表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
119/177

恋をしたのに死にそうです

 崖の上の古城、空と海が一番綺麗に見える場所――

 

 王都に戻る少し前。

 私とオーロフは、長く過ごした城の庭に()()()()()()()のお墓を作ることにした。


 セリーナは私。でも本来のセリーナとは、オーロフの義妹の名前だ。

 病弱だった彼女は、小さな頃を除けば外に出たことがなかったという。オーロフからは、「元気になったら外へ行こう。色とりどりの風景を一緒に見よう」と励まされていた。


 優しい義兄が大好きだったセリーナ。

 彼女は異性として彼を愛し、ずっと側にいたいと願う。残念ながら想いは叶わず、セリーナは重い病気のため、17歳で亡くなった。大切な人との記憶を、この身体に残して。


『セリーナのために、何かがしたい』


 そう口にした私に、オーロフはすぐに賛成してくれた。義妹が喜ぶと、海が良く見えるこの場所を選んだのも彼だ。


 空と海の間――


 青い空と海が崖の上から広く見渡せる。

 お墓の前に建物はなく、風が通る開けた場所でもあるので、外の景色を存分に楽しんでほしい。いくら感謝を伝えたくても、私達にはそんなことしかできないから。セリーナの真実は、私とオーロフの二人だけが知っている。

 

 私はお墓に花輪を添えて、彼女に感謝を捧げた。隣ではオーロフが熱心に祈っている。木で作った簡易なお墓は、墓碑名があるわけではなく、何かを埋葬しているわけでもない。花輪がなければ、見過ごされてしまうだろう。でも、立地だけは最高だ。


 ――セリーナ。貴女が私を、この世界に呼んでくれたのでしょう? 貴女がやり直すチャンスをくれたから、私はこれからもここで生きていく。

 

 セリーナに、今幸せだと伝えたい。

 横にはいつもオーロフがいるから。

 彼はセリーナを義妹として愛し、私のこともリーナと呼び、深く愛してくれている。


「セリーナも喜んでいるだろう。どこかで見守っているはずだ」


「そうだといいね。海が好きだと嬉しいな」


 抜けるように青い空に、一羽の白い鳥が飛ぶ。オーロフと二人で見上げると、鳥は頭上を旋回し、水平線の彼方(かなた)に去ってしまった。まるでセリーナの魂が、私達に最後の別れを告げて、飛翔(ひしょう)していくかのように……


 私は遠くを見つめた。


 ――この空の向こう、どこか遠い世界で彼女も幸せだといいな。だって、元ヤンの私が生まれ変われるくらいだもん。心優しいセリーナの方がチャンスはあるはず。もしかしたら彼女も今頃、違う世界で幸福に暮らしているかもしれない。


「リーナ、そろそろ中へ入ろう。風が冷たくなってきた」


「そうだね。また今度来ればいいんだし」


 海辺の古城は結局、クリステル伯爵家の別邸としてオーロフが買い取った。理由は、私が気に入ったから。間もなく王都に戻るとはいえ、休暇のたびに遊びに来ることができるのだ。ここにあるセリーナのお墓も、誰にも邪魔されず、大切に守っていける。


 それにしても、城をまるごと購入って……伯爵家、実はお金持ち? 



 *****



 王都に戻った私達。

 両親は私の記憶が戻ったことを喜び、安心して遠方にある伯爵家の領地に引っ込んだ。そのため、オーロフとの生活は続く。


「リーナ。今日はまだ、愛していると言ってなかったな」


 オーロフが後ろから私を抱きすくめ、耳元で囁いた。

 結婚式まであとわずか。

 でも婚約期間中、ずーっとこれなのだ。

 義兄として過ごしていた時期も過保護だったけど、婚約者になってからはもっとひどい。もし旦那になったら、これよりもっと甘々に!?


「いや、もう十分だよ? 毎日聞かなくても、さすがにわかっているし」


 考えただけで恐ろしい。

 私はいいとしても、糖分過剰で周りの人に不快感を与えていないだろうか?


「では、言葉じゃなく態度で示そう」


 長い指で私の頬を辿るオーロフ。

 私は正気を保とうと、慌てて考えを巡らせる。


 ――態度って何? 幸せなら手をたたこう、とかそんなやつ?


「それは別にいいや。それより仕事は? 昨日も早く帰って来たけど、今日はまだ城に行かなくてもいいの?」


「今日は休日だ。当然、昨日の分は全て終わらせてある。何かあっても、ヴァンフリード様が頑張ればいい」


「オーロフ、頭が良いのはわかるけど……。もしかして、早過ぎてみんながついて来られないだけなんじゃない?」


「何を言う。時間内に仕事を終わらせるのは、基本中の基本だ。愛しい婚約者の元に早く帰ろうとして、何が悪い?」


 貴方こんな性格だっけ?

 城のみんな――特にヴァンフリード様に、迷惑をかけていないといいけれど。


「私一人が抜けたくらいで、執務が滞るようでは困る。元々秘書官を当てにしなくても、ご自分で何でもできるお方だ。国王になられたからといって、甘やかすつもりはない」


「国王陛下を甘やかすって……。あ、それなら出掛けようか? 確か、この近くで王城の騎士達が演習するって噂が……」


「却下だ」


「どうして? せっかくだから見に行こうよ」


 貴重なバトルが見られるのだ。

 二人きりの生活に不満はないが、最近外出していない。結婚前だからか、なぜか城に行くのも禁止で、コレットさんにも会えなかった。だったらたまには、スカッと良いもの見てみたい。


「ダメだ。他の男が視界に入る」


「はい? だって演習を見に行くんだし、当たり前でしょう?」


「だからだ。お前が私より、強い男に惹かれたらどうする」


「まさかとは思うけど、オーロフ、それ本気で言ってる?」


「当たり前だ。お前は強い者が好きだろう?」


「う……否定はしない。だけど、貴方も十分強いよね?」


「本物の騎士には(かな)わない。剣の腕はジュールの方が上だし、槍はグイード様やヴァンフリード様の方が得意だ」


「あーのーねー。強けりゃいいってもんじゃないでしょう? それに私は、強さだけで貴方を好きになったわけじゃないけど?」


 そうなのだ。

 以前――元ヤンだった頃は確かに、ケンカが強い方が好みだった。人間、腕っぷしが一番重要だと考えて。けれど私は貴方から、優しさや思いやり、心の強さも人には必要だと学んだ。オーロフの相手を丸ごと包みこむ、温かく大きな心に私は救われた。


 ――私が好きなのは、そのままの貴方だよ?


 頭が良いくせに、オーロフったら肝心なところをわかっちゃいない。そんな彼に、私はこれから一生かけて「好きだ」と伝えていくつもり。彼を愛しているから、未来をともに歩みたい。


「そう。それなら私のどこが好きなのか、直接聞くことにしようか?」


 オーロフがすんごくイイ顔で言ってきた。


「……え? ここでいいのに、何?」


 私を横抱きに――いわゆるお姫様抱っこって、この体勢、まさか! 

 またもや昼間っから!? 

 それ絶対、話を聞くんじゃないよね?

 家のみんなもいるし、恥ずかしい。


「私達、まだ結婚してないんですけどーー!!」

「それが何か?」


 暴れる私をものともせず、オーロフが妖しく笑う。


 使用人達は全員知らんぷり。

 いや、むしろ微笑んで応援しているような? 侍女のオルガさん、ガッツポーズ見えてるよ? 最近彼女はいそいそと、空き部屋を子供部屋へと変えている。


 オーロフが階段を上り、長い足を進めて主寝室へ向かう。喉の奥で笑う声、大好きな金色の瞳が私を見つめ、楽しそうに(きらめ)めく。

 もちろん私は彼を引き()がそうと、今日も(はかな)い抵抗をする。だって部屋に入ったら最後、きっとまた夕食時まで放してもらえない。


 ねぇ、ちょっと聞いていいかな?

 毎日たっぷり愛されて、死にそうなんだけど。

 これってたぶん、幸せなんだよねーー!?

 


         オーロフ編 END

オーロフ編、最後までお付き合いくださって嬉しいです(*^▽^*)。


『転生したら武闘派令嬢!?~恋しなきゃ死んじゃうなんて無理ゲーです』

素晴らしいイラスト付きで彼らが形になりました!

これも全ては、読んで応援してくださったみなさまのおかげです。

本当にありがとうございます。


優しい方々に、感謝を込めて きゃる

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] グイード様編はないのでしょうか? 一番好みのキャラクターだったので、読みたいと思ってしまいました
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ