表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
155/177

私の好きな人

 私が初めて恋をした相手は、別の女性が好き。しかもその相手に告白する前に、癒やしてほしいと言う。見返りは、彼自身の協力とのこと。


 だけど、どんなにグイードが協力してくれようとも、私が好きな人と結ばれることはない。だって私の好きな人とは、彼自身なのだ。


「残念ですが、力にはなれません」


「どうして?」


「だって……」


 ここで本当のことを言えば、彼は私を好きになってくれる? 

 それとも少しは(あわ)れんで、想いを分けてくれるかな?


 でもそれは、愛情ではなく同情だ。私は彼の憐れみではなく、心がほしい。


「無理です。グイード様には、心に決めた方がいらっしゃるのでしょう?」


「それは……」


 グイードは開きかけた口を閉じ、渋い顔で腕を組む。これまで、彼の協力を拒否する者などいなかっに違いない。

 

 たった今断ったばかりだというのに、私は別の女性を想って目を細める彼の姿を、カッコいいと感じてしまう。彫りの深い横顔は、どれだけ見てても見飽きない。


 ――もしもこれがデートなら、幸せだったのかな。空の青と小さな赤紫の花に囲まれて、側には好きな人がいて。


 だけど私の好きな人には、大事な人がいる。

 彼はそのために、私の助けがほしいと願っていた。

 考えただけで苦しくなって、胸に手を当てる。


「それならセリーナ、私に時間をくれないか?」


「時間……ですか?」


「ああ。さっき君は、叶わぬ恋だと言ったね。それなら私にも、望みはあるはずだ。短い期間でいい、私と付き合ってくれないか?」


 グイードの言い分が、よくわからない。

 私の失恋と彼の望みが、どう関係するのだろう?


 左右に頭を傾げたところで、ふいに(ひらめ)く。


 ――なるほど。短い期間でいいとは、私を練習台にするのはわずかな時間でいいということか。


 グイードは珍しく必死なようで、『私()付き合って』と言うべきところを、『私()』と言い間違えている。それはたぶん、彼が頼みごとをするのに慣れていないせいだ。私に頭を下げてまで、その女性を手に入れたいと望んでいるらしい。


 グイードにそこまで想われる女性を、(うらや)む私。

『運命の女性』とは、どんな人?

 その人は私以上に、彼を大事にしてくれる?


 彼が選んだのは、私じゃない。

 私なら即OKで、喜んで()()になるのに……。


 その途端、『恋人』の単語に愕然(がくぜん)とする。


 ――そうだ。私、恋をしないと死んでしまう!!


 むくわれない恋に時間をかけている暇はない。頭ではわかっているのに、愛されたいと願う小さな私が、心の奥から顔を出す。


 ――短期間、協力するくらいいいじゃない。せっかくだから、恋の仕方をグイードに教われば?


「……セリーナ?」


 低くかすれた声が、私の心に追い打ちをかけた。どこか不安そうな彼の表情も、私の胸を打つ。


「短期間……でしたら」


 言葉がするりとこぼれ出た。

 みるみる晴れるグイードの表情を見て、取り消せないと悟る。


「ありがとう、セリーナ! 決して後悔はさせない」


 次の瞬間、私は彼の腕にすっぽり包まれていた。練習台にまで気を遣うとは、さすがはグイードだ。


 真っ赤になって照れる私と、爽やかに笑う彼。黒い飛竜は全く興味がなさそうに、大きなあくびを一つした。




 とりあえず二ヶ月という契約で、私はグイードの恋に協力することとなった。「なるべく側にいてほしい」と言われたので、どうやら『運命の女性』を嫉妬(しっと)させる作戦らしい。私が相手だと、癒やすどころか疲れそうだと思わないでもないけれど、まあ、なんとかなるだろう。


 帰宅すると、門のところに怒った顔の義兄がいた。

 私達を見るなり、大声で(わめ)く。


「グイード様は、未婚の女性を伴もつけずに連れ出したのですね。その意味を、他ならぬ貴方がご存じないとは思いませんでしたが?」


 オーロフは、相当頭にきている。

 王弟にケンカを売るとはいい度胸だと、感心している場合ではない。

 

「ごめんなさい! それは、私のせいで……」


 いけない。面倒くさい貴族のマナーぶっちぎって出掛けたの、忘れてた。


「無論心得ているよ。だから始めに『全責任は私が取る』と言っておいた。言葉通りに受け取ってもらって構わない」


「なっ……」


 義兄が絶句する。

 無事に帰り着いたから、そんなに驚かなくてもいいと思う。

 

「手続きも踏まず、家族の許可も無く? もちろん特定の相手を作らない貴方に、義妹を渡すつもりはありません」


 うわ、出た。本日のシスコン発言!

 オーロフとグイードは、なぜかそのまま(にら)み合う。

 

「事前に断らず、済まなかった。だが『義妹』だろう? どうしてそこまで干渉する?」


「リーナは義妹ではありません。()()()()です」


「ほう? だが、私にとってもセリーナは大切な人だ。そして、付き合ってほしいという私の申し出を、彼女も快く了承してくれた」


 うん、まあね。短い時間で契約上でも、付き合いは付き合いだ。グイードと運命の女性が上手くいくまで、手を貸すことに同意した。義兄には真実を明かさない方がいいだろう。


「いいえ。私のリーナを遊び相手にするなど、とんでもありません!」


 義兄がグイードに、猛抗議。

 しかしグイードは、涼しい顔で肩をすくめた。


「遊びではなく、いたって本気だ。身を固めるまで、温かく見守ってくれると嬉しい」


 グイードったら嘘ばっかり。

 その気もないのに恋人宣言なんて、どう考えてもおかしい。でもそれを、嘘でも嬉しいと喜ぶ私の方が、もっとおかしい。


「なんだと? リーナ、本当なのか!」


「え? ま……まあ?」


 グイードの顔色を(うかが)いながら答えた。

 シスコンの義兄に反対されるのはある程度予想していたけれど、こんなに激怒するなんて。


「近日中に迎えを寄越す。セリーナ、次はきちんと城で会おう」


 (うなず)く私に、グイードが爽やかな笑顔を見せた。

 義兄はぶすっとしているが、これ以上言っても無駄だと悟ったらしい。

 その様子に満足したグイードが、背中を向けて片手を上げる。彼の姿を見た途端、外で寝そべっていた飛竜のグランが反応して、身体を起こした。


 ちなみにグランは、最後まで私に懐いてくれなかった。背中から降りてお礼を言っても、そっぽを向かれてしまったのだ。


 もしかしてグランは、雌の飛竜?

 グイードの魅力にメロメロだとか?

 空の散歩が楽しかったから、懐いてくれなくてもまあ、いいか。

 

2021年6月15日に

双葉社Mノベルスfより4巻(完結)が発売されます♪ ご興味のある方、web版より濃い世界を楽しんでいただけると嬉しいです(//∇//)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ