入ってもらえばいい。でも、重大な罪を犯したとはいえ被害者の命に別条がないんなら、反省したり悔い改めたりする機会を与えられるべきだと思うんだけど……」
まあ、知ってるのは未成年の場合だけだけど。
掃除だとかホームレスへの炊き出しなんてやった事が無いんだろうなぁ、この人たち。ボランティアや災害の後片付けなんかは大変だったけど、それなりに感謝もされたし充実してた。まったく捕まらなかったわけではないから、それなりの事はしてきたけど。
でも本来なら、私よりももっと大変な被害に遭ったお嬢様達の意見を聞くべきだよね?
「軽いね。考え方としては面白いけれど、それで攫われた令嬢達の気が済むとは思えないね? ただでさえ『純潔』を疑われているんだ。社交界に復帰するのすら難しい……」
王太子が目を細めて言う。
彼も被害者たちの事は気にかけているのね?
「それなら……攫われた事自体、無かった事にしてしまえば……」
私のこの意見は、当然みんなにビックリされてしまった。




