だって囮だもんね!
いつもありがとうございます。拡散大歓迎です!!
「何と!」
あ、それ、私も言いたかった。王様に先に言われてしまった。
目を丸くして固まる私をチラチラ横目で見ながら、王太子が口の端で笑う。
今度は何を企んでいるんだ?
「伯爵の娘とな! お前には公爵や諸外国の姫との縁組の話もあろう? この者達の縁戚からも話は出ているというのに、それらを全て断ると言うのか? 許さん! 許さんぞ!」
あ、そうなんだ。モッテモテですね?
なら、私の出る幕じゃあないような。
あれ? ならベニータ様は? 彼女が最有力候補なんじゃないの?
どっちみち他人事だし、さっさとこの茶番を終わらせて欲しい。王太子、いったい何しにここに来たんだろ?
「父上の許可は要りません。これは私が望んだこと。側室の皆様も出る幕では無いかと」
うおっっ、王太子強気!!
しかも真面目な顔でこの場にいる一人一人を見ているから、ちょっと怖い。
銀座のママ……側室の皆様方もドン引きしている。
待てよ、わかっちゃった気がする。
もしかして私、実は頭良いんじゃね?
要するにこの人達を牽制しておきたいわけね?
側室って王様の愛人であなたのじゃあ無いよね。
それとも年上もOKとか?
それより、もう囮の仕事が始まっちゃってるってことかな? 『見目麗しいご令嬢』として私をみんなに印象付けたいとか? だからわざわざ挨拶しにここまで来たんでしょう。
でもさあ、アンタは良いけどアタシ悪者じゃね? いきなりやって来て、「こんにちは~」ってアホだよね。しかも大事な息子を盗ろうとしているように見えない?
お父さんだけには「囮だよ~」って本当の事を言っておいた方が良いんじゃね?
おいおい! というように王太子の袖を引っ張るけれど、完全に無視しやがる。それどころか王太子、王様と睨み合っているような気もする。ええっと……実の親子ですよね? もしかして仲悪いとか?
「認めんぞ! このわしに向かって生意気な口をきくなら覚えておけ!」
「ええ、私は忘れません。父上こそ覚えておいて下さい。どうか甘言や佞言に惑わされませんように……」
難しくて言葉の意味はわからないけれど、何となく口喧嘩してるんだなってのはわかった。しかも私を連れてったせいで。ケンカするならよそでやって、私を巻き込まないで欲しい。だって、王様や側室の皆様方の視線がさっきからビシバシ痛い。
かなり嫌~~なギスギスした空気を体験し、最初に挨拶した以外は一言も話さないまま、私は王太子と一緒に国王の部屋を出た。
「ぷはぁぁぁーー!!」
扉の外に出た途端、思わず変な声を出してしまった。だって王太子、いきなり国王陛下の前に連れていくと思ったら、ケンカを売って出てきたのだ。巻き込まれたのに奇声ぐらいで済ませてあげて、可愛い方だと思う。
「ごめんね? 嫌な思いをさせて。でもセリーナ、私は本気だから」
私の頬に片手を優しく当てて、王太子が言う。
何が? 囮が?
それにまだ演技を続けてるのか?
大丈夫、わかってるよ。
本気で私に囮を頼むって事だろ?
王様やママさん……側室達の前でもベタベタな演技が必要な理由がよくわからなかったけれど、でもいつもみたいにへらへらしてないってことは大事なことだったんだろ? まあ、嫌々引き受けたとはいえ元はといえば私が台無しにしたことだし、仕方がないから付き合ってやるよ。
あ、でも代わりと言ったらなんだけど『黒騎士グイード』紹介してくれないかな?
「あの……ヴァンフリード様……」
言う事を聞いてもらいたいから、仕方が無いけど名前で呼ぶ。
王太子、一瞬驚いた後に綺麗な笑顔。
こいつ相変わらず顔だけは良いな、ちくしょう。
「何だい、セリーナ。舞踏会は止めにして二人だけで語り合おうか?」
バカじゃね? それなら囮の意味無いだろ。
……じゃなくって。
「いいえ? 舞踏会は楽しみですわ。それよりも、少しお願いしたい事が……」
歩きながら会話する。今から向かうのが、たぶん舞踏会の会場。
もしかしたらそこに、グイード様が来ているかもしれない。
「いいよ? 君の願いで私に出来る事なら、何だって聞いてあげよう」
こいつ、いちいちセリフが嘘くさい。
……じゃなくって。
「では、お願いします。あのですね、黒騎士……『飛竜騎士団』団長のグイード様を紹介して下さい。確かお知り合いでしたよね?」
この前一緒に槍で戦っていたのを見たから、確実に知り合いだと言える。終わった後は楽しそうに話もしていたし。なのに突然王太子は立ち止まり、その顔から笑みが消えた。
「何で?」
「え?」
「どうして」
「はい?」
「どうして君は、このタイミングで彼の事を聞こうとするの?」
ちょっと待った! 私、何かいけなかった?
もしかして、またもや地雷踏んじゃった?
王太子の目が笑っていない時は、ちょっとヤバイ時。
「このタイミング」って、囮の仕事の前だから雑談禁止とかそういう事?
それに、どうしてって言われてもちょっと説明できない。
”この世界が『ラノベ』か『ゲーム』かもしれなくて、そんでもって私がこんなんだけどヒロインかもしれなくて、生き延びるためには決まった誰かと恋に落ちなきゃいけない” だなんて、どうやったら信じてもらえるように上手く説明できるのかな?
「どうしてって言われましても……」
私にだってよくわからないんだから、説明のしようがない。
仮に上手く言えたとしても、きっと頭がおかしいと思われちゃう。
「ちょっとこっちで話そうか?」
そう言って連れて行かれたのは、廊下の途中に何ヵ所かある出窓みたいな所。外の樹々が眺められ、爽やかな風が気持ち良い……って、そんな場合じゃないんだわ。まあ、すぐ前を人が通るといっても柱の陰になっているし、内緒の話をするにはちょうど良い。ってことは、いろいろ教えてくれるつもりなのかな?
「……それで、何でグイード? 君はそんなに年上が好きなの?」
いや、年上だとは思うけどいくつか知らないし。っていうより、そもそも彼の事は何にも知らないし。私が知っているのはコレットさんに聞いた『飛竜騎士団団長だ』っていう情報だけ。
わからないのでキョトンとしながら王太子の青い瞳を見つめる。
「彼がいくつか知らないの? グイードは今年で確か27。君より10も年上だ。しかも泣かせた女性は数知れず。現在進行形で、身を固める気なんて全くないと思うけどね?」
ああコレットさんの言っていた、素行が悪いってそういう事――。
あ、でも確か『恋愛する』のが条件で、結婚まではしなくて良いと思うから大丈夫! そんなにチャラけりゃもしかしたら、案外簡単に恋人達の列の最後尾にでも入れてくれるかもしれない!
希望がちょっと見えてきた気がして、私はつい、にやけてしまった。
「……そう。それでも良いんだ。まさか一目惚れ? 家から出た事の無い君は、悪い男に惹かれてしまったの?」
な~~にを言ってるんだか。
あなたも十分腹黒じゃない。
そうじゃなくって、可能性の問題!
自分が殺されないために、少しでも恋に落ちる確率が高い方を狙うってのがスジってもんでしょ。それにそんだけ年上なら、元ヤンキーでも多めに見てくれる……かも?
何て答えて良いのかわからず、口に手を当て首を傾げて考える。
やっぱわかんないや。
結局紹介してくれる気あるの、無いの、どっち?
「この私が、女性に翻弄されるなんてね?」
王太子がちょっとだけ悔しそうな顔をして笑う。
「え?」
『ほんろー?』、『ほんのー?』。
難しい言葉は遣わないで欲しい。
「でもダメだよ? セリーナ。よそ見をしたら。君が誰のものかを、はっきりわからせないといけないようだ」
言うなり銀の頭が近付いてくる。
王太子が目を細め、ドキッとするような『よーえんな』表情をしたかと思うと、ショールをずらされあっという間。
「痛っっ!」
首の付け根がチリッと痛い。何だ、噛まれた?
ビックリして首に手を当て王太子を見る。
兄がよくするお仕置きやスキンシップにも似ているけれど、あの人は噛まない。なのに、今回のこれはちょっとだけ痛かった。ちょうど見えない所なので確認できないけれど、セリーナの肌は白いから跡がついてしまったかもしれない。
でも、どうしてそんな顔をしているの?
そんなに悲しそうな顔をして、あなたは何が言いたいの?
あ、そっか、そうだった。頭良いからわかっちゃった。
今日は囮の仕事に集中しろってことね?
だって私、囮だもんね!




