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犯人の正体は?

「いいよ、もう。それより話を戻そう。ミーシェとやら、間違いないか?」


 王太子が兄に代わって確認する。

 そっぽを向くオネエの顔が薄っすら赤くなっている。

 あ、そうだった。こいつ、王太子の事が好きなんだったっけ?

 直接話しかけられて照れているんだな。

 ふふ、すぐにわかる私ってばすごい! 

『恋愛マスター』って呼んでもいいよ?


「あんたが良いなら良いわよっ」


 うわ、テキトー。しかもお任せって、むしろびっくりだわ。オネエ、もしかして尽くすタイプ?


「わかりました。では、監禁は認めたという事で。次に、誘拐の方ですが……」


 こっちが本題。オネエが嘘を吐いていないのだとしたら、『見目麗しいご令嬢』達を攫わせて置き去りにしたのは誰?


 誘拐され、助け出されたご令嬢達の名前を兄が順に読み上げている。声は聞こえているものの、私は自分の考えを整理するのに夢中で内容は全く頭に入って来ない。




 私が初めて誘拐事件の一味であるゴロツキに遭ったのは、兄と参加した『夜会』の時だった。王女のルチアちゃんが囮とは知らず、助けに入ってしまったのだ。その日、王太子であるヴァンフリードや、近衛騎士のジュール様とも出会った。

 後から聞いた話によれば、あれはリーガロッテ公爵家――つまりベニータ様の家だった。

 あ。てことは、さっきの偉そうなおじさんがリーガロッテ公爵? しまった! またやっちまった。後で逮捕とか『お仕置き』にならないといいんだけど……。


 いけない、横道にそれた。


 で、後日ルチア王女とのお茶会で正式にベニータ様を紹介された。上品でおとなしく、優しそうな女性。身分も高く頭も良くて王太子妃に一番近い存在。

 そんな彼女がなぜか私に「王太子と『(ねんご)ろな関係』か?」と聞いて来た。

 言葉の意味がわからなかった私は、つい知ったかぶって肯定してしまった。けれど後からルチアちゃんが教えてくれたところによると、『懇ろな関係』とは、『男と女の深い関係』とのこと。

 ひえぇぇぇ~~! この私が腹黒王太子とそんな関係になるわけがない。向こうもお断りだろう。慌てて訂正したものの、そこに先に帰ったベニータ様の姿は無かった。誤解させたままだったので、私はすんごく焦った。


 お城の舞踏会当日に、私は正式な囮役としてデビューした。

 なぜか国王の所まで引っ張っていかれたし、側室軍団とも顔を合わせた(睨まれた)。そこのテラスで王弟で飛竜騎士のグイード様と初めて言葉を交わした。

 その後、王太子といるところをベニータ様に見られたような気がしたけれど、すぐに柱の陰に隠れてしまったから確認できなかった。赤い髪と赤い瞳がチラッと見えたような気がしたけど。


 しばらくして私が美味しそうな食事を食べようとしていたら、上品な男が呼びに来た。会場から外に連れ出され、薬を嗅がされた私。意識を失くしてまんまと攫われてしまった。

 気が付いた時にはミーシェの屋敷……正確には豚小屋にいた。



 一方、初めて会ったオネエのミーシェは赤い髪をしていた。

 私を見るなりなぜか『身体だけで王太子サマに取り入った癖に』と、批判してきた。屋敷の地下牢にいたのは家柄も容姿もそこそこの、『見目麗しいご令嬢』達。彼女達はひどく怯えていた。

 お昼にようやく打ち解けて話を聞き出すことができた。

 彼女達の共通点は、王太子ヴァンフリードと一回以上踊った事があることと、結婚適齢期であること。何人かは城に自分の絵姿まで送っていたという。


 ってことはさー。もしミーシェの言う事が正しくて誘拐を指示したのが別の人だとしたら、王太子と結婚したい人が犯人じゃね? もしくはその関係者、とか?

 自分の頭が良すぎて怖い。

 やっぱりあれか。最近真面目に勉強してたから?


 またそれた、話を戻そう。

 そいで、おかしなことに王太子妃の最有力候補でルチア王女のご友人、公爵家の『ベニータ様』だけはなぜか攫われていなかった。私から言わせると、彼女が一番危ないような気がするのに……。

 ミーシェの髪は赤。ベニータ様も赤。

 二人とも美形だし、もしかしたら親戚?


『懇ろ発言』以来ベニータ様は、私を王太子とそういう関係だと勘違いしている。それはちょうどオネエの言う「身体だけで取り入った」っていうセリフに当てはまっている。

 あとはオネエの『王太子をタラし込んで婚約間近』と『紅薔薇』発言が気になるんだけど。特に『紅薔薇』がかなり怪しいよね? 仲間かって聞くと否定しなかったから、たぶん黒幕。

 でもそれは――。




「――という事で相違ないですか? ベニータ嬢」


「そんな……違う、違うわ! 誓って私では無いわ!!」


「ではリーガロッテ公爵、身に覚えは?」


「違うっっ! いくらこの悪人の屋敷が我が領に近いとはいえ、我らを疑うとは何たる侮辱!」


 気が付けば、ベニータ様とお父様と思われる公爵様が必死に叫んでいる。特に公爵はオネエを指さし、わあわあ騒いでいる。私の記憶と証拠の多くも彼女達が怪しいと示している。

 隣に座るルチア王女は、友人が疑われている事にショックを受けているようで、少し震えている。その様子が痛々しくてそっと手を握って慰める。


でもまだ誰も動いていない。

犯人に繋がる決定的な証拠が何も無いから?

 違うって全力で否定しているから?

 だからなのか、誰もそれ以上何も言わない。

 

 唯一犯人の手がかりを知るオネエのミーシェ……と、手下達。

 特にミーシェは薄ら笑いを浮かべていて、慌てふためく彼女達を見ている。




 あれ? って事はやっぱり――。

 私は立ち上がるとオネエに近付き、声をかけた。


「ねえ、ミーシェ。あなたの仲間の彼女、ご気分がすぐれないみたいよ?」


「フン、バカね。私が簡単に漏らすとでも思っているの?」


「いいえ? だから身体に聞いてみようかと思って……」


「うわっ、ちょ、何!?」


 視界の端でお兄様たちがビックリして動くのが見えたけど、そんなのは無視。私は身動きの取れない状態のミーシェの見事な赤い髪を掴むと、一気にむしり取った!


「きゃーー! 止めてーーっ!」


 ああ、やっぱりね? 

 真っ赤な髪の毛の下からは、見事な『金髪』が出てきた。




「ちょっとあんた、急に何するのよ! 乱暴ねっ。それでも女なのっ」


 この世界に来る前に散々言われていたセリフなので、それぐらいじゃあ動じない。


「何でカツラなの? 金色の髪の方があなたに似合っていてよほど綺麗だと思うけど」


「うるっさいわね! 情熱の赤よ、赤!」


「そうなの? 私はてっきり、あなたのお友達に合わせたんだとばかり……」


 みんなの顔が一斉に赤い髪のベニータ様の方を向く。

 彼女は『違う、知らない』というように、必死に首を振っている。


「どうでもいいでしょっ、そんな事! 何なのよ、本当にもうっっ」


 周りは固唾(かたず)を呑んで私達のやりとりを見守っている。

 

「あなたが協力していたお友達の事を正直に話すなら、今よ?」


 ダメ押しでオネエに言ってみた。けれど……。


「こんな事をされたぐらいで私が話すとでも? あんたなんかに、誰が言うものですか!」


 だよねー。

 顔を手下の方に向けると、彼らはポカンとしている。

 って事は知らないってことね?

 それならやっぱり、本人に聞くしかないか。

 私は女性陣の中央に赤髪のカツラを放り投げると、みんなに聞こえるようにこう声を掛けた。


「ああっ、すみません。手元が狂ってしまって。あら? 『紅薔薇様の』足元に大きな毒蜘蛛が……カツラの中に紛れ込んでいたのかしら?」




 みんなが驚き他人の足下を見る中で、一人だけ自分の足下を見た人物が……。

 その人が黒幕! 

 それは私が『おや?』と思っていた女性だった。

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