初めてのプレゼント
書籍3巻発売記念(祈念?)(o゜▽゜)
3巻より少し前の話です。
「父ちゃん見て! これ、図工の時間に作ったんだ」
あたしは後ろ手に持っていた工作を、父親の目の前に掲げた。得意げなのは、先生やお友達が素晴らしい出来だと 揃って褒めてくれたから。
それは、緑色の折り紙を重ねて作ったクリスマスリースで、真上に黄色い星と赤いリボンが付いている。周りにはいろんな色の紙で折った箱を、プレゼントに見立てて貼っていた。
「そういえば、もうすぐクリスマスだったな」
「父ちゃん!」
クリスマスまで、あと少し。
リースは褒められなくても、父ちゃんがクリスマスを思い出してくれただけで、あたしは嬉しい。
ケーキにイチゴはあるのかな?
大きな鶏肉が食べられる?
去年は最後に残しておいたイチゴを兄ちゃんに取られてしまった。だけど今年は、そんな心配しなくていい。
だって、父ちゃんに引き取られたのはあたしだけで、兄ちゃんと妹は、母親と一緒に暮らしているのだ。
「あたしの代わりに、妹がイチゴを取られるのかな? それはちょっと可哀想だなぁ」
イチゴは最初に食べなきゃダメだよ。気をつけて。
そう注意しとくの忘れてた。
今頃二人は、何をしているだろう?
あたしと違って、美味しいものを毎日食べている?
いいや、考えるのはよそう。
だらしない父ちゃんでも、クリスマスくらいはケーキとご馳走を用意してくれるはずだ。
「そうだ! サンタさんにもお手紙書かなきゃ」
『お人ぎょうのせっとがほしい。一りだけでもいいから、よろしく』
あたしは小学校で習った漢字とひらがなを使って、一生懸命書いてみた。
【まじかる魔女戦士☆】で一番好きなのは、水戦士のりりちゃん。炎のもかちゃんも好きだし、他の子でもいい。ぜいたくは言わないから、サンタさんよろしくね。
ちゃんと見てほしくて、手紙を窓の前に置く。
「サンタさんはおりこうな子の家に来る」と聞いたので、うちにもきっと来るはずだ。あたしは父ちゃんの言いつけをよく聞いて、一人でお留守番できてるよ。
何日か経つと、手紙は窓から消えていた。
「サンタさんが来てくれたんだ!」
手を叩いて喜んだものの、近くにあったゴミ箱を見てがっかりする。
「父ちゃんったら、これはゴミじゃないのに……。ちゃんと『さんたさんへ』って書いてあるでしょう?」
あわてんぼの父ちゃんにも困ったものだ。
それとも、クリスマスのプレゼントは子供だけしかもらえないから、拗ねているのかな?
「じゃあ、父ちゃんにはあたしがあげないとね」
そうは言っても、うちに余分なお金やおもちゃはない。仕方なく、折り紙用の色紙を切り、父ちゃんの欲しがっていた腕時計を作ってあげた。
「喜んでくれるといいな」
クリスマス前日に完成したため、準備は万端。小さなテーブルの上に置き、父ちゃんの帰りとケーキを待った。
けれど――。
*****
「結局、その日はケーキどころか、父親も帰って来なかったんだよな。プレゼントもなしで」
「セリーナ様、何かおっしゃいましたか?」
「いや、別に……」
しまった。作業が苦手だからって、過去に逃げてはいけない。攻略対象への贈り物と聞き、私はプレゼントをもらえなかった子供の頃を、苦い気持ちで思い返していたのだ。
私は今、侍女のコレットの指導を受けながら、フリルの付いたハンカチに刺繍をしている。代わってもらおうとしたけれど、即却下。コレットが言うには、攻略対象へのプレゼントは自分で用意した方がいいらしい。
ボーッとしていたせいなのか、気づけば刺繍糸で反対側の布まで縫い付けていた。
「ああっ、もう! 小学生の時は工作得意だったのに。どこで道を間違えたんだろう?」
不器用な自分が恨めしい。
少しほどいてやり直し。
こんなんで本当に完成するのかと、心配になる。
父ちゃんへのプレゼントが渡せずに終わったため、私にとってはこれが男性への最初の手作り。記念すべき初めてを、よくわからない代物で済ませてはいけない。
「これを見て、彼はどんな顔をするだろう? 喜んでくれるといいな」
端整な顔を思い浮かべながら、一針一針縫っていく。コレットは繕い物をしているらしく、無言で針を動かしている。
「できた!」
目の前に掲げて裏表を確認する。
刺繍は歪んで見えなくもないけれど、苦手な割にはまあまあの出来だ。
私は早速、縫い目をコレットにチェックしてもらう。
「どうかな? これ以上続けたら、刺繍の周りが穴ぼこだらけになる気がするんだけど……」
「そうですね。今まででは一番まともかと」
「それって褒められているのかな?」
「さあ、どうでしょう」
心なしか、コレットが冷たい気がする。
プレゼントを選んでいた時の方が、愛想が良かったような。
「じゃあ、これで終わりだね!」
「まだです。組紐を組んでいませんよ」
「そっちもあったか……」
ため息をつくが、全ては恋をするためだ。
贈り物を渡して、ヤンデレ達の好感度をアップ――。
若干賄賂のような気もするけれど、自分の命が懸かっているので仕方がない。
心をこめた力作を畳んでベッドサイドの引き出しにしまうが、ふと気にかかる。
――彼はどんな顔で、これを受け取ってくれるだろう? もちろん受け取ってくれる……よね?
なかなか機会が訪れず、渡せなかった白いハンカチ。
贈った直後に心臓が口から飛び出そうになるなんて、この時の私はまだ、想像すらしていなかった。
いよいよ2020.12.15に3巻が発売されます(≧▽≦)
全ては、いつも見守り応援してくださるみなさまのおかげ。
本当にありがとうございます<(_ _)>
パワーアップした3巻が、多くの方のお手元に届きますように……




