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ヒロイン確定……やだ

 上手く頭が回らない。

 

 黒い甲冑(かっちゅう)? そんな感じの人、前に訓練場で見たことあるような。 

 で、でも見たっていってもあの1回だけだし、黒騎士だからって本人とは限らないし……。そ、それに今言ってた『飛竜騎士団』の団長なら馬乗らなくね? 飛竜ってぐらいだから小型のドラゴンだよね? そんなやつが地上でわざわざ王太子と模擬戦なんかしないよな?


 ギギギと不自然に首を横に向け、視線をコレットさんから外す。

 だって、これ以上は聞きたくない。

『ヤンデレ君』の全員と既に会っていただなんて認めたくないし、ヒロイン認定されたくない。



「セリーナ様、その反応はもしかして……グイード様をお見掛けした事が? 地上にいらっしゃる時の惚れ惚れするような黒の甲冑姿を既にご存知なんですね!」


「いえ、本人だかどうだか……。それに馬に乗っていたから、どっちかっていうと『黒騎士』って名乗った方が良さそうな感じだったけど」


 なおも食い下がる。頼む、間違いであってくれ!

 私の見た『黒騎士』とコレットさんの言う『黒の甲冑男』が別人でありますように!


「それなら地上での演習中だったのでは? 騎士団は鍛錬を怠りませんし、飛竜に乗る者は元々騎士の資格を持つものです。『飛竜騎士団』の名もそこからきているかと――。それに、確かヒロインとの出会いもそんな感じでしたわ! ああ、あと決定的な証拠が。その方は黒い髪ではありませんでしたか? 日本にいた私達には当たり前でも、この世界で黒い髪はとっても珍しいんですよ」


 ああ……終わった。人生全てが……。

 それならたぶん本人だわ。

 名前は知らなかったけど、見ちゃってた。

 そういえばあの時ちょっとだけ、笑いかけられてたような気もする。

 自意識過剰と思われるのが嫌で、王太子とまとめてスルーしてたけど。



 

 インフルエンザで寝込んだ後のようなすんごい脱力感。

 ハァ。さっきまではすっごく気分が良かったのに。

 無理して恋愛しなくても、殺されなくて良いはずだったのに――。

 しかもどうやらその4人とも、私との恋愛からはほど遠い気がする。

 全く攻略できる気がしてこない。

 強いてあげるなら『黒騎士』のグイード様だけだけど、知り合ってもいないし……。みんな私の事は確実に、恋愛対象として捉えていないと思う。

 

 がっくりし過ぎて頭が重い。

 さっき喜んだ気持ちを返せ! 


 でも、何とかしないと殺されちゃうんだよね?

 お付き合いなんかした事無いのにどうすりゃいいのさ。

 ケンカの方がよっぽど簡単だった。

 拳と鉄パイプは私を裏切らない。


 そもそも恋をしないとヒロインが殺されるって何で? 

 誰にどうやって殺されちゃうの?

 私は一番気になる事を思い切って聞いてみた。


「ヒロインは、なんで殺されるの?」

「さあ? 小説版は、恋をするので平気です。主人公が殺されるシーンは、ゲーム版。よくわかりませんが、可能性としてはヒロインの事が好き過ぎるあまり……。先日もお伝えしましたが、私はノベル派ですので詳しくなくて。せっかくヒロインのセリーナ様と話す機会をいただいたのに、お力になれず済みません」


 なんで~~! 人を散々不安にさせといて知らないって何~~! 

 私やっぱりヒロイン確定?

 

「あ、でも私、元ヤンキーだし下品だし頭悪いからヒロイン無理じゃない? それに、身体も丈夫だし強いから、男の人からするとちょっと……。私も弱い男は好みじゃないし」


 最期の悪あがき。

 コレットさんももしかしたら勘違いだったと、考えを改めてくれるかもしれない。


「その事ですが。先日はびっくりして偏見の目で見てしまい、すみませんでした。私も転生前は引きこもっていたので、実際にヤンキーの方を目にした事が無くて。ヤンキーは不良のイメージでした。ですが、実際のセリーナ様は、すごく楽しい方ですね。これならヒロイン十分いけますわ!」


 いや、不良で合ってるよ?

 それにヒロインいきたく無いんだけど。

 絶対喜んでるでしょ。すごく嬉しそうに見えるよ?


「大丈夫です。攻略者は皆様素敵ですし、ああ見えてとってもお強いんですもの。イケメンなのでヤンデレなくらいは多めに見てあげましょう。同じ転生者として協力致しますわ! ラノベの方なら私、結構覚えていますので」


 

 いや、イケメンだから何でも許されるって、その考えダメでしょ。私、そんなにイケメン好きじゃないし……。それに万が一私がヒロインだったとしても、「ヤンデレを多めに見てあげる」ってそんな上から目線で良いの? むしろ死なないためには、こちらが土下座をしてでもお付き合いをお願いしないといけないような気がするんだけど。


 そもそも『ヤンデレ』って何? 

 病んでるってことは病気か? 

 恋とか愛とかに夢中にならず、さっさと病院行った方が良くね?

 あと、兄貴がアタシよりも強いなんて聞いた事がない。こんなことならダンスの練習なんかせず、拳で語り合っとくんだった。

 

 ダメ元でお願いしてみる。


「ねぇ、協力するって言うんなら、ヒロイン交代してくれない?」


「残念ですがそれは無理ですわ! それに、ほら……お迎えが来ましたよ?」


 立ち上がって丁寧なお辞儀をするコレットさんの視線の先には、扉に寄りかかる王太子の姿があった。





 ぎょえーー出た~~!


「私の可愛い人はこんな所に隠れていたんだね? 私の手で咲くのを待っているセリーナ。青いバラのように可憐な君がなかなか来てくれないから、待ちきれなくて迎えに来てしまったよ。今日のドレスも良く似合っているね」


  

「ね? ね? コレットさん、今の聞いた? あんな歯の浮くようなセリフ、意味わからんし人としておかしいでしょ。絶対に私をからかって遊んでるよね?」


 ひそひそと小声で同意を求めてみた。

 なのに、コレットさんの目がなぜかハートだ。

 

「素敵。ラノベと同じセリフだわ!」


 なんじゃそりゃ。

 それなら作者が頭おかしいでしょ。

 いくらイケメンでも大の男が堂々とこっ恥ずかしいセリフを人前で言うだなんて……。

 え、いいの? それが正解? ラノベの世界、理解できん。


「ほら、セリーナ様。王太子殿下をお待たせしてはいけませんわ!」


 言いながらコレットさんが嬉しそうに私の背中を押す。

 何だかちょっと、裏切られたような気分だ。


「……君は?」


 私に話しかけるコレットさんを見て、王太子が興味をもったらしい。

 よし、いける! そのままなしくずしに、ヒロイン交代だ!!

 王太子に深々と礼をするコレットさんは、小さくて可愛らしい。


「コレット・シャルゼと申します。こちらで司書の仕事をしております。セリーナ様の良き相談相手として今後も誠心誠意尽くします」


「そう。察しの良い子は好きだよ。それじゃあこれからも励むように」


 軽く頷く王太子。

 聞いた? ねえ、コレットさん、今の聞いた?

 王太子「好き」ってあなたに言ったよね?

 このままヒロイン交代で二人で仲良くしてくれないかなぁ。


「何してるの? おいで、セリーナ。そろそろ行くよ」


 言いながら腕を掴まれる。

 ああ、気が重い……。


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