表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
全滅まであと何日  作者: taki
第四章〜ジャングリラ大陸編〜
79/79

79.ヌマグチ

 デルクク村では、オリバーを背負ったゾエが、タパ川をめがけて疾走していた。

 川はすぐそこだ。だが、背後から不吉な羽音が聞こえてきた。ヤバネスズメバチが、間近に迫っている。

「もういい。おろせ、ゾエ」

 オリバーは体をのけぞり、ゾエの手から草地へ転げ落ちた。

「ゾエ。竹筒に水を」

 オリバーが叫び、おぼつかない手つきで鶯色(うぐいす)のヌマグチを開き、ネバグモの糸を放る。一匹の蜂はそれで捕まえた。だが残りの二匹はうまくよけ、接近してくる。ゾエは動揺しながら、竹筒を川のなかへ突っこむ。

「さっきの要領で。やって」

 オリバーはまた糸を放る。さらに一匹、捕獲した。最後の一匹はもう目の前だ。ゾエは蜂の羽の方に竹筒を向け、押し棒をつっこむ。水が勢いよく噴射し、蜂の全身にかかった。蜂はそのまま地に落ちた。

「今だ、ナイフを」

 オリバーは自分の額を指さした後、蜂を指さす。ゾエは唇をきゅっと引きむすぶ。それから腰のナイフを取りだし、額めがけて投げつけた。


 その頃、ヌマグチのなかに身を隠した一行は、息をひそめて外の様子を伺っていた。

「なかからはヌマグチって、閉めきれないの」

 少しだけ開いてるヌマグチの入口を見つめ、隣のロイが怯えた。

「うん、多分、袋の口を紐で結ばないとダメなんだ。それに、閉めきったら息もできなくなる」

 スカイも外を伺う。蜂が何匹か行き来しているが、触角がないためか、こちらの存在に気づけないらしい。

 スカイは振りかえり、改めてヌマグチの内部を見渡す。薄暗いこの空間は、スカイがキングロータスの沼で捕まえた巨大蛙以上に大きく広く、天井が高い。壁は、あの蛙の胃袋らしく、弾力があってブヨブヨしており、手すりのようにつかむことができる。そのなかには、過去に放りこんだ石やガルシアにもたされた大量の矢、瑠璃蜜(るりみつ)の小瓶、モルグル王国でもらったセカラシカウールのほか、布にくるまれた包みなどで散らかっている。包みの中身は保存食用にと、朝にスカイが捕まえたハトの丸焼きで、焼け石も一緒に入っている。


「みんな、無事か」

 少し離れたところから、ドミニクが声をかける。

「俺とロイは大丈夫。みんなは」

 スカイは壁ぎわに座りこむ村の男達を、心配して見やる。

「ショックを受けてる。お前らグリフィダ人と違って、我々は蜂に慣れていない」

 ドミニクの言葉をロイが通訳する。それもそうだろうとスカイは首を縦にふる。それから、落ちていた瑠璃蜜の小瓶を手に取り、皆の前に回りながら差しだした。

「気つけ薬になるよ。舐めて」


 一方、スカイ達を見失ったガブリエラは、宮殿内の二階を探しまわっていた。

 つい先ほどまで、人間はいた。その体温を感じていた。だが、こつぜんと姿を消した。どこに隠れた。屋根裏か。外へ逃げたか。

 ガブリエラは東端の部屋の柱に寄りかかる。普段、自分が入ることのない部屋だ。そこには木製の、扉のない飾り棚がいくつか置かれ、棚板の上には花瓶や彫刻が並んでいる。ふと、変わったものが目についた。紫色でイボイボの、奇妙な袋だ。ガブリエラはそれを手にとり、()めつ(すが)めつ眺める。そこへ、部下達がやってきた。

 お互い耳が聞こえないが、人間が見つけられないと訴えているのは分かった。ガブリエラは頷き、ヌマグチをつかみあげると、三階の執務室へと上がった。


 その間、ヌマグチのなかで、スカイ達は必死に耐えていた。

 空間が激震する。誰かがヌマグチの口を閉じ、持ち歩いているのだ。おかげで視界は真っ暗で、皆はそろって、回転する空間内を転げまわる。まるで荒波に揺られる漁船だ。石がぶつかってきて痛いし、吐きそうだし、実際に何人かが吐いていた。いつまで続くのかと滅入っていた頃、ようやく回転は収まった。


「みんな無事か」

 ドミニクの声がする。

「俺はここにいるよ」

 スカイは声をはりあげて応答する。

「僕も」

 今度はすぐそばから、ロイの声が聞こえる。スカイは誰かが近づいてくる気配を感じとる。最初がロイ。次がドミニクだ。三人は真っ暗闇のなかで、互いの手をとり合う。

「どういう状況なんだ、これは」

 ドミニクが尋ねる。

「多分、このヌマグチを蜂人が持ち歩いてるんだ」

 ロイを介して、スカイが答える。

「我々は囚われの身というわけか」

「うん」

「どうする、これから」

「次に口が開いた時にダッシュで出て──」


 そうスカイが言った途端、眩しい光が差しこんだ。さらに新鮮な空気が流れこんできた。助かった。そう思ったのも束の間で、黒いY字型の何かが突撃してきた。スカイはとっさにロイの身をかばった。二人は伏せたまま転がり、そばの石ころとともに空間の壁にぶつかった。スカイはその柔らかい壁をつかみ、どうにか中腰で立ちあがり、背中の弓を手にとった。

「スカイ、あれ──」

 ロイはふらつき、スカイの服の袖にしがみつく。

「みんなにかまうな。もっとこっちへ」

 スカイはそのおぞましい光景に絶叫したいのに、ロイを誘導しながら自制した。目の前で巨大な蜂人の前足が、二本の鋭い爪を使い、ガリガリと音を立て、空間全体をかきまわしている。近くで村の男の体が、いとも簡単に切断された。

 スカイは恐怖し、身を固くする。ロイと自分が立っているのは、袋の出口のすぐ脇あたりだ。角度からいって爪が届かないのが分かる。スカイはじりじり出口に近づき、外を見ようとした。そして背筋が凍りついた。大きな個眼が集まる、巨大すぎる複眼が見えた。


 まさにその複眼で袋のなかを見ていたガブリエラは、暗闇のなかで生き物が動く気配を感じとった。何かいる。虫か。鳥か。ガブリエラは袋をひっくり返した。


 ヌマグチの内部は激震した。激しく揺さぶられながら、明るい出口の位置が九十度回転した。スカイはそばの柔らかい壁をつかみ、持ちこたえた。ロイも真似した。ありとあらゆるものが転がり、音を立てながら、真下になった出口へ落ちていく。そのなかには、仲間だった男達の亡き骸もあった。スカイは目をつぶり、収まるのを待った。


 一方、ヌマグチから大量に出てきたものを見て、ガブリエラは驚愕(きょうがく)した。目の前には大量の石と人間の死体が積まれている。

「これは一体全体……どういうことだ」

 ガブリエラはひとりごとを言い、しばらく思案した。部下を呼ぼうか。いや、呼ぶほどでもないのか。ガブリエラはヌマグチの口をぐっと引っぱる。想像以上に伸縮性に富み、大岩でも飲みこみそうだ。

「人間の秘密基地か?」

 ガブリエラはくすくす笑って、ヌマグチのなかへ侵入した。


 揺れが収まり、スカイとロイは壁によりかかり、息を整えていた。一体何人死んだのか。薄暗がりのなか、動いているのはロイしかいない。

「ロイ、大丈夫か──」

 突然、誰かの手で自分の口が塞がれた。驚いて目を見開くと、ドミニクの手だった。もう片方の手で、ドミニク自身の口に人差し指を立てている。


 大量のセカラシカウールに隠れながら、ドミニクが見ている方を、スカイもロイも見た。再び出口の位置が九十度回転し、側面の位置に戻っている。そこから這いながら入ってきたのは、見るからに凶暴そうな蜂人だった。

 本能的に、スカイはそれが女王蜂だと悟った。蜂人の姿だと女王蜂も働き蜂もパッと見、大差はない。だが、明らかに違うものがある。殺気だ。怯えや不安が一ミリもなく、ただ人間を探すことだけに貪欲なその生き物は、ヌマグチの内部をぐるりと見まわしている。スカイ達はセカラシカウールに埋もれるように隠れ、息を潜めた。

「ねえ。あいつも耳がなかったよ」

 スカイがつぶやくと、ロイが頷く。

「聴覚はない。この声もたぶん聞こえてないはずだ」

「でも、気をつけろ。奴は蜂なんだ。体温センサーだけは残ってるはずだ」

 スカイはウールごしに、ガブリエラの動向を注視する。せめて地に足をつけず、宙に浮いててくれたら()けそうなのに。八枚の羽はどうしたのか、背中にしまっているようだ。


「俺が(おとり)になる。二人とも逃げろ」

 ドミニクがささやき、ロイとスカイの肩を抱く。

「ダメだよ。全員で逃げるんだ」

 ロイが言い返すと、ドミニクは悲しく笑う。

「全員? もう俺達しか生き残ってねえのに」

「でも……」

「ここがバレるのも時間の問題だ。いいか、俺が奥に向かって走るから──」

 ドミニクが言いかけたとき、スカイは足元を見た。ハトの丸焼きを包んだ布だ。焼石のおかげで、触るとまだ温かかった。


 そこから少し離れた場所に立つガブリエラは、出口の薄明かりを頼りに内部を見回し、感動していた。

 不思議だ。人間はなぜ、このようなものを創りだすことができるのか。蜂人には到底できない代物だ。ガブリエラはワクワクした。


 ふと、何かが目の前を横切った。何だろう。ガブリエラは振動をキャッチし、それが着地した方を歩く。近づくほどに温かさを感じる。

 いる。ここに。ガブリエラはそれを前足でつかみあげた。その拍子に、焼け石が巻き布からこぼれ落ちた。それが後ろ足の上に落ち、あまりの熱さに悲鳴をあげた。

 まさにそのときだった。ヌマグチを脱出したスカイ達が、袋の口を固く縛りあげた。

今回で第四章の最終回といたします。次回「第五章〜アイスノウ大陸編」は鋭意、制作中です。ご期待ください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ